第64話 運命の日#1
ガタンガタンと小刻みに揺れる馬車の中、一人の令嬢はこれからの行く末を想像してテンション駄々下がりだった。
「ねぇ、本当に行かなきゃダメ?」
そう聞くのは心底嫌そうにしているリビアだ。
彼女が向かっているのは剣王国アウドレッド領。そう、婚約者のいる街だ。
そして、そこでは近々新たな領主の就任挨拶と婚約者の発表が行われる。
そんな質問に向かい側に座るフランメは同情しながら答えた。
「気の毒ですけど、ここで断ればそれこそ問題ですし、もう馬車に乗ってしまった以上腹を括るしかないです」
「でもなぁ......あんな男に恋人ずらされてもなぁ~~」
「気持ちはわかっているつもりです。リビア様には言ってませんでしたが、実のところリビア様宛に届いていた手紙とは別に私宛にも手紙が届いていたんです」
「フランメにも? どういった内容で?」
「どうにも私も気に入られてしまったらしく、リビア様と一緒についてこいとの内容で。
加えて、愛人にしてやるという文章もありまして.......」
「うっわ、マジか! キッショ! 」
「リビア様のお相手の方がまともな人であれば、どうしようもないリビア様の面倒を見なければという使命感のもとついていくのもやぶさかではなかったのですが、もはや火の玉ストレートに下心を見せつけられると........それに私は追われるより追いかけたい質ですし、できれば強気な人をダメにしたいですし」
「いや、唐突に癖を語られても知らないよ。
でも、え、まさか私を、主人を一人にしないよね? ね!? お願いだからそう言って!」
「......」
「穏やかな笑み浮かべなくていいから! そう言って! お願い!!」
そんな親友との楽しい時間を過ごしつつ、「盗賊とかに襲われてなんやかんやあって帰ることになる展開ないかな~」というリビアの思いも空しく順風満帆にアウドレッド領へと辿り着いた。
「待っていたぞ、リビア。ここがこれからお前の家になる。
俺のためによく働け。そして、お前と俺の優秀な遺伝子を受け継いだ子供を作れ。
それがお前のここでの役割だ。いいか、わかったな?」
「ま、前向きに検討します.......」
オラオラとした態度で出迎える婚約者バンズ。
そんな言葉に、嫌あああああぁぁぁぁ! と内なる自分が叫ぶ声を必死に抑えつつ、リビアは滞在する屋敷へと入った。
ぐるりと内装を見渡せば立派な屋敷だ。先祖がさぞ優秀だったのだろう。
それ故に、血筋だけで自分を偉いと過信しているのか、単に生まれつき傲慢なだけなのか。
リビアは答えのない難題を考えようとし、途中で無意味だと気付いて投げ出した。
また、気づいたのは内装だけではない。
入って出迎えてくれた両脇に並ぶメイド達。
その誰もが自分を可哀そうな人を見るような目で見るのだ。
中にはどこか安堵したような表情のメイドまでいる。
それだけでこの屋敷の環境がいかほどかは容易に想像できた。
それから、なんやかんやバンズによる自慢話を聞き流し、自室への誘いを断りつつリビアは客室へとやってきた。
そんなよくやく得た安全地帯でリビアは電池の切れたロボットのように、ベッドにうつ伏せにバタリと倒れる。
「着いて早々自室に招くとか頭イカれてんのかあの男。
こちとら彼氏の家にドキドキしながら来た女の子じゃねぇーんだわ。
どっちかっていうと、人攫いに攫われて無理やり家に連れ込まれた気分なんだわ」
「確かに、アレは酷かったですね。リビア様が家に招かれてから終始肩を組んで、まるで周囲に『俺の女だ。すごいだろ』と自慢してるようにしか見えませんでした。
よく耐えたと思います。私でしたら手を振り払ってアッパーしてたかもしれません」
「実際、私も拳を握る段階まではいってたよ。
でも、脳裏に住む推しに姿を重ねてギリギリ耐えてた。
推しがいて助かったー。いなかったら殺ってたよ」
リビアはゴロンと仰向けに体勢を変えた。
そんな彼女の表情は絶賛曇りである。
「まさかこの屋敷に4日も滞在する羽目になるとは。あぁ、絶対嫌なことが起きる。
3日後のパーティの後、こちらの有無も聞かず自室に連れ込まれる。
そんな未来が容易に想像できる。そんで逃げることはできない」
「下手に拒めば国際問題になりかねませんからね。
それにパーティで婚約者と紹介されてしまった後ではそういった行為は愛の契りだなんだとうやむやにされてしまいますでしょうし」
「そもそもこの場所に私とフランメだけの招待というのが完全な罠よね。
婚約者紹介で父親が来ないってどういう理屈よ?
どう言いくるめたかは知らないけど、お父様もすっかり表の顔に騙されてるとわかったし、わかったところで何もできないのがほんと歯がゆい.......」
「......あの、たぶん私も狙われてますよね?」
「パーティの後は変な薬でも飲まされて二人仲良くバージンナイトじゃない?」
「「ハァ.......」」
未来を憂いてクソでかため息が漏れてしまう二人。
そして、リビアが抗いようもない未来に諦観し、遠くの空を見つめるような目になった翌日のこと。
バンズの誘いから逃げるようにしてやってきた図書室で一人の見慣れぬ少女と出会った。
本棚の前で本を読む少女。今まで見たことのないタイプの人種だった。
大き目の魔女っ娘帽子を被り、黒髪のツインテール。
そんなヲタク心をくすぐるビジュアル。しかも、控えめに言って美少女だ。
すると、向こうもリビアの存在に気付いたのか同じ黄色い瞳を動かした。
「誰?」
「あ、ジロジロ見て申し訳ありません。私はリビア=アルベールと申します。
この屋敷にはご子息様より招待され滞在しておりまして、暇を潰しに図書室を訪れた次第です」
リビアは至極丁寧に自己紹介とこの場に居る理由を示した。
すると、その言葉を聞いて少女は顎に手を当て考え、尋ねた。
「もしかして......あの有名な”黄金の錬金術師”!?
え、有名人じゃない!? まさかこんなところで会えるなんて。
あ、自己紹介が遅れたわね。私はアニリスよ。
ただの冒険者だしフランクに話してもらって構わないわ」
「そう? なら、遠慮なく......」
そう答えつつ、リビアの脳裏には「アニリス」という名前が引っ掛かっていた。
そして、脳内検索をかけた結果、すぐさま情報がヒットする。
「アニリスってあの新進気鋭で知らぬものはいない”満点星団”のアニリス!?
そっちこそ有名人じゃない! 強くて可愛いとか.....無敵か?」
「ほんと一気に砕けたわねぇ。別にいいけど。
確かに、目立ってはいるけど別に大したことをしたわけじゃないわ。
平均年齢も低くて、さらには超レア職業で構成されたパーティってだけの話。
話題に事欠かない私達をもてはやしているだけよ」
「へぇ~、意外と謙虚なのね。私だったら絶対有頂天になってる」
「そっちだって私以上に目立ってるくせに落ち着いてるじゃない。お互い様よ」
その言葉にリビアは苦笑いした。
なぜなら、彼女の精神年齢はとっくに成熟しているからだ。
ヲタク心が時に暴走してしまうことはあるが、それでも基本心は社会の荒波に揉まれたOLのままだ。
故に、それと比べるとアニリスの方がよほど大人に見える。
「それに皆本物の天才ってのを知らないのよ......」
「ん? 何か言った?」
「なんでもないわ。ただの独り言」
アニリスは本を閉じると、その本を持って近くの席に座る。
そして、「少し話さない?」と誘ってくるので、リビアは美少女の誘いに快く乗った。
「それで何を話すの?」
「そうね、私が今気になって調べてることかしら。
ねぇ、この世界を救った勇者って誰か知ってる?」
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