表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逆転の反逆者、その意に逆らう~職業不明の青年が迷宮で神様から力を貰い、その力で英雄へと至るまで~  作者: 夜月紅輝
第2編 異端者は集う

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/56

第37話 獣人族の村#1

 サブザ森林のとある場所。

 その木の上ではユトゥスが周囲に姿を擬態させるようにフード被っていた。


 そして、その場所から観察するのは、十数メートル先にいるフィラミアだ。

 さらに、その彼女の前には五メートルサイズの大蛇――ゴーストマンバがいる。


「さて、お手並み拝見だ」


 フィラミアは両手に剣を握りしめながら、サッと姿を変えた。

 “ビーストモード”と呼ばれる近接戦に特化した獣人スタイルだ。

 変身時間は1秒と少し。二週間での集中訓練にしては上出来だろう。


「シャアアア!」


 ゴーストマンバが全身の黒く艶のある体を伸ばし、巨大な顎でかみつき攻撃。

 しかし、フィラミアは冷静に後ろに下がりながら、周囲の木を盾に回り込む。


 ゴーストマンバが尻尾を振り回し、さらに攻撃。

 一撃で木をへし折り、そのままフィラミアに向かう。

 すると、フィラミアはその攻撃をしゃがんで躱し、低い体勢から一気に懐へ潜り込んだ。


「せやぁ!」


 フィラミアの左手に持った短剣がゴーストマンバを傷つけた。

 しかし、一撃が軽いのか相手を怯ませるまでには至っていない。

 瞬間、その攻撃の後隙をゴーストマンバに狙われた。


「くっ!」


 ゴーストマンバの噛みつき攻撃を紙一重で防ぐフィラミア。

 しかし、空中で捕らえられた彼女は、そのまま背後の木に向かって押されていく。


 フィラミアもその事には気づいているようで、チラッと背後を確認。

 それから獣人の脚力を活かし、木にぶつけられる前に口から脱出した。

 しかし、ゴーストマンバはしつこく噛みつき攻撃を仕掛ける。


火炎爆弾(フレイムボム)


 瞬間、フィラミアは“サキュバスモード”という名の魔族にスタイルチェンジ。

 “サキュバスモード”は“ビーストモード”と違い魔法攻撃に特化している。

 故に、右手に強化された炎の魔法をゴーストマンバの大きく開けた口に押し込んだ。


 直後、ボンッとゴーストマンバの口で爆ぜ、一瞬の火炎と黒煙が溢れ出る。

 さすがの一撃にゴーストマンバも怯みを見せた。

 その隙を逃すフィラミアではない。


「風刃!」


 フィラミアは大きくなった羽をパタパタと動かしながら、追撃の風の刃を放つ。

 しかし、その攻撃はトプンと水の中に入るように、影に潜ったゴーストマンバに当たることは無かった。


 ゴーストマンバとの戦いはここからが本番である。

 ただのデカくて黒い蛇なのに“ゴースト”と名がつくのは、その魔物が影を移動するからだ。


 影があるところならばどこでも出入り可能であり、その魔物の出現場所はまさに神出鬼没のゴーストのよう。


「だから、ゴーストマンバはBランクの魔物にしては強いとされている。

 そんな相手にタイマンだ。普通は手出し無用だが......それでは最終訓練とはいかない」


 遠くで見ていたユトゥスは、<亜空間収納>から弓と矢じりに布に巻かれた矢を取り出した。

 矢をセットし、狙いを定めて構える。

 その狙いは当然フィラミアだ。


「それにこれは強くなりたいという下僕たっての希望だ。主なら信じてみようじゃないか」


 これからユトゥスがやることは、強敵との戦闘中に突然敵の増援が来ても、動じずに標的を撃破するという訓練だ。

 これはユトゥスがまだ村にいる頃に、数か月だけいたさすらいの旅人にやらされた修行法。


 戦闘センスがあるというだけで仕込まれた修行であり、あの時では苦い思い出だ。

 だが、そのおかげで今があると思うとなんだか感慨深いものである。


「さて、負けるなよ」


 ユトゥスは矢を放つ。

 それは横を向いているフィラミアに飛翔し、それ気付いた彼女は避けた。

 瞬間、背後から隙を狙うようにゴーストマンバが背後から飛び出してくる。


「次だな」


 ユトゥスはその結果を確認することなく木から降りる。

 <隠形>を使い、周囲に同化しながら次の狙いやすいポイントに移動。


 草むらから弓を構えると、フィラミアの背後に向かって放つ。

 すると再び、その矢を耳をピクッと反応させ気付いたフィラミアが避ける。


 それをフィラミアが敵を倒すまで繰り返す。

 彼女にとって目の前の相手に集中しなければいけない状態で、周囲から矢が飛んで来るのは相当なストレスだろう。また、何より神経を使う。


 しかし、戦闘というのは往々にしてこのようなものと言える。

 突然の奇襲だったり、予期せぬアクシデントだったり、それらがすぐに死に繋がる。

 だからこそ、周囲に神経を尖らせるのは重要なことだ。


「ま、さすがにこれは難易度が高いがな。

 だが.......どうやらフィラミアには低かったみたいだな」


 ドスンと音が聞こえた。

 その音の方を見れば、倒れているゴーストマンバの近くに“ビーストモード”のフィラミアが立っている。


「勝ったようだな。よくやった」


 フィラミアの元々のポテンシャルは凄く高い。

 王族の血を引くというのもあるだろうが、元々体の使い方が上手く柔らかいのだ。

 山の中の暮らしというのが、体の柔軟性に磨きをかけているのかもしれない。


「随分と体を柔らかく使うみたいだな。良い動きだ。

 戦いで柔軟性は必要だ。ケガもしにくくなるしな。親から学んだのか?」


「はい! お母さんが『いざという時体の柔らかさがものを言う』って言ってまして、小さい頃から柔軟体操は欠かさなかったんです」


「そうなのか。なら、これからも心掛けろ」


「はい、どんな体勢でもいけるようにします!」


 戦闘直後というのにまだ幾分かの余裕がありそうだ。

 元が狩猟民族と呼ばれた獣人族の血統因子を濃く引くからだろうか。

 ともあれ、ゴーストマンバをタイマンで、しかも邪魔されながら倒す。


 この時点でフィラミアはもうすでに戦いにおいては十分なほどだろう。

 称号にある「駆け抜ける成長」も相まってどんどんと強くなるフィラミアは、もはや過去の自分のレベルよりも上かもしれない。


「ん? 靴が破けてしまってるな。怪我はしてるか?」


「いえ、魔力強化で防いでいるので大丈夫です。

 それよりもすみません、せっかく作ってもらったのを壊してしまって」


「靴は消耗品だ。むしろ、壊れてなんぼ。気にするな。

 それよりもさすがに腹が減っただろう。食事にする。

 貴様は川に行って汗を流してこい」


「わかりました。では、ついでにこの魔物の血抜きもしておきますね」


「よくわかってるな。獲物は鮮度が命だ。

 今日はその魔物で美味い鍋を作ってやろう」


―――数分後


 作成した蛇肉たっぷりの鍋を食べながら、ユトゥスは今後の方針について話し始める。


「さて、これからの目的だが近くの村に向かう。

 とはいえ、現状地図が無いから行き当たりばったりの感じになってしまうがな」


「何か目的があるんですか?」


「個人的な理由と必要物資の調達だ。

 食料に関しては最悪どうにでもなるが、貴様の装備はどうにかしたい。

 いつまでもそんなみすぼらしい服を着せるわけにはいかん。

 俺の横に立つ以上、最低限の身だしなみは整えてもらう」


「そうですね。さすがに水洗いでも限界がありますし、主様のそばに相応しくありません!」


「いい心がけだ。となれば、早速明日から出発だ。今日は早め休め」


 食事を終え、明日の準備を済ませればあっという間に時刻は夕暮れ。

 森の夕暮れは月明りのない夜と同じで、焚火で周囲を照らさなければ普通に暗い。


 暗闇の中の明かりは夜行性の魔物にとって格好の目印だ。

 故に、ユトゥスは木に寄りかかりながら周囲を警戒していた。


「主様、甘えてもいいですか?」


 その時、フィラミアが珍しいことを尋ねてきた。

 その目は恥ずかしそうだったが真っ直ぐでなんとも訴えかけてくるものがある。


「好きにしろ」


「.......そのできれば、主様に寄りかかっちゃったりなんかもしちゃったりして――」


「それも含めてだ」


 お兄ちゃん属性のユトゥスは甘えられる攻撃に弱い。

 故に、フィラミアがそんな風に甘えられると無下には出来ないのだ。


 まさかの許可が出たことにフィラミアは嬉しそうにユトゥスの肩に寄りかかる。

 喜びの度合いは尻尾のふりに表れている。


「どうした急に?」


「お兄ちゃんがいたらこんな感じなのかなぁって思ったらつい......いえ、それは正確じゃないですね。

 本当はお父さんにこんな風に甘えてたんです。小さい頃の話ですけどね」


「子供は甘えるのが仕事のようなものだ。俺も昔は散々甘えん坊どもに付き合った。

 だから、貴様が今こうして甘えようと何の支障にもならん。気にするな」


「.......なら、これからも甘えていいってことですか?」


「好きにすればいい。俺も拒む時はちゃんと拒む。

 そうじゃなければ、俺は言うほど気にしない。

 慣れというやつだ。弱い俺からすれば人に頼られるのは悪い気分じゃない」


「主様は弱くなんか――」


「弱いさ。所詮は借り物の力だ」


 そして、ユトゥスはポツリポツリと自分のこれまでのことを話し始めた。

 どうして話そうと思ったのかわからない。気の迷いかもしれない。

 ただ、信用してくれてる相手には信用で返したかった......それだけ。


「つまり主様の力は限定的なんですね。

 それに装備を外してしまったら子供にも負けてしまう貧弱になると」


「そういうことだ。これで貴様は俺の秘密を知った。もうお前にとって俺はただの弱者だ」


「なら、守ります」


 フィラミアは起き上がる。そして、じっと目を合わせてきた。

 その目はどこまでも力強い意志を宿している。


「私が主様を守ります。守れるぐらい強くなります」


「......ふん、自分の身ぐらい自分で守る。

 だが、その忠義はありがたく受け取っておこう。

 ほら、もう休め。明日は早いんだ」


 フィラミアの頭をそっと抑え込むようにして膝上に寝かせる。

 そして、つい昔の癖でそっと頭を撫でてしまう。

 昔もパーティの皆をこんな風に寝かせていた時があったものだ。


「.......あの、主様」


「どうした?」


「ドキドキして寝れません」


「なら、やめるか――」


「それはダメです」

読んでくださりありがとうございます(*'▽')


良かったらブックマーク、評価お願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ