第60話 アウドレッドに潜入#5
アルミル――以前、ユトゥスが迷宮再構築を起こした迷宮”獣過の巣穴”から脱出した際、彷徨っていた森の中で襲ってきた魔族の一人である。
それからなんやかんやありつつ、一応ユトゥスの知り合いということになっている。
『あの女魔族か? アルミルって奴は』
『知ってるのか?』
『知らないよ。オマエの記憶を覗いて知ってるだけだ。
話がわかるタイプの魔族とはいえ、あの時は恩を売ったからだ。
何が起きるかわからないが話しかけるのか?』
『あぁ、もちろん。先ほどの話を聞いた後で魔族がここにいるのはあまりにも不審だからな』
『そうか。ま、いざとなればわからせりゃいいだけだし、聞くだけ聞いてみるか』
ユトゥスは歩いてアルミルに近づいてみる。
しかし、屋根の縁に足投げ出しながらポケーッと屋敷を眺めているアルミルが気づく様子はない。
なので、どこまで気づかないのか興味が湧いたユトゥスはそっと隣に座ってみた。
『全然気づかないな、コイツ』
『考え事に耽っているのか。もしくは、昼間にフィラミアが言っていたようにレベル差によるものか』
『レベル44だもんな。意外と高い』
『とはいえ、このままでは埒が明かない。声をかける』
「久しいな、アルミル」
「ん? アレ、今幻聴が聞こえたような――ほぁあ!?」
猫のようにビクッとし、咄嗟に飛び退けるアルミル。
しかし、いつもの杖をもっていないため、構えが弱弱しいファイティングポーズとなっていた。
「だ、誰!? いつの間に隣に座ってんのよ!?」
「俺だ、女。覚えていないのか?」
「え、その声って......もしかしてユトゥス?」
確信と疑念が半々といった様子のアルミルにユトゥスは仮面を外して素顔を見せた。
その瞬間、アルミルの表情がパァっと華やぐ。
しかし、すぐに照れを隠すようにして一つ咳ばらいをすると、そっと隣に座り話しかけた。
「で、あんたがこんな街で何をしてるのよ」
「それはこっちのセリフだ。ここは剣王国の領地だぞ?
魔族の貴様からすればあまりにも危険な場所だ」
「あぁ、それはね......ん? スンスンスン」
アルミルが答えようとした束の間、一転して何かに気づいた彼女はユトゥスの衣服のニオイをかぎ始めた。
そして、妙に曇らせた表情でニオイについて尋ねてくる。
「......ねぇ、私以外に誰か他の女の人に会ってた?」
「ん?」
突然の質問内容に会話の意図が理解できていないユトゥス。
すると、同じく質問を聞いたブラックリリーが聞いてきた。
『会ってたっていうとあの女狐しかいないよな? 言うのか?』
『いや、言わないでおこう。
アルミルは信用できると思うが、彼女を通じてフィラミアの存在がバレるのはよくない。
フィラミアは魔族と獣人族のそれも王族同士のハーフという極めて特殊な立ち位置にいる。
余計な火種は作りたくない』
『そこはその二種族を相手取って大立ち回りってのが一番だろ。チキン野郎め』
『なんとでも言ってくれ。体の権利は俺にあるからな』
『チッ......ってか、いきなり人の服のニオイを嗅ぐとかヤベー奴だな、コイツ。
会って二回目のはずなのに妙に距離感近いしよ。変な奴に好かれるのか? オマエ』
『それは知らん』
少しの間、ブラックリリーと会話していると返答に長考していると思われたのかアルミルがか細い声で言った。
「いいよ、別に。嘘つかなくて......どうせ私達は魔族と人族だし。
それに分かれてからそこそこ時間あったし......私は別に気にしてないし.......」
『おい、なんかコイツ勝手にどんどん曇ってるぞ!? 早くなんか言ってやれ!』
「あー、その、なんだ、本当に大した理由じゃないから忘れてただけで、今思い出したから答えられる。
貴様の魔力を見つけてな、気になったから会いに行こうとした矢先に路地裏から出てきた女にぶつかった。ただそれだけだ」
若干苦しい言い訳にも思えて仕方ないユトゥス。
しかし、なぜアルミルに対して浮気を疑われた夫みたいな立ち位置になっているかもわからない。
そんな返答に対するアルミルの返答にドキドキして待っていると、彼女がそっと目を合わせた。
「......ほんと?」
「あ、あぁ、本当だ。それ以外に説明のしようがない」
「そっか.....えへへ、そっか。私に会いたくて仕方なかったからよそ見してぶつかちゃったか。
なら、私もその気持ちに免じて許すとするわ! モテる女は寛大なのよ!」
『なんか少し拡大解釈されてるみたいだけど、良かったなチョロくて』
『そうだな。今ばかりは感謝しよう』
とりあえず、緊急イベントのように発生した雰囲気が去って一段落するユトゥス。
そして、改めて先ほどの聞きたかった質問へと移った。
「で、さっきも聞いたがこの街で何をしてる?」
「教えるわけないでしょ......と言いたいところだけど、同族が敵であるあんたなら別にいいか。
正面に見える屋敷があるでしょ? あそこで取引っていうか共闘作戦が動いてるの」
「共闘作戦?」
「えぇ、あの屋敷の領主が取引ついでに邪魔な貴族達を殺したいんだと。
だから、近々行われるパーティに潜入して領主の合図とともに殲滅って感じ。
あ、アタシは参加しないから安心して。あんた以外の人族に口説かれるとかないし」
『オマエ、口説いてないよな?』
『一度もないな』
アルミルから飛び出た妙な言葉に突っ込みたくなるもグッと堪えるユトゥス。
これ以上話を脱線して話を長くしたくない。なので、スルーして質問した。
「貴様はこの話がきな臭いと思わないのか? 剣王国の貴族と取引してるなんて」
「思ったわよ。でも、この仕事はアタシの管轄じゃないし。
それに一応一年近く? 一緒に行動してきてある程度信用はあるみたいよ。
まぁ、それも今日で終わりらしいけど。
なんでも貴族達の殲滅に合わせて領主も殺すみたいだし」
「何の取引をするのか知ってるのか?」
「さぁ? それは知らないわ」
「そうか。貴重な情報をありがたく受け取っておこう」
「アタシが漏らしたって言わないでよ? これは単なる独り言。
それを隣でたまたま聞いていただけ。いい?」
「安心しろ、俺が貴様を売るようなことはしない。だから、貴様も俺に尽くせ」
ユトゥスは立ち上がり、屋敷を見つめる。
聞きたい情報も聞けた。どうやら貴族が魔族と繋がってるのは確定らしい。
ということは、近々あの屋敷では多くの死人が生まれるということだ。
『止めるつもりか?』
『人が死ぬことがわかっていて見過ごすほど薄情じゃない。
それに裏で企ててる両者に割り込んでめちゃくちゃにするってのも悪人らしいだろ?」
『そうか?.......そうかも?』
『というわけで、屋敷でパーティが開かれる時に襲撃する』
『キシシ、ようやくやる気になったみたいだな。
んじゃ、作戦を考えてやるよ。そうだなぁ――』
ブラックリリーが嬉しそうに笑っている。どうやら上手く説得できたみたいだ。
今や自分の思考を読み取るよりも優先して自分の思考に集中しているようだ。
なるほど、そういう場合はこっちの思考を読み取れないのか。
「......ね、ねぇ、この後予定ってある? そ、そのね? もしなければ――」
「予定はない。いや、たった今無くなったというべきか」
屋敷に行く必要なくなっちゃたしね。
「だが、貴様と行動するのはやめておこう」
「なんで!? 私と一緒何が嫌ってこと......?」
「違う。俺と貴様はこの距離間でいいのかもしれないが、貴様の仲間が見れば必ず警戒する。
そうなれば、俺の存在を知っている貴様がどのような目に遭うかわからん。
俺も助けに行けるかどうかわらからないしな」
「そっか......私のためにそこまで。ごめんね、考えなしに言って。
ねぇ、またどこかで会えるよね? ユトゥスも見かけたら会いに来てくれる?」
『なんか妙に湿気てるなコイツの言葉。オマエ、何したよ?』
『敵対して、ビンタして、助けた』
『なんか依存させてるみたいなやり口だな。事情は知ってるけど』
ブラックリリーにそう言われて妙な罪悪感を感じ始めたユトゥスは「じゃあな」と言って颯爽とこの場から離れた。
少し離れた位置でチラッと振り返ってみれば、月をバックに大きく手を振るアルミルの姿が見えた。
『オマエ、女との関わり方を気つけた方がいいぞ』
『.......気を付ける』
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