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喧嘩

 「さぁて、ここなら多少暴れても問題ねぇだろうよ」

 辺りを見回し、棍棒を担いだゴムリが満足そうに言った。

 地上へと出てきた晃達は、戦う場所を求めて森を抜け、平原へとやってきた。

 晃は剣を流石にそのまま使う訳にもいかないので布袋に入れたまま構え、ヴォルフは武器を持つ事も、構える事もなく余裕の笑みを浮かべている。

「いいぜ、始めな!」

 離れた所からゴムリが開始を宣言した。

 エレネはと言えば、ゴムリの横でもうどうなっても知らん、と言う様子で事の成り行きを見守っている。

 さてどうするか……と、ぴょんぴょん跳ねているヴォルフを用心深く見ながら晃は考えた。

 敵がどんな手を使ってくるのか全くわからない。自分が今どれだけの力を持っているのかもわからない。

 今になってみれば随分と馬鹿な喧嘩を買ったものである。

 エルフを倒した事で少し思いあがっていたのかもしれない。

(とは言ってもねぇ……)

 男としてはやっぱり引けないでしょう、と戦う気を無理やり引き起こす。

「おい、こねぇのかよ!」

 構えたまま動かない晃にヴォルフは声をかけた。

「なら、こっちから行くぜ」

 せいぜい、死なないよう気をつけな。言い終わると同時に着地したヴォルフは地面蹴って跳躍し、晃との距離を一瞬で詰めた。

 先日戦ったエルフを遥かに上回る速さ。並みの人間なら反応することすらできなかったかもしれない。

 突き出された拳を反射的に剣で受けた晃は、凄まじい力で吹き飛ばされた。

「うおっ」

 地面を転がり、仰向けになった晃の目に、空中から追撃をしかけるヴォルフの姿が映る。

 横に転がり、それを避ける晃。直後、晃の腹があった地面にヴォルフの足がめり込んだ。

「へぇ、やるじゃん」

 転がる勢いを利用して立ち上がり、剣を構えた晃に、ヴォルフは少し驚いた様子でそう言った。

 どうやら今ので決まると思っていたらしい。

 本当なら「なめんなよ!」とでも言ってやりたい所だったが、今の晃にその余裕はなかった。

(あぶねぇ、死んでた。俺マジで死んでた)

 地面に空いた小さな穴を見て背筋に寒気がはしる。

「じゃあ、これはどうだ?!」

 ヴォルフは空高く飛び上がると、落下の勢いを利用して再び攻撃を仕掛けてきた。後ろに跳んでそれをかわす晃。

 しかし、それを読んでいたヴォルフは着地と同時に地面を蹴ると、晃を追った。

 着地を狙われた晃は移動して避ける事ができず、顔を狙った最初の一撃を、上体をそらすことでかろうじてかわしたがバランスを崩した所へ追撃の拳がめり込んだ。

 腹を思い切り殴られ、地面に叩きつけられた事で息が止まる。

 さらに、頭をぶつけて景色が揺らいだ。

(やべ、意識が……)

――アキラ

 その時、朦朧とする意識の中、聞き覚えのある声が頭の中に響いてきた。

「うおっ!」

 倒れた所にとどめの一撃を放とうと拳を振り上げたヴォルフは、突然晃の体が炎に包まれ反射的に飛び退いた。

「なんだ、そりゃあ……」

 炎の精霊術なんぞ聞いた事がない。

 ヴォルフは大きく距離を取ると、どんな攻撃が来るのかと相手の出方をうかがう。

 一方、晃は腹を押さえながら立ち上がり、誰かを探すように辺りを見回した。

 先程の声は確かに聞き覚えがあった。おそらくは、剣に宿っているという女神レーヴァの声。

(……レーヴァ……さん?)

 目を瞑り、心でそう呼びかけてみる。

『アキラ』

 声が返ってきた。

「あ、あの! 俺あなたに聞きたい事があるんです」

『ソレハイイガ』

 見えない力に引っ張られる感覚がして、体が横へ動いた。

 直後、晃の頭を狙ったヴォルフの拳が空をきる。

『イマハマエヲミタホウガイイ』


 流れるように繰り出されるヴォルフの猛攻を、晃は紙一重で全てかわしていた。

 レーヴァの声を聞いてからやけに体が軽くなった気がする。

『ミギノテヲマエヘダセ』

 レーヴァに言われるれるまま晃はヴォルフに向かって右掌を向けた。

 掌から炎が迸り、ヴォルフの体を包み込む。

「ぐっ!」

 ヴォルフは腕を交差して顔を庇うと、横に転がり、次いで大きく跳んで距離を取った。

「なるほど、それがお前の本気って訳かい」

 グルル、と獣のような唸り声を上げる。

 すると、黒い瞳が紅く変化し、黒い体毛がヴォルフの全身を覆った。

 鋭い牙が伸び、やがて三メートルはあろうかという狼へと姿を変える。

「あの馬鹿野郎が!」

 ゴムリはチッと舌打ちすると、棍棒を地面に打ち付けた。

 ゴゴゴッと言う地響きと共に地面がせりあがり、ヴォルフと晃の間に土壁が出現する。

「喧嘩は終いだ!」

「おやっさん!」

「馬鹿野郎! 殺し合いでも始める気かお前は!」

 ゴムリに怒鳴りつけれられ、ヴォルフはしぶしぶ人の姿へと戻った。

「まったくおめぇって奴は! その姿にはなるなと言ってあるだろうが!」

「へいへい、しーましぇんね……」


 ヴォルフがゴムリの説教をくらっている傍らで、晃はぼーっと自分の掌を眺めていた。

『オドロイタカ?』

「いや、そりゃ驚くでしょ……」

 まさか自分の手から炎が出る日が来るとは思っていなかった。

 意外と熱くないもんだな……と素直な感想を述べる。

「アキラ!」

 エレネはそんな晃に駆け寄ると、ばちーんと背中を叩いた。

「いってぇ!」

 飛び上がり、背中を押さえる晃。

「すごいよ!」

 目を輝かせ、エレネはぴょんぴょん飛び跳ねた。

「本当に精霊術使えたんだね!」

「疑ってたのかよ!」

 突っ込んではみたものの、精霊術が使えたのは偶然に近かったのだからエレネの疑惑はあながち間違いとは言えなかった。

「おい、アキラよ!」

 説教を終えたゴムリは、晃に歩み寄ると懐から刃渡り二十センチ程のナイフを取り出した。

「こいつをお前にやろう。明日鞘を取りに来な」

 それだけ言うと晃の腰をバン、と叩き、背を向け歩いてゆく。

「アキラ! 次は決着つけるぞ!」

 捨て台詞を残し、ヴォルフはその後を追った。

「全く、おじさんも素直じゃないんだから」

 腰に手を当て、やれやれと言うようにエレネが首を振る。

「ま、でも良かったじゃない。おじさん、アキラの事認めたみたいだし」

 認めたなら認めたで素直に言えばいいのにねー、と笑うエレネ。

 晃はふーむと考え込んだ後、

「ツンデレおじさん……」

 ボソッと呟いた。

「――ツンデレ?」

 聞きなれない言葉に、エレネは怪訝な顔をした。

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