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レーヴァの炎③

 ベッドの上で上半身を起こし、本を読んでいた先生は三人が病室に入ってくると本を閉じた。

「やあ、三人とも元気そうだね」

 と、笑顔で迎える。

「先生も、元気そうでなによりです」

「こんにちは、先生」

「あの、先生。大丈夫ですか?」

 三人は口ぐちに応えると、ベッドの横に立った。

「医者の話では、後二日もあれば退院できるそうだよ。それにしても、魔獣だからと、他の患者への配慮から個室へ入れられるのは静かでいいんだが、一人だと静かすぎていけないね」

 先生はそう言うと、「それで」と目を細めた。

「私の所へくるとは、なにか困った事でもあったのかな?」

「あ、はい……それが」

 晃が事情を説明すると、先生はそれは興味深いな……と言って顎に手を当てた。

「なるほど……。それは、おそらくレーヴァの本質と関係あるね」

「レーヴァの本質?」

 聞き返す晃。

「そう。レーヴァの炎の本質は怒り。レーヴァの炎は怒りの炎なんだ。だから、君が怒れば怒る程レーヴァの力をより効率的に借りる事ができる。それを利用すれば、もしかするとあの竜を体を貸す事なく倒す事ができるかもしれないね」

「なるほど……」

「つまり、アキラは滅茶苦茶怒った状態であいつと戦えばいいってことね……」

 どうするか素早く思案を巡らせ始めるエレネ。

 怒るって言われてもなぁ……とイマイチピンと来ない様子の晃。

 心配そうに顔を曇らせているリエッタ。

 先生はそんなリエッタの様子をさりげなく見ていた。

 そして、三人が先生と他愛もない世間話をした後、

「先生、ありがとうございました」

 深々と頭を下げ、病室を出て行こうとした所で

「アキラ君」と声をかける。

「はい?」

「悪いんだけど、時間があれば少し君と話したい事があるんだ」

 晃は二人を顔を見合わせた。

 どうぞ、と言うように頷く二人。

「それじゃ……」

 二人と手を振って別れ、晃は一人病室に残ると先生と向き合った。

「話ってなんですか? 先生」

「うん……」

 先生は少し言いにくそうに視線を落とし、

「君のこれからの事だ」

 と話を切り出した。

「俺のこれからの事?」

「君は、黒き竜を倒した後どうするつもりかな?」

「倒した……後ですか?」

 特に何も考えていない。晃はうーんと首をかしげた。

「いや、特には……考えてないですけど」

「君は、自分がどんな状況にいるか分かっているかい?」

 妙に深刻そうな顔の先生。

 なんとなく晃は不安を覚えた。

「いえ……」

 考えた末、慎重に晃が否定の返事をすると、先生は優しい顔で微笑む。

「いいかい、君が戦おうとしているのは……神と言っても過言ではない力を持つ者だ。君が、もしそれを倒したとしたらどうなる? 自分達の虐げてきた平民の中に神の如き力を持つ者がいるとしたら」

 親が子供に言い聞かせるように、ゆっくり丁寧な口調で先生はそう言った。

 その意味するところはつまり

「俺が、今度はエルフの敵になるかもしれないって事で……消されるかもって事ですか?」

「そういう事だよ」

 先生はそう言うと少し哀しげな顔をした。

「人間の中にも、君を利用しようとする者がでてくるだろう。下手をすれば大きな戦争になるかもしれない」

「……俺にどうしろって言うんですか?」

「君は、リエッタの事をどう思ってるのかな?」

 先生は晃の質問には答えず、そう問い返すとじっと晃を見据えた。

「リエッタ……ですか?」

 ふっとリエッタの可愛らしい顔が脳裏に浮かぶ。

 最初に出会った人間で、慣れない世界で不安な自分の心を慰めてくれた事もある。年齢的には妹みたいな感じで、守ってあげたいと思う。

 そんな考えが頭の中をぐるぐると回った。

「リエッタは……」

 どう答えたものかと言い淀んでいる晃に、

「君さえ良ければ、リエッタとどこか遠くで暮らしてもらえないだろうか? アルの力を借りれば君を死んだ……という事にもできるだろうし」

「……」

 突然の提案にどう答えて良いのか分からず、晃が黙っていると先生は窓の外を見た。

「リエッタは……おそらく君の事を気に入っているよ。それが、単なる憧れなのか、あるいは本当に君の事が好きなのかは別としてね」

 少しためらいがちに言葉を紡ぐ。

「……先生」

 晃は目を細め、ゆっくり慎重に口を開いた。

「俺は、リエッタの事が好きです。妹みたいな感じだし、優しい子だから。でも、一緒に暮せと言われても……正直今はなんと答えて良いのか分かりません」

「……そうか」

 先生は穏やかな顔で頷いた。

「いや、そうだろうね。私とした事が……少しばかりでしゃばりすぎてしまったようだ。こればかりは他人がどうこう言う問題じゃない……と、言うかリエッタには怒られてしまうね」

 そう言って少々自嘲気味に苦笑する。

「いえ……」

「ただ、アキラ君。君が持っているその力は使い方を誤れば世界を破壊してしまうかもしれないと言う事は覚えておいて欲しい」

「俺は、そんな事しませんよ」

 晃は安心して下さいと笑って見せた。

「君は、そうだろうね」

 と、先生。

 しかし……と晃の腰に下がっている刀を指差す。

「今は、刀が君を支配しようとしていないからいい。でも、もし君が死ぬような事があれば……レーヴァは君と言う枷をなくし、その体を使って無尽蔵に活動する事ができる。……くれぐれも注意してくれ」

 白骨の戦士と化した自分を想像し、晃は背筋に寒気を覚えた。

「……わかりました」

 神妙な面持ちでそう答え、先生の病室を後にする。

「これからの事……か」

 晃はポツリと呟いた。

 これから、自分はどうすればいいのか。

 リエッタと暮らす自分を想像して、慌てて頭を振る。

「いやいや、いかん……いかんぞ!」

 ぶつぶつと何事か呟く晃を、道行く人々が怪訝な顔で見ていた。

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