ルイーダ防衛戦⑤
ルイーダ防衛戦はとりあえず終わりです。
次はイシュタルさん活躍で修羅場……の予定
「その小僧の体を乗っ取ったか」
エレティコスはブン、と刀を一振りし翼を広げた。
「我を滅するため再び使い手の命を奪うか、レーヴァよ! なぜ、そこまでして我を狙う?! 我らが共に歩めばこの世界を手中にする事すら容易いと言うのに!」
「……お前が今滅ぼそうとしている者達が、私の心を鎮めてくれた。怒りに燃え、世界を焼き尽くそうという私の心を救ってくれたのだ。……貴様にはわかるまい」
レーヴァが剣を構えると背中から紅い翼が出現した。
「冥府へ落ちろエレティコス」
「魂を砕いてくれる!」
両者は翼をはばたかせ、相手に向かって飛ぶと剣を合わせた。
ギリギリと鍔迫り合いをしたのち、エレティコスは距離を取ると突如上空へと飛び上がる。
見上げたレーヴァをエレティコスの放った黒いブレスが襲った。
炎を盾のように自身の頭上に展開させ、それを防ぐ。
ブレスを吐いたエレティコスは肩で息をしながらレーヴァを見下ろし、
「やはり……今のこの体では……無理があるか……」
そう呟くとくるりと背を向けた。
「レーヴァよ! かの地にて待つ。我が全力を持って貴様をうち砕いてやろう!」
そう言い残し、隼のような速さで空を駆けてゆく。
逃げたエレティコスを追おうとして、レーヴァは思い留まると地上に降り立った。
「我が使い手も……これが限界か……」
すっ、と瞳が黒へ戻り、翼と共に剣が纏っていた炎がかき消える。
「う……」
晃はうめき声のような声を漏らすと、糸の切れた人形にように崩れ落ちた。
「陛下?!」
空を駆ける主君の姿を見たシュドライは、人間の姿に戻ると荒い呼吸でこちらを睨む狼を見やった。
「貴様との勝負、一旦預ける!」
ザウラ達に「引け!」と撤退の合図を下し、エルフの馬を奪うとエレティコスの後を追って駆けだす。
「くそ……あいつ……」
敵がいなくなった事で緊張の糸が切れたヴォルフは、ガクッと体を傾けるとその場に伏せるようにして倒れた。
「ヴォルフ!」
それを見たエレネはヴォルフに駆け寄り、体を揺する。
「ちょっと、しっかりしなさいよ!」
「お嬢ちゃん……」
マンサナレスはエレネの肩を叩くと、やめろと言うように首を振った。
「眠っておる」
「さて、なら私もそろそろ逃げるとしますか」
ザウラ達が撤退を始めたのをみて、イシュタルはヴァンに笑いかけた。
「お兄さん、なかなか面白かったわ」
「そ、そうかよ……」
蜂の大群に刺されたと見間違う程顔を晴らしたヴァンは、親指を立てると無理やり笑って見せる。
「俺も、姉ちゃんみたいなべっぴんさんにしこたま蹴られるなんて痛嬉しかったぜ」
「お兄ちゃん!」
アデーレが叱咤するように叫ぶと、イシュタルはクスリと笑った。
「ま、もしかしたらまた会う時もあるかもね」
「その時は夜がいいや」
「冗談は顔だけにして欲しいわね」
そう言い残し、イシュタルは駆けだすと一跳びで城壁の上に登り、戦士達の剣や矢をかわしながら外へと飛び降りる。
ふと、横をみたイシュタルは崩れ落ちる晃の姿を視界にとらえた。
「あれが使い手……まだ子供じゃない」
そう呟き、矢が降り注ぐ中を悠々と逃げてゆく。
「た、助かった……」
オーウェンはそう呟くと剣を放りだし、その場に座り込んだ。
エルフや人間達の狂喜した叫びが大気を震わせ、ルイーダ市内に木霊する。
「やったぜ馬鹿野郎!」
オーウェンは心の底から湧きあがった嬉しさを拳に乗せ、頭上に突き上げた。