ヴォルフ
「紹介するわね、こちらキリサキアキラ」
「ど、どうも……」
晃がぺこりと頭を下げると、ゴムリはじろっとアキラをみやり、
「なんでい、弱そうな人間だな。エレネ、おまいさんの婿かい?」
そう言ってがはははと笑った。
「ちょっと、すぐそっちに話を持ってくのやめてよおじさん!」
エレネは笑いながら「違うわよ」と否定すると、晃に剣を出すよう言った。
布袋から剣が取り出されると、ゴムリの表情が変わる。
「なんでい、そりゃあ……どこで手に入れた!」
晃が事の次第を説明すると、ゴムリは「うーん」とうなり、パイプをとると火をつけた。
「なるほど……そいつぁ不思議な話もあったもんだ。んで、それを俺の所に持ってきてどうしようってんだい?」
「鞘を作って欲しいのよ」
と、エレネ。
「鞘だぁ?」
「ええ。このままいつまでも布袋って訳にもいかないでしょ? かと言って物が物だけに抜き身で持ち歩く訳にもいかないし……」
「なるほど。それで俺に鞘を作って欲しいってか……良いぜ作ってやるよ」
「本当に?」
「本当ですか?!」
「ただし!」
二人が顔を綻ばせると、ゴムリはそう言って人差し指を立てた。
「俺ぁ、エレネ嬢ちゃんの事は認めてるが……アキラとか言ったな、おまいさんの事ぁまだ認めちゃいねぇ。俺達の武具は特別だ! 持つ資格のねぇ奴に作ってやる事はできねぇ」
「はぁ……」
「そこでだ!」
なんだかややこしそうな話になってきたぞ……と、晃がゴムリの出す条件を聞こうとしていると、
「今帰ったぜおやっさん!」
ツヴェルクにしてはやけに背の高い少年が現れた。
平均して百五十センチ位のツヴェルク達に比べて少年は晃とほぼ同じくらいの身長である。ひげが生えておらず、耳も尖ってもいない所を見るとツヴェルクの国に暮らす人間のようだ。
「ヴォルフ! てめぇどこで油売ってやがった!」
ゴムリの怒声をへいへいしーましぇんと受け流していた少年は、エレネを見てぱぁっと顔を輝かせた。
「エレネ!」
「こんにちはヴォルフ」
笑顔であいさつするエレネ。心なしか、笑顔が引きつっているような気がする。
「なんだよ、来てたんなら言ってくれよ! 久しぶり……あ?」
晃を見つけたヴォルフは眉根を寄せると、「あんだお前は」と言ってこちらに歩み寄ってきた。
息の当たりそうな距離で晃の顔を、頭を若干傾けて睨みつける。
所謂ガンつけと言うやつだ。
「えっと……」
突然敵意をむき出しにされ、対応に困る晃。
「やめんかい」
ゴムリはいつの間にか持ってきた棍棒でヴォルフの頭を叩いた。
「いてっ」
頭を押さえ、チェッと舌打ちするヴォルフ。
「この子ぁ、アキラと言ってエレネの友達だ」
「へー、そうかよ……」
ヴォルフはジロジロと品定めするように晃を見ると、フッ勝ったなと言うようにニヤリと笑った。
その態度に、眉をピクリと動かす晃。
(なんかムカつくなこいつ……)
そう思ったがなるべく気にしない事にした。
下手に問題を起こして鞘づくりを断られてはかなわない。
「ああ、そうだ鞘づくりの条件だったな」
ゴムリはパイプを吸うと、チラッとヴォルフを見やった。
「こいつと戦ってみるか?」
「へ?」
「そんだけの剣を持つに相応しい男だって事を証明してみせろぃ。ボンクラなら鞘などいらねぇ、身の丈にあわねぇモンなぞ捨てちまいな!」
「ちょっと待ってよおじさん!」
慌ててゴムリに詰め寄るエレネ。
そりゃあそうだよな、と晃は思った。
俺はエルフを三人も倒したのに、ただの人間一人と戦えっと言ったって勝負になるはずがない。最悪殺してしまうかもしれない。
「そんなの無茶よ!」
うんうん。
「アキラが敵う訳ないじゃない!」
ずるっ、とずっこける晃。
(そっちかよ!)
と、心の中で突っ込みを入れる。
「俺は構わないぜぇ」
拳をぽきぽきと鳴らしながら、半笑いでヴォルフが言った。
「やろうじゃねぇの。まさか、怖いなんて言わないよな?」
明らかに見下した顔でそう挑発され、晃の額に青筋が浮かんだ。
「いいよ、やってやる!」
「アキラ!」
エレネは晃の肩を掴むと激しく揺さぶった。
「何言ってんの! やめなさい! あなた自分が何やろうとしてるのかわかってないのよ!」
「そこらへんにしとけー。なぁ、エレネよ」
煙をハーっと吐き、ゴムリはニヤリと笑った。
「こいつぁ、男の戦いだよ。水を差すもんじゃねぇ」
バチバチと火花を散らして睨み合う二人。
若いねぇ、と笑っているゴムリ。
「馬鹿じゃないの……」
あきれ顔のエレネは思わずそうつぶやいた。