第34話 一人ぼっちの二人#6
自信に満ち溢れた言葉をかけるユトゥス。
その言葉に、気持ちが沈んでいたフィラミアの顔がゆっくりと上がる。
「......本当ですか?」
「あぁ。だが、あくまで検証結果次第だ。だから、頑張ってみせろ」
(応援の言葉にしては言い方があるだろ)
相変わらずの言い草に、ユトゥスは内心でのセルフツッコみをする。
とはいえ、それでも言いたいことはしっかりと伝えてくれているようだ。
そう考えると、黙ってる最中に勝手にしゃべり始めた時よりはまだマシな方かもしれない。
それよりも今考えるべき問題はフィラミアの職業についてだ。
彼女の職業は「魔法剣士」という非常に稀有な職業。
この世界でも何人いるかというレベルで、ステータスも"レベル15"にしては軒並みステータスが高い。
理由は色々あるだろう。
職業的な能力値の上り幅とか、種族的な上がり幅とか。
しかし、今探ることは能力値の詳細を明かすための謎ではない。
なぜ「魔法剣士」という職業を与えられた彼女が、どちらもスキルを発動できないかという謎だ。
そして、その謎を解き明かすヒントにあったのが先の彼女の言葉。
フィラミアは幼少期に魔法だけを母親から教わっていたという。
その際、母親からは「ソックリ」だとか「お父さんをビックリさせるから二人だけの内緒」と言われたらしい。
特に意識せず聞いていたのなら変にも感じないかもしれない。
しかし、娘が魔法を使えた際に自分にソックリという褒め方をするだろうか?
それに、彼女の両親は娘を深く愛していた。
ならば、成長した娘の姿を父親に内緒にしておくのはおかしい。
「フィラミア、いけるか?」
「はい、いけます。やらせてください!」
フィラミアが立ち上がる。
魔力ポーションを飲んで体調が回復したようだ。
どうやら魔族のアルミルが思いっきり吐いた代物をしっかり飲み干したらしい。
ユトゥスの自家製ポーションは、まだ改良前のためとてもまずかっただろうに。
フィラミアは左手を支えに右手を伸ばす。
深呼吸し、意識を高めているようで表情に険しさが表れている。
しかし、このままでは先程と同じ結果になるだろう。
だから、ここでユトゥスはちょっとしたアドバイスを送る。
「フィラミア、貴様は魔法を使う時何を意識していた?
魔力操作か? 詠唱か? 完成された魔法のイメージか? それとも――母親の姿か?」
「っ!?」
「魔法を放つことを意識するな。俺の評価を気にするな。
貴様はただ昔のように母親に魔法を見せるようにやってみろ。いいな?」
「......はい!」
フィラミアの母親が言っていた父親をビックリさせるという発言。
ソックリという言葉もそうであろう。
しかし、きっと母親は魔法について発言していたものでない。
魔法ではない何か、それこそフィラミア自身に起こる変化が原因だったはずだ。
「お母さんをイメージ.......お母さんをイメージ」
フィラミアの全身が僅かに発光し始める。
同時に特徴的だった容姿はその姿を変えていく。
「やはり、そういうことだったみたいだな」
*****
魔法を発動させようとするフィラミアは、体の変化を敏感に感じ取っていた。
(熱い、全身が熱い。だけど、嫌いじゃない。
全身の魔力が活性化して、血流を押し上げる。
まるで運動した後のような火照り。
右手に魔力がスッと流れていくのがわかる。
だからこそ、ここは丁寧にいこう)
「生命の源よ、自然の恵みよ、母なる海の寵愛よ。
この手に収束し、敵を穿つ弾丸となれ!――水球!」
瞬間、右手から大きさ三十センチほどの水の塊がバシンと放たれる。
それは目標にしていた正面にある木に直撃し、大きな凹みを作った。
「で.......きた? 出来た。出来た! 魔法が撃てた!
主様! 魔法が撃てました! 主様の助言のおかげで!」
「みたいだな。やればできるじゃないか」
フィラミアは喜びをすぐにユトゥスへと報告した。
それに対し、ユトゥスはそっぽ向いて返答する。
たまたまかと思えば、腕を組んだままずっとそのまま顔の向きを変えることがない。
「主様?」
フィラミアは近づいて目線を合わせようと回り込む。しかし、逸らされる。
二回、三回と繰り返しても結果は同じ。挙句の果てには後ろを向かれた。
「え、私......成功しましたよね? それとも 主様に何かしてしましたか?
「貴様、自分の姿を確認したか?」
「え?」
「服がずり上がって、下半身が丸出しだぞ」
フィラミアはその言葉にキョトンとする。
確かに、先程から妙に強く下半身がスースーする気はしていた。
しかし、それは盗賊達に布切れ一枚の服に着替えさせられたせいで――っ!?
「.......ひゅっ」
フィラミアは短く息を飲んだ。
真下を覗こうとしたら胸が邪魔で上手く見えない。
自分は大きい方だったが、全く足元が見えないことは無かったはずなのに。
しかし、もし胸が大きくなっているとしたら、その分裾が上がって......!
「ひゃあああああ!?!? み、見ないでください! 主様!」
「だから、目を逸らしてるだろう」
「でも、その、見たいなら我慢します......」
「求めてないからまずは自分の容姿の変化を確かめろ」
しゃがんで下半身を隠すフィラミア。
年頃の女の子もさすがに涙目である。
しかし、ユトゥスが後ろを向いていることを確認すると、自分の容姿を見た。
まず以前の姿の大きな違いとして、獣人の特徴である耳や尻尾が無くなっている。
その代わり、こめかみから魔族特有の角が生え、腰にある羽は大きくなっている。
また、キツネの尻尾の代わりに先端がハートの形をした黒く細い尻尾になっていた。
さらに、下腹部には淫紋という淫魔特有の模様がある。
それから、付け加えるなら胸が少し大きくなっている。
母親ソックリの巨乳だ。
「どうしてこんな風に.....」
「他にも魔法は使えるか?」
ユトゥスに聞かれ、フィラミアは別の魔法を試す。今使える魔法は全て使えた。
加えて、羽が大きくなったおかげで浮くことが出来た。
浮けたのなら練習すれば飛び回ることも出来そうだ。
試しに棒切れを振ってみるが、そちらは相変わらず。
「魔法は問題なさそうです。後、羽が大きくなって飛べるかもしれません」
「そうか。なら、答え合わせの前にもう一つ試してみろ。
今度は父親の姿だ。父親も何も毎日狩りに行ってたわけでは無かろう。
中には外で素振りしてた時だってあるはずだ」
「そうですね。イメージしてみます」
フィラミアは過去の記憶を思い返す。
庭で父親が一体どういう風に剣を振っていたか。
先程魔法を使う母親をイメージしたのなら、今度も剣を使う父親をイメージすればいい。
瞬間、再び体が熱くなる。しかし、先程より冷静さがある分変化に気付いた。
角と羽、そして尻尾が引っ込み、代わりにキツネ耳と尻尾が生えてくる。
加えて、胸が少し控えめになり、少し大きかったお尻もキュッとしまる。
「これは......」
静かに目を開けた。
最初に移ったのは慎ましやかな胸だった。通常状態よりも小さい。
お尻も小さくなっており、先程がグラマラスだとすれば、こちらはスレンダーだ。
(ちなみに、下半身は.......うん、見えてない)
余計なものが削ぎ落された分、体が軽い。
まるで羽が生えたようだ。羽無いけど。
試しに軽く走り出してみる。
バッと一歩で数メートル移動できた。
身体能力が飛躍的に向上している。
「主様、この姿なら見ても問題ないです」
「.......本当だろうな?」
「だから、痴女じゃありません! そんなにお望みなら主様だけの痴女になりますが!?」
「なんだその脅し文句は。わかった」
ユトゥスがこちらを向いたのを確認し、拾った枝を振るう。
そして、スキルを発動。ブンッと問題なく振ることが出来た。
「剣術が使えます!」
「魔法は?」
魔法を試してみる。使えない。魔力が抜けるだけだ。
「ま、予想の範囲内だな。では、なぜそうなるのか答え合わせをしよう。
とはいうが、その答えはあまりにも単純なんだがな」
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