和解
その頃、火を焚いて晃達の帰りを待つ四人はめいめい手ごろな岩に腰かけ休んでいた。
「馬鹿だなお前は」
ヴォルフの話を聞いたヴァンはそう言うとゴツンと頭に鉄拳を落とした。
「あいてっ」
頭をさすりながら何すんだよ、とヴォルフが口を尖らせる。
「そんな言い方すりゃあのお嬢ちゃんが怒るのは当たり前だろうが。何がなにすんだよだ。ガキのくせに一丁前の口をききやがって」
「ガキは関係ねぇだろうが!」
ヴォルフは立ち上がると、ヴァンを睨みつけた。
「……ヴォルフ君」
横から先生が落ち着いた声で口をはさむ。
「君は今ガキのくせにと言われて腹を立てたけれど、今君が言われた事と、君が彼女に言った事は同じだと思わないかい?」
「……」
眉根を寄せ、ヴォルフは小首を傾げた。
先生は優しい口調で尚も続ける。
「君が彼女を心配して、暴漢に一人立ち向かった事を怒るのは良い。でも、女なんだから逃げろと言うのは……彼女にとっては君がガキのくせにと言われる事以上に屈辱的な事なんじゃないかな?」
「……いや、でも……」
「良いかい、君が親切だと思って人に何かをするのは良い。でも、だからと言って自分の考えを押しつけてはいけないよ。エレネはもう立派に自分の道は自分で決められるのだから」
うっとヴォルフは言葉に詰まった。
そう言えば、晃と話した時も自分はエレネがどう思うか考えず、己が良かれと思う意見を通そうとしていた。
「君がエレネ君の事を心配するのはわかる。でも、彼女の道は他の誰でもない、彼女の物なんだ。なにをするにもそれを忘れてはいけないよ」
「はい……」
神妙な面持ちで頷くヴォルフ。
「ま、分かったんならいいや。そう気を落とすなよ少年。一杯飲もうぜ」
ヴァンはその肩をバシバシと叩くと、懐から酒瓶を取り出し、ふたを開け無理やりヴォルフに握らせた。
「ほら、グッといけよ」
「いや、俺酒はちょっと……」
「なに言ってんだ、こう言う時は酒が一番だろうが」
あ、ここに良い反面教師がいるわとヴォルフは先生の言った事を再確認する。
「先生ー!」
ヴォルフとヴァンが酒を巡って小競り合いを繰り広げていると晃の声が響いてきた。
「お、帰ってきたなお二人さん」
「二人共お帰り」
「お帰りなさい!」
そう言いながら歩み寄ってくる三人に、エレネは「心配かけてごめんなさい」と言って頭を下げた。
三人の後ろでばつが悪そうに下を向いているヴォルフを見やり、
「ヴォルフも……ごめんね。心配してくれてありがとう」
「ああ……」
下を向いてたヴォルフは、上目づかいにエレネを見た。
「俺も……悪かったよ」
「さ、じゃあ無事仲直りも済んだ所で一杯やろう」
うんうんと頷き再びヴォルフに酒をすすめるヴァン。
「だーから、俺酒はダメなんだって!」
その日。閑散とした中継地点に、ヴォルフとヴァンの言い合う声と、一同の笑い声が響いていた。