第35話 一人ぼっちの二人#7/救援部隊#1
「もとに戻ったか。体の負担はどうだ?」
「そうですね、疲労は魔力枯渇の影響と考えると特にはなさそうです。
ただ、体が少し変化するので服選びを考えないといけないかもです」
「それぐらいなら問題ない。どうにでもなる。
それよりも、どうしてそのような姿に変わることが出来たかわかったか?」
グツグツと鍋の中にある魔物の肉や山菜、キノコが煮込まれる。
そして、それを木のへらでゆっくり混ぜながらユトゥスは尋ねた。
その質問に、フィラミアは首を横に振る。
「いえ、ハッキリしたこは......」
「簡単な話だ。イメージがあったからだ」
ユトゥスは鍋の具材を木製のお椀によそう。
ちなみに、鍋もお椀も攻略した迷宮から手に入れたものだ。
迷宮はあらゆるものを飲み込み、それらは守護者の宝物庫へと転移する。
故に、宝物庫にはかつての冒険者が使ってたものがたくさんあるのだ。
「食え」
「ありがとうございます。すみません、お手伝いも出来なくて」
「気にするな。頑張った下僕を労うのも主の務めだ」
お椀を渡しすと、フィラミアは尻尾をブンブン、羽をパタパタさせながら嬉しそうに受け取った。
どうやら先ほどの検証で相当体力を消耗していたらしい。
すると、フィラミアは料理に舌鼓を打ちながら、先の質問に返答する。
「イメージですか?」
「あぁ、貴様は魔法を扱うことに関して“母親”というイメージを、剣を扱うことに関して”父親”というイメージがしっかりとあった。
実際に見て来たのだからイメージもつきやすいだろう。
だから、それぞれ二人をイメージすることで片方ずつだが職業の力を使うことが出来た」
「なら、今の私に“魔法剣士”という明確なイメージがないから、両方一遍に扱えないということなんですね」
「そういうことだ。そもそも聞けば貴様は相当な箱入り娘だ。
まだ狭い世界しか知らない。その状態では想像力も養われることはないだろう。
だから、これからじっくりと見てけばいい。そのうち感覚的にわかってくるはずだ」
今までのフィラミアには両親と過ごしてきた日常が全てだった。
事情があったとはいえ、それでは想像力はあまりにも乏しくなってしまう。
だからこそ、この先で色々なもの見れば、本来の職業の力も扱えるはず。
加えて、フィラミアは何かと訳ありな雰囲気を持っている。
だとすれば、自衛が出来ることに越したことは無い。
「にしても、どうして変身できたんでしょう?」
フィラミアが具材の美味しさに「ん~♡」と呻りながら、そんな疑問をユトゥスに投げかけた。
その質問に対し、ユトゥスはスープを飲み、口を滑らかにすると答えた。
「それは獣人族にも魔族にも変身能力があるからだ。
獣人族が生まれた言い伝えに、狼が人となって女性と交わったことで生まれたって話がある。
魔族はどうか知らんが、過去の文献には魔族が変身したなんて話はいくつもある。
つまり、フィラミアが変身したのはその影響だろう」
「詳しいんですね......」
「本を読むのが趣味だっただけだ。俺には知識が必要だったからな」
それからしばらく雑談を交えた食事が続く。
それが終わると、ユトゥスは立ち上がった。
「フィラミア、それじゃ先の訓練の続きだ。貴様の変身は集中しなければなれない。
だが、その集中してる時間が命取りだ。無意識に切り替えられるようにしろ」
その言葉に、フィラミアも立ち上がる。
「はい、よろしくお願いします!」
*****
―――冒険者ギルド
Cランク迷宮“獣過の巣穴”が迷宮再構築を引き起こしてから一週間が経過した。
その一週間は冒険者にとっても、ギルド職員にとっても実に慌ただしい日々だった。
失踪者や負傷者の対応、生還者からの迷宮の情報の整理、救援部隊の編制などやることは色々だ。
これがBランク迷宮であればもう少し早く動けていたかもしれない。
しかし、これから挑もうとしているはAランク迷宮となった“獣過の巣穴”だ。
Aランク冒険者がパーティでやっと倒せるか否かの魔物が跋扈している迷宮。
慎重に慎重を期すぐらいのことをしなければ、待っているのはただの犬死。
だから、どれだけ早くてもギルドが動けるのは一週間後。
そして、ついに出動の時が来た。
「えー、皆さん、今回は僕の呼びかけに集まっていただきありがとうございます」
そう声をかけたのはAランクパーティ「満天星団」のリーダーであるサクヤだ。
サクヤの目の前には五組のAランク冒険者パーティと八組のBランク冒険者パーティ。
それから、数名のギルド職員である。
整然と並ぶ姿は圧巻で、特にAランク冒険者パーティの貫禄は大きい。
それもそのはず、これから向かう場所はお遊び気分で行けるような場所じゃない。
故に、全員の顔が引き締まっており、それがただならぬ緊張感を生んでいる。
「僕は『満天星団』のリーダーのサクヤです。
今回僕が呼びかけたので僕がこの部隊のリーダーということになっています。
それでは、これから向かう迷宮について整理された情報をお伝えします」
全体にAランク迷宮の情報を共有し始めた。
その全体の話が終わると、迷宮前で再度集合という形で全体は一度解散した。
全体の指揮官という緊張する立場から解放されたサクヤは、フゥーと息を吐く。
その時、声をかけてきたのは仲間達だった。
「様になってたよ、サクヤ」
「えぇ、ユティーに任されておいて不甲斐ない姿を見せたらビンタしてやろうかと思ってたけど、それが出来なくて残念だわ」
「良かったな、サクヤ! アニリスにビンタされなくて済んで!」
「ドンバス、いつでもリーダー体験会やってるから代わってあげてもいいんだよ?」
「いや、遠慮しておく。ホントマジで」
そんなやり取りに四人はアハハハと笑う。
しかし、その声はすぐに尻すぼみになる。
当然、このパーティにいた本物のリーダーがいないからだ。
「ユティー、大丈夫かな?」
「大丈夫よ、ユーミ。だって、ユティーだよ。
村が魔物に襲われた時も皆を引っ張って助けてくれたし、きっと今もお人好しを発動してるんでしょ」
「確かに、自分を囮にして他の冒険者パーティを守るぐらいだしな」
「ただ信じるだけだよ。必ず無事だって」
「あの......」
その時、四人の所に三人の男女が話しかけてきた。
Cランク冒険者パーティー“夕陽の花”のコール、バレッタ、トバンの三人だ。
まさに話題に出てきたユトゥスに助けられた冒険者パーティその人達である。
その三人は互いに顔を見合わせると、一斉に頭を下げた。
「「「御同行させていただきありがとうございます!」」」
「しー、静かに! 本来Bランクパーティ以上しか入れない編成隊に、Bランクパーティとしてこっそり入れたんだからバレたらこっちの責任問題なんだから!」
「あ、すみません。ですが、僕達のわがままを聞いてくれてありがとうございます。
そのおかげで僕達もユトゥスさんを助けに行くことが出来ます」
“夕陽の花”の三人の願いは恩人であるユトゥスの救出だ。
最初こそ囮にしようとしていたが、結局はユトゥス自らが囮になることで生還。
しかし、その選択をさせてしまった罪悪感をずっと抱き続けていた。
だからこそ、サクヤに無理やり頼み込み救援部隊として参加させてもらったのだ。
「いいこと! 正直、私はあんたらどうなろうと構わないわ。ユティーを囮にしたんだし」
「アニーちゃん、それはさすがに......」
「だけど、ユティーは生きてる。
そして、ユティーが生きてる時にあんたらが死ぬのが一番最悪だわ。
だから、くれぐれも出しゃばらないこと。
Bランクパーティは基本荷物持ちだし、荷物でも死守してなさい」
「とまぁ、アニリスはユトゥス兄さんにゾッコンなわけだけど――」
「ぞ、ゾッコンまではいかないわよ! まぁ? そのお兄ちゃんは.......ゴニョニョ」
「はい、アニリスはあっちで行ってようか」
ドンバスがアニリスとユミリィを連れて離れていく。
サクヤは「少し脱線したね」と言い、話を戻す。
「アニリスが言った通り、Aランクパーティは基本戦いに集中する。
だから、君達が戦うことはまずないと言ってもいい。
でも、君達が運ぶ荷物は僕達の命の生命線だ。重要な仕事になる。
僕達が無事に探索して戻って来れるかは君達にかかってるんだ。いいね?」
「「「はい!」」」
「良い返事だ.......なんてね。ユトゥス兄さんの真似してみた。
あ、これ内輪でしか盛り上がんない。
コホン、それじゃあ、そろそろ行こうか。ユトゥス兄さんを探しに」
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