帰路
「あはははは!」
帰り道、ツンデレの意味を知ったエレネはお腹を押さえて笑った。
予想外の受けの良さに、えもしれぬ快感を覚える晃。
お笑い芸人目指そうかな。と、少し調子に乗ってみる。
「お笑い芸人?」
「あー、俺の国の職業」
「へー……」
若干涙目になっているエレネ。
「それにしてもアキラやるね。まさかあのヴォルフに本性出させるなんて」
「いや……まあ、ね。偶然かな?」
「偶然って?」
尋ねられた晃は突然レーヴァの声が聞こえてきた事を話した。
こちらの呼びかけに答え、戦闘を助けてくれた事も。
「今まで何もなかったのになんでなんだろ」
「うーん、それはおそらくアキラがその精霊の名前を知ったのが大きいわね」
と、エレネ。自我のある精霊と意思の疎通を図る時には、名前を知る事が大事だと先生の本で読んだ事があるらしい。
それと、晃が自発的に精霊に呼びかけたのが功を奏したようだ。
「相手の名前を知ってても、相手に話しかけよう、話をきこうとする意思がなければ私たちだって会話できないでしょ」
「なるほど……」
(――レーヴァ……さん)
そう言われ、晃は試しに心の中でそう呼びかけてみた。
『レーヴァデイイ』
すぐに返答が返ってくる。
「あ、本当だ」
「ね?」
エレネは自慢げに胸を張って見せた。
「ああ、後もう一つ聞きたい事があるんだけど」
「なに?」
「さっきヴォルフの本性って言ってたけどあいつって……一体なんなの?」
こんなファンタジー世界だし、今更何が来ても驚く事はないがやはり気にはなる。
「人間だと思ってたらいきなりでっかい狼になるし」
「あー、それはあいつが魔獣だからよ」
と、エレネ。晃が知らなかったのが意外だったようで、
「知らなかったの?」
驚いた様子でそう尋ねてきた。
「知らなかったのって、あんなの見るの俺初めてだし」
「初めて?」
エレネは眉根を寄せると、首をかしげた。
「何言ってるの、アキラ。ヴォルフよりすごい人がもっと身近にいるじゃない」
「え? 誰?」
「誰って……」
エレネは呆れ顔で晃の前に立つと、とある人の名前を口にした。
「先生……クリフ先生よ」