第41話 騎士団の襲撃#1
「随分と子供から人気でしたね」
魔物の大量発生の原因を探しているとフィラミアからそんなことを聞かれた。
ユトゥスは周囲を見渡しながら、質問に答える。
「俺の村では子供の中じゃ俺が一番年上だった。
だから、必然的にガキどもの面倒を見ることが多かっただけだ」
「なるほど、通りで。主様を見てるとなんかこう甘えても許される的な雰囲気を感じて、ついつい甘えてしまうと言いますか......加えて、卓越した家事スキルも相まって私の立つ瀬がありません! ズルいです!」
「んなことを俺に言われてもどうにもならん。
そもそも夜の見張りをしてる時に、人の膝を枕にして寝るのはどこのどいつだ?」
「うっ、それは主様が拒否しないからついどこまでいけるかなと探った結果で......こ、このままでは私の主様を魅了してドロドロに甘やかすという計画に支障が出てしまいます!
勝ち目がありません! いい加減負けを認めてください!」
「いつから勝ち負けの話になったんだ......」
そもそも自分がフィラミアにここまで気に掛けるのかがわからない。
やったことといえば、朝食を作り、髪を梳かし、植物や魔物の知識を与え、戦闘技術を教え、昼食を作り、裁縫技術や家事スキルを叩き込み、川遊びの時間を与え、夕食を作り、それからフィラミアが寝付くまで適当に話に付き合っていただけだ。
これぐらいのことは過去に何度も経験がある。
下の子を持つ人には当たり前じゃなかろうか?
「ハァ、ならお言葉に甘えて貴様に甘えさせてもらおうか」
「っ!? なんですか!? 頭なでなでですか? 膝枕ですか? ハグですか? それとも――」
「違う。暴走するな、アホ。貴様への要望はアイツだ」
ユトゥスが指をさした方向には甲羅の一部から砲台をいくつもつけたような亀だった。
先程<魔力探知>で見つけたBランクの魔物タートルキャノンだ。
遠距離からの攻撃にはめっぽう強いが、鈍足なため近づければ一方的に攻撃し放題。
まぁ、その近づく過程が難しいのだが、フィラミアならば問題ないだろう。
「俺は後方にて戦闘が終わるのを待つ。
危なくなったらカバーしてやるから安心しろ。
というわけで、貴様の仕事は......ってなんだその不満そうな顔は?」
「べっつに~。いいですけど。ほんと仕方なくいいですけど」
唇を尖がらせてあからさまに不満な様子のフィラミア。
ため息を吐き、数歩前に出ればサッとビーストモードに変身し、その場から消える。
タートルキャノンが危険を察知して周囲に魔力弾を放ち始めるが、フィラミアには掠りもしない。
「これで終わりです」
フィラミアはタートルキャノンに近づき、サキュバスモードにチェンジ。
そして、顔面ゼロ距離にて<火炎槍>を放ち、爆散させた。
「どうやら修行の甲斐もあってモードチェンジもスムーズに扱えるようになったみたいだな。
加えて、タートルキャノンが物理に対して耐性があり、魔法が弱点のこともよく覚えていた。
上出来だ。貴様の成長速度は見ていて清々しいな」
「本当ですか!? 惚れましたか!?」
「なぜそうなる。それとこれとは別問題だろう」
「いいえ、大いに関係あります! 私はこれでも淫魔族の血を引くもの。
淫魔族にとって魅了されていない異性というのはやはりちょっとムカつくんです。
ですから、私は主様に勝ちたい! 具体的に言えば、それはもう私がいないとダメなくらいにドロドロに――」
「くだらん御託はいいからさっさと行くぞ」
「御託じゃありませんてば!」
相手をむやみやたらに惚れさせ面倒ごとを起こすが、見向きもされないとそれはそれで腹が立つ。
淫魔族もなかなかに難儀な種族なのかもしれない。
とはいえ、淫魔族のプライドに付き合ってやる義理もないのでスルー一択だ。
プンスカしているフィラミアをしり目に、ユトゥスは森の奥へと進んでいく。
それからというもの、先へ進むたびに様々な魔物が二人に襲い掛かった。
しかし、それらの魔物は二人の相手ではなく、順調に進んでいく。
「にしても、魔物はいるが原因が未だに掴めないな。
フィラミア、何か気になったことはあるか?」
「そうですね、これまで色々な魔物と戦ってきましたが、なんというかどれも統一感が無かったです。
前に主様がおっしゃっていた、魔物には縄張り意識が強くある、というのが特徴なはずです。
にもかかわらず、この森には生息しないような魔物までいて......なんだかおかしいです」
「そうだな。であれば、考えられる状況は二つだ。
一つは強大な魔物が現れ、住処を奪われてよそに移ってきた場合。
もう一つは人為的によって意図的に魔物が放たれてる場合だ」
「人為的ってそんなことがあるのですか?」
「ない話ではない。過去の歴史にも魔物の大軍を召喚して戦した記録があるぐらいだ。
であれば、魔物を召喚する術がこの時代にも現存していてもおかしくない。
そしてそうだった場合......それは非常に不味い事態になる」
「なら、原因の特定を急いだ方が良さそうですね。私も意識して周囲を探ってみます」
フィラミアの耳を頼りにしつつ、さらに森の奥へ進んでいく。
すると、彼女の耳がピクッと反応した。
さらに注意深く音を聞くように耳に手を当てる。
「主様、ここから斜め左方向に人の声らしき音が風に流れて聞こえました。
恐らく複数いるかと思われます。いかがされますか?」
「足音を殺して慎重に進んでいくぞ。
見つけ次第すぐに戦闘は始めず、状況確認を行う。
だが、事と場合によれば支持を出し攻撃を開始する。その腹積もりでいろ」
「わかりました」
「ただし、可能な限りでいい殺しはするな。
甘いかもしれないが......お前がその罪を背負う必要はない」
フィラミアがなぜかじっと見てくる。その視線からそっと逃れた。
二人は誰かがいる方向へ進んでいくこと数分。
木々の隙間から見えたのは二人の騎士であった。
気づかれないように遠くから様子見をしているため声は聞こえない。
しかし、こちらにはフィラミアがいるため代わりに教えてもらうことにした。
『なぁ、この魔物の召喚って成功してるのか?
こう、召喚ってもっとばーって出るもんじゃないのか?』
『そんなの言い伝えか何かだろ。それに仮に出そうとしても剣士の俺達じゃ難しいって。
それよりもだ、先ほど別の騎士が狼煙を上げていた。黄色の狼煙だ』
『ってことは、ついにこの場所の近くで獣人族の村を見つけたってことか?
くぅ~、やっとこの見張りからも解放される!
それに定期的に魔力を送る必要あって疲れてたんだよな~』
『バカ、疲れるのはここからだ。
これから周囲の班にも合図を送って、さらに多くの魔物を村に向かって解き放つ作戦だろ。
それに雑に召喚した魔物は見境なく自分以外を敵と判断して襲う。
急いで逃げねぇと死ぬんだぞ』
『うげぇ、そうだったな。ハァ、なんで獣の分際で俺達の領土に住み着くかなぁ。
おかげでカマセーヌ隊長が張り切っちゃって、下っ端の俺達はこんなことで命を張る羽目に』
『今更文句を言ったところで仕方ないだろ。
悪いのは全てここに勝手に住み着いた奴らだ。
俺達は命令されたことだけをやればいい』
『だな。それじゃやるか。とっととここから魔物を放っておさらばしよう。
俺達が逃げてる間に魔物が村を襲い、さらにその間にカマセーヌ隊長達が挟撃。
それで獣人族はまとめてパァ。獣人でも可愛い子いたから少し残念だけど』
そして、騎士二人は地面に描かれた魔法陣に両手をかざし、魔力を加えた。
魔力を帯びた魔法陣は眩く輝き始める。
その一部始終を見届けたユトゥスは静かに告げた。
「フィラミア、始めるぞ。騎士団狩りだ」
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