ルノアール公(1)
翌日。
やはりそのままの格好では目立つから……と先生が用意してくれた服を着て晃は部屋のベッドで一人死にそうになっていた。
頭が割れそうに痛い。
「こ、これが二日酔いってやつか……」
吐きそうだが吐けない。
頭が痛くて寝付けない。
地獄のような苦しみだな……と、晃は生涯初の二日酔いに感想を抱いた。
もう酒はあんまり飲まないようにしよう、と心にかたく誓う。
「大変です、アキラさん!」
リエッタが部屋に飛び込んできたのは、一時間後、ようやく頭痛がおさまりはじめ、眠りにつこうと言う時だった。
「ど、どうしたのリエッタ?」
眠い目を擦りながら尋ねる。
「いいから、来てください!」
リエッタは半ば引きずるようにして家の外へと晃を連れ出した。
連れ出されて、晃は目を丸くする。
なんと、甲冑に身を包んだ戦士が三十人程、家の前に整列していた。
家の前に立ち、兵士たちと睨み合っていた先生は、晃をみてニコリとほほ笑む。
「やあ、二日酔いは治ったかな?」
「ええ……まあ……」
それどころじゃないだろー! と全身凍りづけにされた思いの晃。
眠気は一気に覚め、血の気が引いて行くのがわかった。
「昨日、領地巡回をしていた兵士が反乱分子の攻撃を受けたとの報告があった!」
戦士のリーダーらしきやけに背の高い男が声を張り上げた。
「そこの男! 我らと共に来てもらおう!」
「え……あの……」
「――それは、アルの命令なのかな?」
反乱分子を捕えようとリーダーが歩き出すと、先生は晃を庇うように立ちはだかった。
「無礼な!」
と、剣を抜き怒鳴るリーダー。
「貴様がいくらかの賢者とて、ルノアール公へのそのような発言が許されると思うな!」
「ほう……」
先生は眼鏡の縁に指を当て、猛禽類のように鋭い目で兵士たちを睨みつけた。
「ならば、どうするつもりかな?」
ごうっ、とどす黒いオーラが噴出したような気がする。
「まさか、この私と戦うつもりかい?」
殺気を向けられ、リーダーはうっと声をだし後ずさった。
槍を持って整列していた兵士たちにも明らかに動揺の色が見て取れる。
実際には一分程度だったが、晃には何時間にも感じられた。
先生は突然ニコリと笑うと、
「嘘ですよ」
といって、両手を広げて見せた。
「彼をアルの所へ連れて行きたかったのは私も同じ。喜んでついて行きましょう」
「へ?」
突然の展開についていけない晃に、
「行きますよ、アキラ君」
先生はそう言うと、ずんずん歩き始めた。
慌ててその後を追う晃。
「リエッタ、留守番頼みましたよ!」
先生の言葉に、こくんとうなずくリエッタであった。