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ラクストクス

 ルノアール領を出発した一行は、夕方頃ラクストクスの町へ到着した。

 ここは、ライナールと言う貴族の治める町でルノアール領の丁度真下に位置するらしい。

 宿に馬を預け、一階のカウンターでエレネが部屋を取る手続きをしていると、宿屋の主人がニコニコと笑いながら近づいてきた。

「これはこれはお嬢様。ずいぶんと大勢使用人を連れていらっしゃいますね」

 揉み手をしながらそう言う主人は、どうやらエレネをどこかお金持ちのお嬢様がお忍びで旅をしているとふんだらしい。

 実際、上等市民宿に一人で使用人を四人も連れて泊まる者などおらず、一行は明らかに浮いていた。

「よろしければ一番大きい部屋を用意させますよ。それだけ使用人がいるとせまいでしょうから」

 エレネは少し考え、「お願いするわ」と答えると懐からそっと金を出し主人に握らせた。

「私、訳あって色々面白い話を探してるのよ。何か最近変わった話を聞いたりしてないかしら?」

 そう言ってニコリと笑う。

「あ……へぇ! こりゃ……」

 握らされた金額を見た主人は目を丸くし、先程以上に口元を緩めると、

「少々お待ち下さい。すぐに……」

 と言って机を拭いていた平民の少年に「おい!」と声をかけた。

「お前、あの旦那んトコへ行ってすぐに来てくれと言って来い!」

「はい、旦那様」

 ペコリと主人、そしてエレネに頭を下げ少年は駆け足で宿を出てゆく。

「ささっ、こちらへどうぞ」

 主人に先導され、エレネを先頭とした一行は宿の最上階に案内された。

 一室で普通の部屋三つ分の広さがあろうかという部屋に通される。

「御用があればいつでもお申し付けください」

 そう言い残して主人が退出すると、

「なーんかあいつ嫌な感じだよな」

 晃はリエッタに話しかけた。

「仕方ないですよ」

 と、リエッタが笑う。

「本当なら、私達は平民用の宿に泊まらなければいけない筈なんですから」

「……平民用ってやっぱりひどいの?」

「はい」

 馬小屋みたいですよ、説明する。

「基本的にはあたし達はエルフと同じ場所に泊まる事はおろか一緒に食事もできませんし、エルフの経営する店の中には平民お断りっていうのが多いんです」

「ひでー話しだなぁ……」

「まー、ムカつくけどよ。問題起こす訳にはいかねーからな」

「お前がそれを言うか」

 ヴォルフの言葉に、晃が「お前が一番問題起こしそうだろ」と突っ込みを入れる。

 なんとなく、先生やヴォルフがルノアール公の領内で暮らしている理由が分かった晃なのだった。


 エレネはともかく、俺達はあんまりうろうろしない方がいいと判断した晃達は部屋から出ることなくめいめい思い通り事をして時間を潰していた。 

 先生は部屋の片隅でずっと本を読んでいるし、ヴォルフは一人で戦いの練習、所謂シャドーボクシングのような事をやっている。

 エレネはと言えば、剣の手入れをしていた。

 やることの無い晃は壁に背をつけて座り、ボーっと自分のいた世界の事を思い出す。

 もうずっと触っていないパソコン。自分が突然いなくなって向こうはどうなっているだろうか?

 警察呼ばれて、部屋をあれこれ探られたらこまるな。特にベッドの下。そしてPCの中を見られた日には死ぬしかなくなる。

 おそらくは……多分……いやかなりの確率で悲しんでいるであろう親の事を考え、心がチクリと痛んだ。

「――アキラさん」

 ボーっと虚空を見つめ意識をどこかへ飛ばしていた晃は、リエッタの言葉で引き戻された。

 ハッと気づけばリエッタが心配そうにこちらの顔を覗き込んでいる。

「あ、ああリエッタ……どうしたの?」

「いえ、なんだか心ここにあらずって感じだったので」

 リエッタは晃の横に腰かけると、「何を考えてたんですか?」と尋ねた。

「んー、いやね……今頃あっちじゃどうなってるかなーと思ってさ」

「アキラさん……」

 リエッタが心配そうに晃を見上げる。

「いやいや。別に家が恋しい訳じゃないんだよ?! ただ、俺の部屋には見られたくない物とかもあるからさ。見られてたら困るな―って」

 慌てて晃はおどけて見せた。

 家が恋しいだろうと心配されるのはどうも格好悪い。

 その相手が女の子となればなおさら、晃の男としてのプライドが許さなかった。

 そんな晃の手に、リエッタが自身の手を重ねる。

「リエッタ?!」

「自分が慣れ親しんだ場所を恋しいと思うのは当然の事ですよ」

 何も恥ずかしい事じゃありません。リエッタはそう言って微笑むと、晃の手をキュッと握った。

「あ……うん……」

 気恥ずかしくて、前を向いたまま生返事を返す晃。

 手から伝わってくるリエッタのぬくもりに、心が安らかになっていくのが分かった。

 そうして数分が経った時、

 こんこん、と突然扉がノックされた。

「失礼するぜ」

 返事を待たず扉を開けたのは全身黒ずくめの男。

 帽子を、鍔で顔を隠すように深くかぶった男は、鋭い瞳で部屋を見回した。

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