7・2 アルバンの申し出
精霊姫と仲良く腕を組む私の姿に、園遊会会場の大人たちはざわついた。
しかも私たちの後ろには、私との婚約が解消になった王太子が金魚のフンみたいにくっついているのだから。
そしてアドリアーナの言ったとおり、早々にアルバンがやって来て、私にエスコートを申し出た。
と、同時にエメリヒが私の前に出る。
「今日は私が彼女のエスコートをしています。お許しを」
……え? 言葉遣いが。
エメリヒの顔を見ると、普段とは違って表情がまったくない。
そうか。学外だから、エメリヒとアルバンは公平な立場ではないのだわ。
「お前が遠慮しろ、次男」とアルバンが笑みを浮かべて言う。
「断ります」
私はエメリヒのとなりに並んだ。
「事情があって、彼にエスコートを頼んでいるのです。それにお気持ちはありがたいですけど、異国の王子殿下のお手を、煩わせることはできませんのでお許しください」
最上級に優雅に見えるカーテシーをする。
ここで無理強いをすれば、彼の評判が下がる。それぐらいの判断はつくひとのはず。
「――そうか。では仕方ない」
彼から引き出せた言葉にほっとして、居ずまいを正す。とたんに右手を取られ、甲に口づけられた。
「では、次の機会は俺にエスコートをさせてくれ」
そう言い残すと彼は颯爽と去って行った。
「どうして急に私に執着し始めたのかしら」
「ラウラ様が素敵だからです!」と憤慨しているアドリアーナ。
「そんなことは――なにをしているの?」
エメリヒが私の右手を取って、甲をハンカチで拭いている。
「イヤだろ?」と真顔での質問。
「戸惑いはあるけど……不敬にならないかしら?」
他国とはいえ、まがりなりにも王子よ。触れられたところをこれみよがしに拭くのは、いかがなものかと思うのだけど。
「いいことを思いついたわ!」
アドリアーナはそう言ったかと思うと、私の右手にむかって浄化の魔法をかけた。精霊力が必要なもので、彼女にしか使えない魔法だ。そんな貴重なものを、私の右手に!
「よし」と良い笑顔のアドリアーナ。「これで安心でしょ?」となぜか彼女はエメリヒに向かって問いかけた。
「ふたりもどうして、そんなに私に過保護なの?」
答えはない。助けをもとめて守りびとたちを見たら、コンラッドを除いた五人がいっせいに肩をすくめた。でもそれだけでは足りないと思ったのか、フランツが
「お前はアドリアーナの初めての同性の友人だからな。浮かれているんだよ」と教えてくれた。
そう言えばマンガでもリアルでも、彼女のまわりにいるのはいつも守りびとだけだった。
「なるほどね」
納得だわ。
「一応アルバンを追い払えましたけど」とアドリアーナ。「今日はずっとエメリヒのエスコートを続けさせてくださいね」
「ええ」
「じゃ、私は教皇様に挨拶に行ってきますから。エメリヒ、ラウラ様をお願いね」
え、もうアドリアーナは行ってしまうの?
エメリヒとふたりきり?
どうしよう。急すぎる。さっきは、しばらくみんな一緒という感じだったのに、不意打ち過ぎない?
エスコートだから、腕に手をかけたりしたほうがいいかしら?
でも、ええと――。
「俺のことは護衛と思えばいい」
かけられた声に、いつの間にか地面に向けられていた視線をあげる。
険しい表情のエメリヒ。
そう、護衛ね。護衛。それなら安心だわ。
「約束している友人は? 探すか?」とエメリヒが尋ねた。
「ええ。同じクラスの――」
私たちは並んで歩き出す。赤い糸は繋がっているけれど、お互いの間には人ひとり分のスペースがある。
「ねえ、私と一緒のほうがいい事情ってなに?」
「……話せない」
「そう」
アドリアーナは知っているのに?
でもそうよね。最近はよく話すというだけで、私たちは友達でもなんでもないもの。




