第62話 とある令嬢の14年間#2
「よし、いざという時にいくらでも貢げるようにまずはお金を貯めるわ!」
アルベール家嫡子リビア=アルベールはやる気に満ちていた。
そして、“推しと結婚する”という目標を掲げた際に何が一番重要か考えた際、出た結論がそれであった。
実際、推しと出会い、推しを喜ばせるのに何が一番喜ばれるか。言わずもがな、財力だ。
とはいえ、アルベール家は伯爵家であり、両親が真面目なおかげか財力もそれなりにある。
なので、家のお金で貢ぐのが一番楽な方法だが、それはナンセンスだ。
お金は愛である。つまり、自分の稼いだお金で貢ぐからこそそこに得も言えぬ幸福感が生まれる。
一体前世でいくら推しに課金したことか。最低でもウン十万は確実に言っているだろう。
その行動を他人から咎められることもあった。しかし、生きがいならば仕方ない。
人はなぜ呼吸するか、当然生きるためだ。
人はなぜ課金するか、当然これもまた生きるためだ。
しかしながら、お金は空気のように無限ではない。
故に、作る必要がある。なんという世知辛い世の中か。
「その年齢でどうやってお金を稼ぐつもりで......?」
「決まってるじゃない。頭よ」
「まぁ、リビア様は何かと奇想天外なことをしますけど......」
リビアが人差し指でこめかみを叩いてアピールするが、フランメにはあまり伝わっていない。
いや、理解しているだろうが、現実味がないと思っていて信じていないのだろう。
しかし、フランメは今に知ることになるだろう。主が持つ圧倒的な情報を。
「さぁ、やってやろうじゃない。異世界転生者の十八番である知識チートというやつを」
それから、リビアはこの世界の遥か未来の技術の知識を利用し、様々なもののアイデアを出した。
そして、彼女が最初に手を付けたのは料理のレパートリーだった。
「食事は心を豊かにする」――そんな言葉があるように食事は体だけではなく、心も癒すものだ。
故に、毎日の食事に少し色どりを加えるような料理を作る。
しかし、当然単にレシピを増やすわけではない。
その料理のレシピを町の飲食店に売る。
それから、売って住民に提供してもらい飲食店のオーナーが継続提供を望むのであれば、レシピ公開契約を結んでそのレンタル料を頂く。
これだけで十分なお小遣いが手に入るだろう。
なぜなら、飲食店にも特有のコミュニティがあり、それらで情報が拡散すればあっという間に町中、さらには町の外にまで広がっていくだろうから。
なーに、ちょいとこの世界に無いレシピをくれてやっただけ。
推しに貢ぐためなら世界の常識が変わろうと知ったこっちゃないね。
そうリビアがニヤついていると、数か月後にはレシピを聞きつけた大手商会がやってきた。
これもリビアの狙い通りだ。
最初に料理のレシピを売ると考えたのは衣食住の食を満たすため。
食欲は人間が絶対に抗えない三大欲求の一つだ。
これがなければ生きられず、だからこそ誰もが食に関わる。
関わるということは、ヒットすればその爆発力も凄まじい。
そして、そこに必ず利益を見出す人間がいる。
実際、利益も出ているので、食いつかないはずがない。
当然、アルベール家には噂を聞きつけ色々な商人が話を伺いたいと手紙を出したが、リビアはすぐに承認に売ることはしなかった。
「さーて、ここからが本番よ。信用できる相手を探さなくちゃ」
前提としてリビアはお金稼ぎのために料理レシピを飲食店にレンタルした。
であれば、そのレシピを商会に売ったとして、こちらに利益がなければ意味がない。
商会もピンキリであり、大手ほど何かと黒い噂が絶えない。
だからこそ、より慎重に信用できる相手を探さなくてはいけない。
加えて、今後のことを考えると経営に関して勉強させてくれる人がいい。
というのも、将来的に自分の商会を作ろうと考えているからだ。
なぜお金を稼ぐために商会を作る必要があるのかと思っている人もいるだろう。
考えてほしい。
商会は物を売り買いする場所、つまりお金が集まりやすい場所、即ちATMである。
推しに貢ぐためにATMが必要。ただそれだけ。
「......よし、この商会にするわ!」
それから紆余曲折ありつつ、リビアは大手商会と契約し、無事経営について学ばせてもらうことができた。
そしてその後の月日はまさに怒涛の日々であった。
商会で経営の勉強をしつつ、伯爵令嬢でもあるため令嬢としてのマナーや所作、言葉遣いを学ぶ。
加えて、多少の自衛ができた方がいいという父親からの命により、戦闘訓練も行った。
そこでは高校の頃に漫画に憧れて入った薙刀部での知識が役に立った。
そんな推しのためのお金稼ぎライフを満喫していたリビア。
しかし、彼女が13歳になったある日突然窮地に立たされた。
それは父親が連れてきた婚約者という存在である。
兼ねてより何度か通達がされていた婚約者という存在との初対面。
貴族の娘であることからその枠組みからは逃れられないと悟ったリビアは、せめて自分の推しに近いタイプであることを祈った――
「剣王国アウドレッド辺境伯嫡子であるバンズ=アウドレッドです。
年は3つほど上だけど、あまり年齢とか気にせず気軽に接してほしい。
では、麗しき令嬢さんの名前を伺ってもいいかな?」
「り、リビア=アルベールです......」
「はっはっは、すまない。どうも緊張しているようだ」
「いえいえ、お構いなく。しかし、ふむ......この方が噂の”黄金の錬金術師様”ですか」
――が、しかし、予想とは大きく外れ、リビアは苦笑いを浮かべることしかできなかった。
目の前にいるバンズという青年は確かに美形な顔立ちをしている。
俗にいう塩顔イケメンというやつであり、金髪で外はねの髪に青い瞳となんとも乙女ゲーに出てきそうな人物だ。だが、好みではない。
なんというか好けて見えるのだ。裏の鬼畜ドSの顔というものが。
今だって値踏みしたような視線がよくわかる。
女ってのは視線に敏感なんだぞ! この変態金髪!
あ、今、容姿の中で唯一控えめな部分見て落ち込みやがったな!
クソォ、いくら自分がメンヘラマゾだろうとキャラは選ぶんだ。
尽くす喜びを感じられない相手にどうやして貢げるか。
気持ちが動かないのであればどうしようもないんだ。
とはいえ、貴族階級制度の中から逃げ出すことはできない。
相手は辺境伯、伯爵である自分の家よりも階級が上なのだ。
剣王国との融和を図るためとかなんとか知らないけど、なぜ自分なんだ!?
逃げ出せるものなら逃げ出したい。あわよくば推しに連れ去られたい。
そう思いながらリビアはニコニコと笑みを作って両家の当主の会話を聞く。
そうしてどうでもいい話を聞いて時間を過ごすのが最善だった。
しかし、それは唐突に打ち破られる。
「あの......そろそろ、二人でお話しさせてもらっても?」
ㇶィ!!!
「あぁ、そうだな。話し込んですまなかった」
「では、後は若い者同士で」
そして、「一人にしないで、お願い!」という言葉を込めた視線も空しくバンズと二人っきりになった。
その瞬間、肩の力を抜いたバンズの態度が急変する。
「いや~、長ったらしいよなジジイどもの話ってのは、なぁ?」
「あ、無理」とニコニコしながらリビアは確信した。
「で、お前が俺のものになる女ってわけね。はいはい、さすがの美しさだ。
しかも数多のアイデアで日常、果ては経済を潤したと言われる“黄金の錬金術師”が相手とは......その金が俺に入ってくる。くくく、どうやら俺の時代が巡ってきたようだな」
「ははは、そんな大層な人間ではないですよ」
棒読みで返答するリビア。そして、内心では「お前のための金じゃねぇ!」とキレ散らかしていた。
本当なら直接言ってやりたいが、そんなことを言えばこの見た目草食系オラオラ金髪男にどんな酷い目に遭うかわかったものではない。
例え、それがいずれ来るとしても、できるだけ遅くしたい。
逃げ出すチャンスがあるかもしれないから。
「そういや、先日バカな騎士が入隊してさ、カマセーヌっていう負け犬みたいな名前の奴が入隊してさ―」
それからしばらくの間、バンズの人をコケにした自慢話が続いた。
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