第63話 とある令嬢の14年間#3
「だぁは~~~~、疲ぃかれたぁ~~~~」
バンズが帰った翌日、リビアはデスマーチを終えたOLのように布団に突っ伏していた。
肉体的疲労はほとんどない。にもかかわらず、なんだこの異様な疲労感は。
自分の安置にいるのに片時も気が休める時間が無かった。
「お疲れ様です、リビア様。にしても、まるで変態商人との会談後みたいなご様子ですが、それほどまでに嫌だったのですか? 少なくともイケメンだったと思いますけど」
だらしない主の姿を見ながら、心配そうに声をかけるお世話係のフランメ。
そんな素朴な質問にリビアは枕からしゃべれる程度の口を出して答えた。
「見た目はね。でも、あなたは直接話してないからわからないと思うけれど、二人っきりの時の態度は最悪よ。
なんかオラオラした感じがカッコいいと思っているのか言葉遣いが荒いし、もう自分の女と思っているのか強引に振り回そうとするし、自分の意見が絶対に正しいと思っているのか人の意見を聞かないし、仕舞には人の家で『夜の手ほどきしてやろうか?』とか誘ってくるし。あ゛ぁー! キモ!! 死ね!!!」
「あ.......はい.......それはお疲れさまでした」
さすがにフランメもフォローする言葉が見つからなかったのか労いの言葉だけかけていく。
リビアはその言葉がなんだか余計に今の状況を惨めに感じさせた。
しかし、状況を嘆いても結果は変わらない。
貴族社会とは親の方針に絶対服従なのだから。
「.......わかってるのよ。お父様にもお父様の立場や事情があるからって。
それに私が好き放題やってるのにそれを怒りもせず、楽しそうに笑ってくれて......だから、お父様は好きだし、わがままを聞いてもらった分できる限りお父様には親孝行したいと思ってるの」
「リビア様........!」
「だけど、あの男は無理! 無理無理無理! 無理中の無理! アレだけはない!
まさかお父様の人を見る目がここまでないとは思わなかったわ。
いや、お人好しが過ぎる人だからもしかしたら上手く騙されてるのかも!?
だとしたら、増々怒りが湧いてくる! あ"ー! 死ね! 馬に全身蹴られて百遍死ね!!」
「リビア様.......」
フランメが妙に悲しい人を見るような目で見て来るのをリビアは感じる。
しかし、これが本音なのだから仕方ない。
特に自分はえり好みが激しいタイプとは理解している。
だが、性癖を我慢していたらそれは本当に自分なのか!
「性癖は開示してなんぼ! あなたもそう思うよね、フランメ!?」
「閉じてください。そして、心の中でしまっておいてください」
普通に拒絶されてしまった。なぜだ解せぬ。
そんなことをリビアに思っていると、フランメは何かを考えるように腕を組み、聞いてきた。
「そういえば、リビア様は前々から『推しに貢ぎたい』と喚き散らかしてましたが、結局今までリビア様の好みを聞いてきませんでした。
活動的なリビア様はこれまで多くの若い殿方(主に年上ですが)と出会い、言葉を交わしてきたかと思われるのですが、これといって特定の誰かに現を抜かすといった場面がございませんでした。
リビア様はどのような人物が好きなのですか?」
「私の好きな人を変態と断定しないで!」
とはいえ、推しを語れと言われればその要求を答えないわけにはいかない。
ならば、前世で愛したい推しについて雄弁で情熱的に数十時間にかけて語ってやろう!
「手短にお願いします。鬱陶しそうなので」
フランメがチベットスナギツネのような目でリビアを見た。
まるで長いことが分かっているような言い方だ。
伊達に長年色々な迷惑をかけてきた相手ではない。
リビアは一つ咳払いをすると、ベッドから立ち上がった。
そして、雄弁で情熱的な感情は出来り限り抑えしゃべりだす。
「私がずっと好きだった『アイドルフェスタ』という話はね、アイドルをやりながら陰では悪を裁く怪盗をしているというコンセプトのゲームで、そのストーリーを説明すると軽く数時間が飛んでしまうから後で聞いてくれればいいけど、そのストーリーの中に出て来る仮面の貴人というストーリーで言えばライバルポジションに当たる人物なんだけど、その人物のミステリアスな雰囲気の中に詰まった確かな包容力がすっごい性癖に刺さって、それにキャラデザもねすっごい秀逸なのよ。結局、ストーリーの途中でこっち来ちゃったから仮面の奥の素顔を見たことないんだけど、その人物はどんなイケメンだろうと想像すると夜しか眠れなくなって、気が付けばネットでそのキャラのイラストをあさっている自分がいるくらい好きなキャラで――」
「あー、はいはい。つまり、ダークヒーローが好きなんですね。
あと、なんかちょいちょい聞きなれない言葉ありましたけどそれなんです?」
「そんな簡単な言葉で済まさないで! 推しのキャラが霞む!」
少ししゃべっただけなのに凄く疲れたような顔をしているフランメの様子が気に食わないリビア。
しかし、いざそういう風に客観的に言われると意外としっくり来ている自分がいる。
なんだろうか、一見敵っぽく見えるけど実は正義のために行動している......うん、確かに考えてみればダークヒーローだ。
そりゃ考えれ見れば、ダークヒーローがこんな昼間の世界にいるわけないわな。
どうにも出会いがないと思っていたら、当然の結論だった。
ならば、今度はどうやってダークヒーローに会うかが問題だ。
というか、そもそもダークヒーローっているのか?
「ねぇ、ダークヒーローってどこにいると思う? それに会うとしたらやっぱ闇市?」
「そもそも存在しているかどうかも知りませんし、わかりませんて。
それと凄まじく目立っているお嬢様がそのようなアンダーグラウンドの世界に足を踏み入れるのはおやめください。どんな目に遭うかわかりませんよ」
「そうね、確かにこの身は推しに捧げると決めてるし、汚されたくないしね」
「そうなのですが.......なんかなぁ~」
言いたいことが伝わってそうで伝わってないリビアの様子にフランメは大きなため息を吐く。
そんな主に若干の愛想をつかしているお世話係の一方で、リビアは一つの気づきを得た。
「そっか、考えてみればダークヒーローがどこで活動しているかっていう情報を得る手段が必要よね。
となると、やはり頼みの綱は商人の情報網というわけか........ふむふむ。よし、決めたわ!」
「一体何の悪事ですか?」
「人の行動を悪事と断定しないで! 単に好きな人のことは何でも知りたいという乙女心よ!」
「それを世間一般的にストーカーと言います。で、何をするんですか?」
「商会を作る。つまり、独立よ。ただし、私が表立って動くこと困るかるから、どこか有能で信用のできる人物がトップに立って、その裏でさらに総取締役の自分がいるのが理想的ね。
あ、そう考えると、なんだか社会を牛耳る悪役令嬢っぽくなってきたんじゃない? ニヒヒヒ」
「お嬢様見た目の容姿に対して最悪な気持ち悪い顔と笑い声が漏れてますよ」
「そうと決まれば行動あるのみ! いつでもどこでも偶然を装って出会えるように情報をかき集めるわよ!」
そして、リビアの執念と欲望の行動によって商会が設立され、さらにリビアが考案した一流の最先端商品が並ぶということから瞬く間に有名店へと上り詰め、少しずつ各町に支部を展開していった。
それから月日は流れ、運命の出会いの日まであと3日と迫っていった。
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