不協和音②
「まずったわね……」
斬られた足の痛みに顔をしかめながら、エレネは二人の男と対峙していた。
リエッタと薪拾いをしていたエレネは、突然足を風の精霊術で斬られたのだ。
まず、女エルフの足を狙い、動きを止めると共に斬られた恐怖で戦意を削いでしまえば平民の方はどうとでもなるとふんだ男達の思惑は見事に外れた。
足を斬られながらもエレネは戦い、平民は逃げて行ってしまう。
「ま、あっちはガキだったし別にいいやな」
男の一人はそう言うと下卑た笑みを浮かべた。
「ああ。こっちのが丁度食べごろだ」
じりじりと距離を詰めてくる男達。
「ふん、足を少し斬った位で勝ったつもり?! あんた達なんかにはこんなハンデでも足りないくらいよ!」
さあ、どっからでもかかってきなさいとエレネは剣先を揺らした。
それを聞いた男達は顔を見合わせ、ギヒヒヒと気味の悪い笑い声を上げる。
「あー、お嬢ちゃん最高。気の強い女は俺ぁ好きだぜ!」
「ああ、こう言うのこそいざとなりゃ可愛いもんだ」
「……女だからって馬鹿にしてると痛い目みるわよ」
眉を吊り上げ、頬をピクつかせながらエレネは精霊術を使うべく剣を振り上げた。
「――どっせーい!」
突然、一人の男の顔に足がめり込み、地面と水平に吹き飛ぶ。
「ぐぁっ……」
男は傍に生えていた木に叩きつけられ、気を失った。
「な、何だ?!」
突然に事態にうろたえるもう一人の男の首に
「動くな」
後ろから晃が剣を突き付けた。
「た、助けてくれ……」
両手を上げ、裏返った声を出す男。
「なら初めっからするんじゃねぇよ」
晃はゴス、とその後頭部に拳を振り下ろし気絶させると、
「大丈夫か?」
エレネに声をかけた。
エレネは剣を鞘におさめ、
「ええ。問題ないわ」
と言って微笑えむ。
「……何が問題ねぇんだよ」
それを聞いたヴォルフが唸るような低い声を出した。
ドカドカと足音荒くエレネに歩み寄り、その肩を掴む。
「……何怒ってるの?」
エレネは眉根を寄せ、威圧するようなヴォルフの視線を正面から受けとめた。
「怒るにきまってるだろ。……なんで逃げないんだよ?」
「逃げる? ……なぜ?」
抑揚の無い、若干低い声で聞き返すエレネ。
「お前、今自分がどんな状況にあったか分かってねぇのかよ?!」
ヴォルフが声を荒げると、エレネは肩を掴む手を振り払った。
「分かっているわよ。別に助けなんかいらなかった。私があんな奴等にやられると思う?」
「足をやられてるだろうが!」
「不意を突かれただけよ。十分勝てたわ」
エレネがやはり抑揚のない声で言い返すとヴォルフははぁ、大きく息を吐いた。
「お前……いい加減にしろよ。いい加減ガキみたいな事ばっかやってないで、大人になれよ」
「……どう言う意味?」
問いかけるエレネの声が若干震えていたが、ヴォルフは気付いていないのかイライラした様子で頭を掻くと、
「いい加減、戦士の真似事なんてやめて女らしくしろって事だよ!」
「――っ?!」
パシッ、と乾いた音が響き渡る。
突然頬をうたれたヴォルフは呆けた顔で頬を押さえた。
「あんたなんか……」
「……エレネ?」
「大っ嫌い」
涙を浮かべ、ヴォルフを睨むエレネは絞り出すようにそう言うと、くるりと横を向き走り出す。
「――エレネ?!」
晃は唖然とした表情のまま固まるヴォルフをちらりとみやり、一瞬声をかけようか迷ったが何も言わずエレネの後を追った。
「……なんでだよ」
ジンジンと痛む頬を押さえながらヴォルフは呟いた。