第33話 一人ぼっちの二人#5
「私の職業......ですか?」
「あぁ、中々に興味深い。だが、その前にこれはただの知的好奇心なんだが、貴様はどうやって職業を得た?
人族の世界では、職業は基本的に神から与えられる恩恵やら恩寵のようなものとされている。
ま、その恩恵に随分と悪意のある偏りがある気がするけどな」
そんなユトゥスの質問に、フィラミアは昔の記憶を掘り起こすように目を瞑った。
彼女がその職業を貰った時の記憶は十歳の頃。
初めて森から離れた時だった。
突然父親に連れ出され、外套で全身を覆うと、比較的差別意識の低い人族の街へ向かった。
そして、その街にある教会で祝福してもらい、職業を授かった。
そのことを説明すると、ユトゥスは腕を組んで情報を整理する。
「つまり、種族問わず職業というのはあくまで神から与えられる力ということか。
ならば、貴様は父親がいなければ、職業すら会得出来ずもっと苦労していただろうな。
父親に感謝しとくことだな。そのおかげで貴様はこれから生きる術を手に入れられるのだから」
「そうですね。両親には感謝してもしきれないです。
例え、私が誰からも嫌われるような存在だとしても、両親は私を愛してくれていましたから」
「おい、貴様。俺を忘れるな。
俺は貴様の主だぞ? 嫌いなら貴様をそばに置くわけないだろう」
「主様.......」
その言葉にフィラミアの心臓がドキッと跳ねる。
毅然とした態度。堂々とした言葉。
だからこそ、余計にその言葉の威力がが強い。
安心できる人だとわかったからこそ。
本来の自分を見てくれるとわかったからこそ胸が熱くなる。
わずかに鼓動が早くなる。我ながらなんともチョロい心臓だ。
「それに嫌われ者は何も貴様だけではない」
ユトゥスは自身の前髪を摘まみ、銀髪の髪を軽く持ち上げる。
「この髪色はなぜだか人族からは大不評だ。呪い持ちの証とされている。
そして、目の色。深い赤色をしたこの目は魔族から目の敵にされる。
なんでもこの目は本来魔族の中でも選ばれた王族にしか与えられない目らしいからだ」
「そうなんですか。そんなに美しいのに......」
口からポロッと漏れてしまった言葉。
フィラミアは思わずハッとし、すぐさま口を手で覆うが時すでに遅し。
なぜ彼女がそんな行動をしたか。
それは「男の人に美しいというのは褒め言葉じゃない」と思ったからだ。
父親からもよく「カッコいい」と言ってくれとお願いされていた過去も含めて。
フィラミアは耳をペタンと伏せ、ユトゥスの反応を伺った。
さすがのユトゥスもこの生意気な言葉には怒るかもしれない、と思ったのだ。
しかし、結果から言えば全然そんなことは無かった。
それどころか僅かに微笑んでいる。
「そうだな。最初こそ呪いの証とされるこの髪色、魔王の血筋と同じこの目になって驚いた。
だが、別にこれらの色自体は全然悪くないものだ。俺も嫌いじゃない」
「最初こそ? 元は違う色だったんですか?」
「あぁ。ま、今更だ。貴様が気にする必要もない」
ユトゥスは「話が脱線したな」と一つ咳払いすると、本題に入った。
「貴様の職業は『魔法剣士』と呼ばれる珍しい二職融合タイプの職業だ。
つまり、貴様は魔術師でありながら剣を巧みに扱え、剣士でありながら遠距離から多種多様な魔法が放てるということだ」
「そうなんですか? 私、職業を与えてもらったことは知っていましたが、てっきり『魔術師』だけかと」
「自分のステータスは自分で見れることを教えてもらわなかったのか?」
「自分のステータスって自分で見れるもんなんですか?」
その言葉に、フィラミアは首を傾げた。
初耳の概念だ。両親からは聞いたこともない。
そして、ユトゥスに言われた通り、試しに自分の能力を見てみた。
―――
名前 フィラミア=ユーベルト=ローレクシア(17)
種族 獣人族(純潔)と淫魔族(純潔)のハーフ
性別 女 レベル15
職業 魔法剣士
<装備>
薄汚い一張羅
手作りの布靴
筋力値 65
防御値 59
魔防値 58
魔法値 62
行動値 60
魔力値 85
器用値 40
<魔法・技能スキル>
『技能』
剣術レベル1、魔術レベル3
<石割>
『魔法』
生活魔法、火球、水球、風刃
<称号>
獣人族王家の血を引く者、淫魔族王家の血を引く者、
高潔なる存在、完璧なハーフ、惑わす者、駆け抜ける成長、二種族の嫌われ者、唯一無二の存在
―――
「本当に『魔法剣士』でした。でも、ならどうして剣の振り方を教えてくれなかったんでしょうか?」
「さあな。だが、父親的には自分の娘に剣なんて物騒なものを振って欲しくなかったんだろう。
俺がいた村にもそんなことを言っている親がいた。あくまで推測だがな」
フィラミアはその言葉に思い当たる節があった。
というのも、父親は母親からは朴念仁と呼ばれる人物だったが、娘には過保護だった。
それこそ、森を行動するときは必ず同伴するぐらいには。
それは特殊な事情もあったかもしれないが、それ以上に単純に娘が可愛かっただけかもしれない。
であれば、ユトゥスの言った通り、自分の娘に包丁以外の刃物を持たせるのは嫌だったのだろう。
「ふふっ、そうかもしれませんね」
「ま、先程の事情を聞いた後では甘い判断としか言えないがな。
だが、年下は甘やかしたくなるものだ。気持ちはわからんでもない。
とはいえ、俺が主となった以上、貴様には魔法も剣も上達してもらう。
これは絶対だ。俺のために努力を怠るなよ」
「はい!」
「良い返事だ。なら、まずはその職業を見せてみろ」
フィラミアは言われた通り、近くに落ちていた丈夫な枝を拾い、剣士っぽく上から下に向けて振り下ろす。
「スキルを使ったか?」
「いえ......」
「なら、スキルを使ってみろ。剣なら誰でも振れる。問題はスキルを使えるかだ」
「はい、わかりました――石割!」
フィラミアは剣のスキルを使って枝を振る。
ブンと風切り音がするとともに、枝は近くの大き目な岩石に直撃。
しかし、剣技スキルは発動しない。
それどころか、まともに剣を持ったことのない彼女の手から、弾かれたと同時に、枝がすっぽ抜けてユトゥスに向かって飛んでいった。
「危ない!」
フィラミアは咄嗟に叫ぶ。
しかし、ユトゥスは腕を組んだまま顔色一つ変えずに佇むのみ。
そして、枝はユトゥスの目の前で、弾かれるような軌道をしてどこかへ飛んでいった。
(あれ? 今、枝が勝手に進路を変えるように右に曲がったような......)
そう思いながらも、フィラミアはすぐに謝罪を述べる。
「すみません、主様!」
「ふん、これぐらいどうってことない。気にするな。それよりも使えたか?」
「え、あ、その......その振り下ろしても発動した感じはなくて......」
「そうか。なら、今度が魔法を使用してみろ」
「.....はい」
次に、ユトゥスから魔法を発動させるように指示が来る。
フィラミアは両手を伸ばし、手のひらに魔力を集中させた。
「行きます――水球」
―――ポスッ
「......っ!?」
魔力が抜ける音だ。これでは魔法が発動しない。
フィラミアはその出来事に一瞬目を白黒させるも、もう一度手に魔力を集中させ、スキルを発動させる。
―――ポスッ
「っ!? すみません、もう一度チャンスをください!」
―――ポスッ
「どうして!?」
それから何度試そうとも結果は変わらなかった。
魔法は一度たりとも成功しない。
「魔法剣士」の職業なら魔法も使えるはずなのに。
(どうしようどうしよう......!)
フィラミアの顔に焦りばかりが募る。
ユトゥスが優しい人だからとはいえ、それに付け入れば自分は弱いままだ。
守られるだけの存在は嫌で、力になりたい人がいるから変わりたいのに。
このままでは失望されて――
「フィラミア、もういい」
ユトゥスから肩に手を置かれる。
「いえ、必ず成功させます!」
「いや、命令だ。今すぐやめろ。顔が青ざめてきている。魔力枯渇の初期段階だ。
魔力ポーションを渡しておく。まだ不味いが飲め。効果はある」
「大丈夫です。次なら――」
「これ以上は無意味だ。ぶっ倒られる方が迷惑だ。大人しく休め」
「はい.......」
フィラミアはトボトボと近くの木まで歩き、それに寄りかかるように座った。
意固地になって逆に迷惑をかけてしまった。こんなつもりではなかったのに。
このままでは本当にただ好意に甘えるだけの人になってしまう。
それだけは嫌なのに.......。
「......時にフィラミア、貴様は過去に魔法を撃てていたのだろう?
その時に親から何か言われていなかったか?」
「え、えーっと、魔法はよくお母さんに見てもらっていて、『わぁ、お母さんにソックリ』って言ってました」
「他には?」
「確か『お父さんにビックリさせちゃうから二人だけの内緒ね』と言ってた気も。
すみません、色々あった気がしますが、上手く思い出せません」
「気にするな。にしても、魔法を撃ててその反応.......ふむ、なるほど。恐らくそういうことだろうな」
何か納得いったようにユトゥスは頷く。
そして、ニヤリと笑った。
「安心しろ。貴様は見込みのある下僕だ。見捨てはしない。
それにこの検証如何では貴様は魔法も剣も使えるかもしれないぞ」
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