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【SQEXノベル大賞受賞】私を殺す攻略対象と、赤い糸でつながっているのですが!?  作者: 新 星緒


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13・2 罠

 図書館の大階段をのぼる。

 エメリヒは騎士団へ行く日なので、今日はひとりで調べ物。

 魔術師リンネル様も、赤い糸のことは私たちが知っていること以上のことは知らないそうだ。

 ただ、教皇様もリンネル様も同じことを言った。


『運命の伴侶以外に、意味があるとは思えない』


 そうだったら、嬉しい。

 というか、今ではそれしかないのではと思っている。

 

 ――エメリヒと繋がっているとわかったときとは、正反対の気持ちだわ。不思議なものね。


「ロンベルのご令嬢!」

 私の名前が、辺りに響き渡った。振り返ると近衛騎士が血相を変えて走って来る。

「精霊姫様を見かけませんでしたか!」

 ええ?

 不穏な問いかけに、不安になる。


「いいえ。アドリアーナがどうかしたの?」

「見失ってしまったのです。どうもリリアン嬢から手紙を受け取っていたようで」

 リリアン様? 歓迎会でアドリアーナに攻撃をしかけた、あの子?

 学校はずっと欠席していると聞いているけど、まさか思いつめて……?


「今、手分けして探しているのですが、みつからないのです」と不安そうな近衛騎士。

「私も探すわ!」


 階段を駆けあがり図書館に入ると、入り口のそばにいる司書にアドリアーナが来なかったかを尋ねる。

『見ていない』との声に、すぐにとって返す。

 階段下にまだいた近衛騎士に、ここにはいないみたいだと伝えた。


「まだ探していない場所は?」

「恐らく」と近衛騎士は、困ったような顔をした。「講堂です。あそこは中も裏も、許可がないとダメですから」

『講堂裏』という言葉に、勝手に体が反応してぶるりと震えた。お腹の奥が気持ち悪い。

 私にはコンラッドに攻撃された恐怖が、残っているみたいだ。

 だけど今はひるんでいる場合ではないのよ。

 アドリアーナが近衛騎士の目をかいくぐって姿を消すなんて、通常ではできるはずがないもの。


「あなた、許可取りをしてきて。私は先に行っているわ」

 そう伝えると、恐怖を追い払うかのように全力で走り出した。


◇◇


 講堂は鍵が閉まっていて、中に入れそうにはなかった。

 深呼吸をして裏にまわる。 

 左手が建物で、右手が林。ぱっと見たぶんには誰もいないけれど、林の奥にいたらわからない。


「アドリアーナ! いる? いたら返事をして!」

「……ラ……さ……」


 声がした!

 でも明らかに普通の状態じゃない声だったわ。

 近衛騎士の到着を待ってなんていられない。


 覚悟を決めて林の中に駆けこむ。


「アドリアーナ! どこ? アドリアーナ!」

「……ラウラ……さま……」

 声を頼りに彼女を探す。

 そして必死に林の中を彷徨ってようやくみつけたのは、切り株の上に置かれた、二枚貝だった。中の真珠がかすかに震え、

「ラウラ様」とアドリアーナの声を出す。


「どうだ? 私をやりこめたつもりの魔道具で、おびき出された気持ちは」

 背後から声がした。

 ゆっくりと振り返ると、コンラッドがひとりで立っていた。醜悪な顔でニタニタと笑っている。


「……アドリアーナはどこ?」

「知るか」

「リリアン様の手紙は?」

「嘘に決まっているだろうが。バカか、まだわからないのか。手紙も近衛騎士も、お前を呼び出す手段だよ」


 近衛騎士まで?


「それなら、みんな無事なのね」

 アドリアーナもリリアン様も。

 彼女たちになにも起きていないことに、ほっとする。


「ふんっ」と嘲るようにコンラッドは笑った。「能天気だな。自分の心配をしたらどうだ」

「これからするわ。私をどうするつもりなの?」

「ここは魔獣が出没する」

「まさか」


 魔獣を呼び出すつもり?

 そんなことができるとは、聞いたことがない。


 それに魔獣に私を襲わせたら、いくら王太子でも前回のような口頭注意だけでは済まない。だけどコンラッドは楽しそうに、


「そのまさかさ」と言った。「ああ、私の身は心配してくれるなよ? 近衛騎士は買収済みだ。証拠は残らない。ラウラが証言できなくなればな」

「私を殺すの?」

「いいや」とコンラッドは嬉しそうに笑った。「だが魔獣だからな。どうなるかは、私にはわからない」


 笑顔なのに、強い怒りが垣間見える。


「そんなに私が思いどおりにならなかったことが許せないの?」

 尋ねる声がふるえた。

「当然だろう! お前のせいで仕事をやらねばならなくなった!」

「あなたの――」

「すべての歯車が狂ったんだ! あんなに私を愛していたアドリアーナがどこぞの馬に乗り換え、周囲からは腫物扱いされる! ずっと完璧な王太子だったのに!」

「それは――」


 かつて好きだった人が微妙な立場になってしまったのは、私だって複雑な気持ちよ。どんなに彼に呆れ果てていても、ざまあみやがれとは思えない。 

 でも、すべてを私のせいにしたあげくに、こんなことをするなんて。


「それに、エメリヒだ!」

 いつのまにか悪鬼のような表情になったコンラッドが、ギリギリと歯ぎしりをしている。

「使えるヤツだと思って重宝してやっていたのに! この私を裏切った! なにが忖度だ!」

「彼やアドリアーナたちだって、あなたに裏切られたと思っているわよ。ずっと信頼していたのだから!」

「うるさいっ!」


 コンラッドが右手を肩の高さに上げた。


「お前が苦しめば、あいつも苦しむ。いい案だろう?」



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