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10・2 アルバンとの第三戦

 講堂内には楽団が奏でる軽快な音楽が流れ、中心部では生徒たちがペアになって踊っている。急遽の開催だったからみんな制服だけど、交流会のような雰囲気だ。


 私とエメリヒはいつの間にかふたりきりになってしまった。

 アドリアーナは先生に命じられて、精霊姫としてふたりの主賓の相手をしている。弟たちも学友のエッケル王子についていなければならないみたいだ。

 彼らのいる場にはエッケル王子の兄であるアルバンがいる。私は近寄りたくない。


 それで彼らと離れて、お友達と合流しようとしたのだけど。またしても園遊会のときのように

「私たちはご遠慮しますわ。オホホホホ」と去られてしまった。

 エメリヒは案外いい人だと、園遊会以降は一生懸命説明しているのだけど、なかなかわかってもらえないみたい。


「どうしてあなたって、私といるときはいつも顔が険しいの?」

「クセかな?」

 エメリヒと私を繋ぐ赤い糸が揺れる。

「なにがクセなものか」と背後から声がした。アルバンだわ。

 振り返ると彼がひとりで立っていた。ギロリとエメリヒをにらむ。

 

「辺りを睥睨して、男どもを近寄らせないようにしているくせに」

「今日はロンベル公爵の命で彼女の護衛をしている。当然、彼女が望まない男は近づけさせない。お前もな」

「小賢しい。それで王子の俺に対抗するつもりか、次男」

「相手が王子だからこその手段だ」


 ふたりがにらみ合う。マンガなら火花が描かれそうなぐらいに激しく。


「アルバン、やめて」

「こいつが」と彼がアゴをエメリヒに向けてしゃくる。「俺の邪魔をしなければ、やめる。ラウラ、今日は俺にエスコートをさせろ」

「お断りするわ。エスコートが必要な会ではないもの。それに私は、あなたの妃にはなりません」

「どうして」とアルバンが私の手を取った。切なそうに見える表情をしている。「俺はこんな態度急変男とは違って、最初から君を見ていたぞ? だからこそ相談にも乗ったんだ。他国の王太子の婚約者を口説くことはできないから、君が自由になるまで恋心を伝えなかっただけで」


 そ、そうなの?


「騙されるな、ラウラ」とエメリヒ。「そいつの常套手段だ」

「ええ?」

 アルバンが顔をしかめ、

「勝手なことを吹き込むな」と怒る。「ラウラ、俺は本気だ。信じてくれ」


 彼の顔をみつめて考える。私にはどちらの言い分が本当なのか、判断できる材料がない。ただ――

「あなたを信じる信じないの前に、王子妃になりたくないの。もう王族に振り回されるのははうんざり」

「俺はコンラッドとは違う」

「でも自分勝手で、私の気持ちを無視してばかりいるわ」


 手を強く握りしめられた。アルバンの表情は、明らかに怒っている。

「君とて俺の気持ちを無視している。なぜ受け入れない。そこの次男よりよほど幸せにするのに」

 非難する口調に恐ろしくなった。でも怯えてはダメよ。冷静に対処をするの。でも言葉が通じないひとにどうやって?


「やめろ、アルバン」

 と、エメリヒが私の手を離さないアルバンの腕に、触れた。

「彼女を怯えさせては、お前も本末転倒だろうが」

 アルバンはエメリヒを睨んだ。けれど、手を離してくれた。そして、

「頭を冷やしてくる」と一言、踵を返す。


 去って行く彼の背中を見て、ほっと息をついた。

「ありがとう。助かったわ」

「いや。大丈夫か」とエメリヒが私の手を取る。「だいぶ強く握られただろう」

「ええ。ちょっと痛いけれど、たいしたことではないわ。でもあのひと、どうかしたのかしら」

 いつもなら、ちょっと冷ややかな態度をとったくらいでは動じない。なのに今日は沸点が低いようだった。


「焦ってんだろ。弟と役人まで来てるのに、ラウラのとなりに他の男がいるから、面目丸つぶれだ」

「自分勝手だわ」

「だな」

 そうね。やっぱり『父の命令』という名目は必要ね。エメリヒをアルバンから守るためにも。

「巻き込んでごめんなさい」

「俺が守るって言っただろ」


 エメリヒがふわりと微笑んだ。

 とたんに私の心臓は跳ね上がる。


「……あなたの笑顔は見慣れないから嫌いだわ」

「それは困るな」と彼は笑みを深くした。




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