第42話 騎士団の襲撃#2
「フィラミア、まず俺が先制して矢を放つ。
それと同時に貴様は出撃しろ。この距離なら行けるな?」
「はい、問題ありません」
「よし、それでは始めるぞ」
ユトゥスは茂みから立ち、木々の隙間から見える騎士の一人に狙いを定める。
番えた矢に雷を纏わせ、弦を思いっきり引いた。刹那、矢を放つ。
矢は真っすぐに高速で飛来し、矢じりに布が巻かれた矢が騎士の顎を掠めた。
「がぁっ!?」
矢が直撃した騎士が顎への強打の衝撃でふらつき、さらに電撃が全身を襲う。
「剣士」は基本的に魔法への耐性が低いとされている。
故に、その騎士はその場で膝から崩れ落ちた。
「な、なんだ!? おい、どうした!? くっ、誰だ! 獣人の野郎か!?」
もう一人の騎士が抜剣し、周囲に威圧を放つ。
そこへ森から飛び出したフィラミアが強襲した。
騎士はすぐさま剣を振り下ろすが、フィラミアに軽く躱される。
そこからフィラミアに剣を持つ手を掴まれ、顎を掌底で強打された。
「終わったか? 怪我は......なさそうだな」
「はい。主様の訓練のおかげです。それでこの人達はどうしますか?」
「そこら辺の木にまとめて縛っておけ。その間に俺は魔法陣を壊す」
ユトゥスは魔法陣へ移動し、地面にしゃがみ込む。
複雑に描かれた幾何学模様のような魔法陣の周囲には古代文字で術式が描かれていた。
魔法陣とは、一言で言えば誰でも使えるように設計された魔法術式である。
例えば、「剣士」の職業を持つ人間が「魔術師」しか使えないような魔法を使うことができ、使用方法はスクロール、魔導書、魔紋と多岐に渡る。
故に、メリットとしては使い手を選ばないという点である。
だが、デメリットとして発動には膨大な魔力の消費が必要だ。
一番魔力の消費が少ない初級魔法であっても、「魔術師」と比べればスクロールでの魔力消費は約二倍ほどと言われている。
その理由として一番に挙げられているのは描かれている魔法陣の複雑さ。
それが複雑であればあるほど魔力の消費が増えるとされている。
そして、それは魔法の威力や規模が大きくなるほど複雑化する傾向にある。
つまり何が言いたいかというと、魔法陣はその複雑さ故に非常にデリケート。
多少の損傷なら魔法陣の魔力回路が自動接続してくれる。
だが、五センチ以上の損傷になれば、もうそれは魔法陣として意味を成さない。
「これでもう魔物は出現しなくなる」
<亜空間収納>から短剣を取り出し、地面に描かれた魔法陣にザクッと刃を突き立てる。
ただ突き立てても意味がない。
魔力を帯びたもので干渉しなければ、魔力回路や術式は壊せない。
傷つけるためには自分の魔力を通しての攻撃が必要だ。
「よし、これでこの魔法陣は使い物にならない。フィラミア、村に戻る――」
「主様、待ってください」
何かの異常性に気付いたフィラミアが耳を立てて周囲の音を拾う。
そして、冷や汗をかきながら迫真の表情で言った。
「主様、魔物の数が減っていません! それどころか増えてる音がします!」
「なんだと?......そうか、騎士が二人で見張る程度の魔法陣が一つなわけないか。
空を見ればいくつか白い狼煙があるな。
もしかしたら、それは騎士団への合図かもしれない」
「どうしますか?」
「愚問だな、助けるぞ。ただし、貴様は村に行って村人達を守れ。
貴様なら魔物よりも先に村に戻れるはずだ。俺は鈍足だからな。
代わりに、俺は魔法陣を消してから行く。任せるぞ」
「はい!」
フィラミアは力強く頷く。
頼られたことが嬉しいようで尻尾が揺れている。
しかし、さしものフィラミアでも魔物の大軍と村人を両方対処することは難しいだろう。
となれば、どれだけ早く自分が残りの魔法陣を潰せるかがカギになる。
「時間が惜しい。さっそく行動だ。くれぐれも無茶はするなよ。
こういってはなんだが、どこぞの連中より貴様の命の方が大事だ。
ピンチになったら呼べ、必ず迎えに行ってやる」
「あ、主様......今このタイミングでそのセリフはズルいですよ。
ですが、わかりました。私も主様を残して死ねないです」
「貴様は俺の下僕だ。勝手に死ぬことは許さん。必ず生き延びろ。いいな?」
「はい」
「行くぞ、後で合流だ」
*****
フィラミアはビーストモードを駆使し、高速で森の中を走り抜ける。
木や茂み、ツタが行く手を阻むが、山育ちにとってそれは障害物にもならない。
道中、数体ほど魔物を確認し、村に向かわないよう処理をしながら目的地へと辿り着く。
「皆さん、ご無事ですか!?」
事の状況に気付いていないのか未だ日常生活を過ごしてる者が多かった。
しかし、美少女の普段見ない焦りの表情を見て、一人の村人が村長を呼びに行く。
村長が来るとフィラミアは説明を始めた。
「なんとそんなことが! まさか再びこのようなことが起きるとは......」
「魔物の大軍ってマジかよ。せっかくこの村で穏やかに過ごしてたのに」
「それに騎士団って剣王騎士団のことだろ?
確かここメンダクス剣王国の領地内だったはずだし......まさか俺達を殺しに来たとか!?」
「ありえない話じゃない。剣王国は人族至上主義の集まりだ。
俺達を畜生とか亜人とかで蔑んできやがる」
「そんなぁ! せっかくこの村の開拓も進んで子供達も安心して暮らしていけると思ったのに.....」
フィラミアの話を聞き、村人達は不安に駆られて言葉をこぼしていく。
その言葉のどれもがここまでなんとか発展させてきた苦労が伺え、同時に落胆の感情が伝わってきた。
そんな村人達にフィラミアは力強く言い放つ。
「大丈夫です。この村は私と主様が必ず守ります。
主様は今魔物を発生させる魔法陣を排除しに奔走されています。
そして、私はこの村で皆様を守るように派遣されました。
魔物は刻一刻と迫っており、騎士団も近づいてきております」
フィラミアは耳を立て、常に周囲の音を探る。
近くにいる村人達とは違う、荒々しい地を駆ける音を。
今はまだ猶予はある。ならば、鼓舞を急がねば。
「私一人でも魔物ぐらいならなんとかなるかもしれません。
ですが、騎士団も来るとなると私では限界があります。
ですから、どうか私と一緒に戦ってください!」
フィラミアの必至な問いかけ。
しかし、すぐには腹が決まらないのか顔を見合わせて迷う村人達。
そこで前に出てきたのは村長であった。
「もちろんじゃ。ここはワシらが開拓した村。
剣王騎士団が再びワシらの村を奪おうというのならそれに抗うまで。
もう二度と安住の地を奪わせはせん。こちらこそよろしく頼む」
「そうだな。騎士団に俺の両親は殺された。
あの時は力が無かったから抗うこともできなかった。
だけど今は違う! この時のためにずっと鍛えてきたんだ! 俺は戦うぞ!」
「俺もだ! 俺達が獣人だからって好き勝手言いやがって!
魔物だろうが何だろうがこの村のために戦ってやる!」
「そうだそうだ! もう人族に好きにさせるな! この村を守るぞー!」
「「「「「おおおおぉぉぉぉーーー!!!」」」」」
村長の一言で村人達が堰を切ったように奮起する。
どうやら村を守るためにやる気になってくれたようだ。
獣人族は人族よりも基礎能力値は高い。
戦う男の人だけでも十数人。
人数的には少し心もとないが、中には強そうな覇気を纏う人もいる。
仮に戦力不足でも主様来るまで自分が頑張ればいい。
「おい、魔物の足音が聞こえてきたぞ! 準備を急げ!」
一人の男が威勢よく声をあげ走ってきた。
耳を済ませれば確かに多くの足音が向かってくるのがわかる。
戦いが始まる。今度は逃げるだけじゃない、守るための戦いが。
「お母さん、お父さん......どこにいるかわかりませんが、見ていてください。
二人の娘フィラミアの成長した姿を!」
読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)
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