土の民
土の民は風の民と仲が悪い。
その一番の原因と言うのは土の民が気難し屋の頑固者ぞろいと言うのに加えて、彼らがどこにでもお構いなく地下王国を作ってしまう所にあるだろう。
気位の高いエルフにはそれが我慢ならず、戦に発展してしまう事も少なくない。
しかし、彼らの作る武具等には風の民の作るそれと比べて非常に丈夫で、特別な力を持つ物が多いため、土の民の作る武器を求めるエルフは後を絶たない。
土の民、通称ツヴェルクの国は当然のようにルノアール公の領地内にもあった。
しかし、現領主の性格から未だ小競り合いが起こった事もない。
むしろ、良好な関係を築いていると言ってもよかった。
「これも、彼らに作ってもらったのよ」
と、森の中を歩きながらエレネは剣を抜いて見せた。
「すっごい丈夫で、岩に叩きつけたって折れないんだから!」
自慢げにそう語る。確かに、エレネの持っている剣は、ルノアール公の兵士たちが持っていたそれとは材質からして違う感じだった。
エレネの話では、その剣に自分で風の力を込め、神具にしたらしい。
「へー、神具ってそういう風に作るんだ」
「私たちはね。ツヴェルク達のはもっとすごい力を持っている事もあるけど」
エレネは森の中でもやけに大きい岩に駆け寄ると、持っていた剣でそれを二回程叩いた。
すると、地響きと共に、岩がスライドし地下へ続く階段が姿を現す。
「ツヴェルクの作ったもので叩かないと扉があかない仕掛けになってるのよ」
どうやって作ったのかはしらないけどねーと、驚く晃に説明し、エリスは階段を降りて行った。
左に、右にとぐねぐね曲がっている階段を四十分程降りた所に、ツヴェルクの王国はあった。
「おお……」
思わず声を上げ、生唾を飲み込む晃。
かがり火に照らされる天井は遥かに高い場所にあり、地下王国と呼ぶに相応しいだだっぴろい空間は数々の重厚な石柱によって支えられている。
地下特有のひんやりした空気も相俟って、まるで神殿のように厳かな雰囲気が醸し出されていた。
「ほら、行くよ!」
地下王国に見惚れていた晃の手を取ると、エレネは歩き出した。
道行く人々がエレネを見てはようとあいさつしてゆく。
ツヴェルクは、大抵の人々が晃の胸の辺りか、それより低い身長で、地面にこするのではないかと心配になる程伸びた髭がなければ子供と間違えてしまいそうになる。
「ツヴェルクはね、あの髭が自慢なのよ。美しく、立派な髭を持っているのが良いとされているの」
ふわふわで気持ちいいんだから、と笑うエレネ。
すたすたとまるで自分の庭でも歩くように進んで行くと、とある家の前で足をとめた。
コーンコーンと、槌を打つ音が外まで響いて来ている。
中へ入ると、眉間にしわを寄せた、いかにも頑固爺と言った風体の男が一心不乱に剣を打っていた。
「ゴムリおじさーん!」
耳を押さえながら、エレネが大きな声で呼びかける。
「ちょっと待ってろい!」
ゴムリと呼ばれたドワーフはそう怒鳴ると、剣を水に浸した。
ジュウッと言う音と共に水蒸気が上がる。
「フム……」
剣をかざし、出来上がりを確認したゴムリはそれを傍にあった石の台に乗せると、
「エレネか、よく来たな。なんのようでい」
しわがれ声でそう尋ねた。