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11・1 お友達のように

 廊下に張り出された中間考査の順位表。

 その前に多くの生徒が集まっているけれど、誰も言葉を発さない。


 実技と座学に分かれたそれは、どちらも一位がエメリヒだった。しかも今まで一位だったコンラッドと圧倒的な差がある。

 おまけに座学の二位は私。コンラッドは実技二位、座学四位という結果だった。


「ど、どうしてだ……」と青ざめ、声を震わせるコンラッド。

「忖度はやめた」とエメリヒ。

「私も」

「なんだ、ラウラもだったのか」

「あなたもだったのね」


 エメリヒと顔を見合わせて笑う。

 彼に好きだと言われてから一週間。結局、以前のようにお友達として仲良くしている。

 エメリヒにそうしてほしいと頼まれたから。でもエメリヒは蕩けるような笑顔で私を見るし、態度も甘い。

 そんな彼を見ると、どうしていいのかわからなくなる。

 好きになるのは怖い。でも私はきっと――


「そうだったのか。まさか俺が君に負けるとはな」

 そんな声がしてアルバンがやって来た。素早く私の手を取る。

 すかさずエメリヒがその腕をつかみ、私から離した。

 にらみ合うふたり。


「アルバン。お父様が正式にお断りをしたはずよ」

「そんなもので、めげる俺ではない」

 きりっとした顔で返答されてしまった。普通結婚の申し込みを当主と本人に断られたら、諦めるものではないの? 


「ストーカー、怖っ」いつの間にかそばに来ていたアドリアーナが私に抱きつく。「ラウラ様、お気をつけくださいねっ! どこの王子殿下も油断がならないのですもの」


 本当にそう。アルバンだけでなく、ドレイファス国のヴィクター殿下も大概しつこい。お父様が裏がないかを調査中だけど、今のところなにもわかっていないのよね。 


「でもアドリアーナも身辺に気を付けるのよ?」

 エメリヒとアルバンの小競り合いを見ながら。アドリアーナに忠告する。

「わかっています」と彼女は微笑んだ。

 今、彼女と常に一緒にいる守りびとはふたりだけ。フランツは歓迎会の日以降、学校を休んでいる。リリアンさんのご実家と揉めているという噂だけど、実際にどうなっているのかはアドリアーナもコンラッドも知らないという。


 この件は、アドリアーナにはだいぶショックだったみたい。彼女は自ら教皇と国王にかけあって、精霊姫のそばにいる守りびとは一度に二人まで、と伝統を変更してしまった。守りびとの生活や人生を犠牲にしないと成り立たないのはおかしいと主張し、また、主張を聞いてもらえないのなら国を出ると脅したらしい。


「大丈夫ですよ、代わりに近衛騎士様たちがいますから」

 そう言うアドリアーナのはるか後方に、近衛騎士がふたりいる。魔法にも優れたひとを選んでいるから、距離があっても大丈夫なのだとか。


「どのみち油断は禁物よ。お互いにね」 

 マンガではアドリアーナが大きな危険にあうような展開はなかった。あくまでふわふわ楽しい恋愛作品だったから。


 だけどマンガには、七人の守りびとがいなくなるエピソードはない。アドリアーナ狙いだったアルバンが私を妃にだなんて言うし、登場しなかった濃いキャラまで出現している。

 これほどまでに展開が違っている以上、のんびり構えてはいけないと思うのよね。


 予鈴が鳴る。

 私たちは「放課後ね」と約束しあってそれぞれの教室に戻って行った。

昨日、たくさんのご評価をいただきました。

ありがとうございます。

お礼にSSを書きました。

お楽しみいただけたら、嬉しいです。


☆おまけ小話☆ 

『エメリヒはがんばっている』

(エメリヒのお話です)


「エメリヒ。ラウラ様をお昼ご飯に誘ったの?」

 三限が終わった後の休憩時間に、アドリアーナが俺の席にやって来ると、そう声をかけてきた。

「いや」

「どうして!」と目を丸くするアドリアーナ。「せっかく今日から自由なのに!」


 アドリアーナはフランツの件で思うところがあったらしい。自ら国王たちにかけあって、守りびと制度を変えた。その結果、俺は『常に精霊姫のそばにいる必要はない』という名目を手に入れた。

 言い換えれば、昼休みをラウラと過ごしてもコンラッドにも誰にも文句を言われない、ということだ。


「エメリヒって案外ヘタレだったんだ。好きな子をご飯にも誘えないって、可哀想」と、いつの間にかやって来た一学年下のノエルが、あざける顔をする。

 腹が立ったのでにらみつけると、ノエルはわざとらしく

「わあ、怖い!」と肩をすくめて、アドリアーナにしがみついた。


 この男は自分の年齢と、男にしては可愛い容姿をうまく利用してアドリアーナとの距離を縮めている。ただそれは悪手だ。彼女にとってノエルは弟分の域を出ていない。本人も気づいているようだが、今更路線変更もできないのだろう。

 大人の魅力担当は(実際にそうかどうかは置いておいて)ケストナー先生だし、友人ポジションはフランツだ。


 ノエルのほうがよっぽど可哀想だと思うが、俺は意地悪くはないから指摘はしない。


「エメリヒ、誘えないの?」とアドリアーナが心配そうに首をかしげる。「私がセッティングしようか?」

「そうじゃない。ラウラは今までずっと友人たちと一緒だった。俺が割って入るのは、よくないかもしれないと考えているところだ」

「なるほどね」

「やっぱり、へたれだ」

 アドリアーナとノエルの声が重なった。


「だって」

 と、ノエルは教室の一隅に目を向けた。そこではアルバンが女子と楽し気に話している。

「うかうかしていたら、盗られちゃうよ?」


「それはない」俺はきっぱりと答えてやった。「ラウラはあいつもエッケルも、どちらも鬱陶しいと言っている。ロンベル公爵が両王子の婚姻を許諾しないことも、確認済みだ」

「さすがエメリヒ。手回しが早いわ」とアドリアーナが笑った。

「次男の俺じゃ、王子には対抗できないからな」

「ポテンシャルは高いのにね」とアドリアーナ。


「どこが」と、吐き捨てるような勢いで、声がした。

 コンラッドだ。俺の死角に立っている。俺には関わりたくないが、アドリアーナのそばにはいたいから、最近はそういう位置にいることが多い。


 もう、アドリアーナの気持ちが彼に向くことはないだろう。だがコンラッドは、それをわかっていない。教えてやる気も起きない。


「まあ、貴族でいられない以上、なにかしら能力がないと悲惨だから」とコンラッドが続ける。「それにしても、あんな生意気で性格の悪い女が好きだなんて、変わり――」


 勢いよく立ち上がると、椅子がガタンと音を立てた。

 振り返れば、険しい表情のコンラッドと目が合う。


「なんだ。私は王太子だぞ?」

「知っている。だから近衛騎士になるのを止めたんだからな」


 コンラッドの目付きが、より鋭くなる。怒りが沸騰しているのが、よくわかる。だが俺も、それ以上に腹が立っている。


「俺の目も曇っていたが、幸い真実を見られるようになった。あとで返せと騒いでも、俺は従わないからな」


 そう言うと、アドリアーナたちに声をかけて教室を出た。

 赤い糸を辿りながら向かう先は、ラウラのクラス。 

 廊下から中をのぞくと、友人たちと談笑している彼女をすぐにみつけた。

 コロコロと楽しそうに笑っている。


 コンラッドの婚約者でなくなったラウラは、以前に比べて自然体で柔らかな印象だ。

 可愛くて、いくらでも見ていられる。


 だが。彼女の瞳にうつる男は俺だけであってほしい。


「ラウラ」と声をかけると、彼女がこちらを見た。

 俺と気づいて、はにかむ。

 きっと俺は、彼女にとって特別な存在になりつつある。だから無理せずゆっくりと、信頼を勝ち取るのだ。


「どうしたの?」と俺のもとにやって来るラウラ。

「コンラッドに苛ついたから、ラウラの顔を見に来た」

 彼女の頬が、ほんのりと色づく。

 すごく、可愛い。


 この顔を見ただけで、俺は幸せな気持ちになれる。


「でも、もう大丈夫だ。ラウラのおかげだ」

「私はなにもしていないわ」

 不思議そうに首をかしげるラウラ。


 俺は赤い糸をつまむと、軽く揺らした。

「それのせい?」

「きっと」

 赤い糸が繋いでくれた縁だからな。  


「じゃ、戻るよ」

 そう言うと、ラウラは片手を胸の高さにあげて小さく手を振ってくれた。

 可愛すぎる。

 ほかの男どもが見ていないか、教室の中を見渡してから踵を返した。


 ……まあ、本音を言えば、威嚇だが。

 アルバンよりもよほど、クラスメイトの男子のほうが俺にとっては脅威だ。


「がんばろ」と呟くと、自分の教室に入った。



 








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