ルイーダ防衛戦①
ザウラ達に取り囲まれてから三日。
ルイーダに結界を張る兵士たちは消耗し、次々と倒れていった。
「さて……結界が消えるのも時間の問題じゃなぁ……」
執務室で、椅子に腰かけたマンサナレスはため息をついた。
ルイーダ全体がいまや運命を悟ったように重苦しい雰囲気に包まれている。
「アデーレ、結界は後どれくらい持ちそうじゃね?」
「おそらく……一日と持たないでしょう。後数時間が限度かと」
「そうか……」
マンサナレスはゆっくりと立ち上がり、壁にかけてる剣を手に取った。
「これを手にするのも何十年ぶりかのう……」
懐かしそうに目を細め、剣を腰にさす。
「アデーレや、残っている兵士を……エルフ人間関係なく城に集めておくれ」
「……かしこまりました」
アデーレは一礼し、執務室を後にした。
暫くして、ヨーク城前の大広場に武装した兵士達が集結した。
エルフは結界の維持による消耗で倒れてしまった者が多く、平民兵の半数にも満たない。しかも、その殆どが疲労の色を浮かべていた。
「諸君!」
兵達の前に立ったマンサナレスはそう言うと剣を抜いた。
「もう分かっていると思うが、結界は後数時間の後消える。そうなれば、城を取り囲んでいる敵がなだれ込んで来るじゃろう」
誰一人として口を開くものはなく、兵達は俯いたままマンサナレスの言葉を聞いていた。
「わしは、この町を奴らにくれてやるつもりはない。ただ一人でも戦おうと思う。最期をどう迎えるかは諸君らの自由じゃが、どうせなら奴らと戦おうではないか!」
しん、と静まったままの兵士達。
戦う前から彼我の戦力差は明らかなのだ。
勝ち目のない戦いに挑むか、最期を愛する者達と迎えるか、兵士たちの顔に迷いの色が浮かんでいる。
「……俺は戦うぜ」
最初に口を開いたのは騎士隊隊長のオーウェンだった。
剣を抜き、マンサナレスの横に立つ。
「ここは、俺の生まれ育った故郷だ。嫁も子供もいる。あんな奴らに殺させてたまるか! 可能性がゼロじゃないなら、俺は守るために戦う」
「……私も戦うわ」
剣を抜き、アデーレが一歩前にでる。
「あきらめて毒で死ぬなんて嫌だもの」
顔を見合わせ、ざわめく兵達。
やがて、一人、また一人と剣を抜くと、それを頭上に掲げた。
「ありがとう……諸君らのような戦士と戦える事をシルフェに感謝する!」
かざされた多くの剣を見て、マンサナレスは大きく頷く。
「エルフも人間も今は心を一つにして最大の試練に立ち向かおう!」
オオー! と地鳴りのような声がルイーダに響き渡る。
暫くして、城の地下に女子供が避難させられた。
武器と、いざという時の毒薬も一緒である。
ルイーダの結界が静かに解かれたのはそれから間もなくの事であった。