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逆転の反逆者、その意に逆らう~職業不明の青年が迷宮で神様から力を貰い、その力で英雄へと至るまで~  作者: 夜月紅輝
第2編 異端者は集う

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第32話 一人ぼっちの二人#4

 フィラミアの両親は父親が獣人族であり、母親が淫魔族であった。

 加えて、両者は互いに純血であることから王族である。

 そのことを知ったのは、まだフィラミアが幼い頃。


 母親がそう言っていたし、父親もそうだとコッソリ教えてくれた。

 そして、両親が駆け落ちした際に身篭ったのが、二人の血を綺麗に引いたフィラミアだ。


 フィラミアは親の愛情を深く与えられた。

 家族の仲はとりわけ良好だった。

 ただ、彼女を取り巻く環境はあまりにも過酷であった。


 なぜなら、獣人族と魔族である淫魔族の関係性は非常に悪い。

 かつて獣人族が魔族と戦争をしていたこともあったからだ。


 故に、獣人族からも魔族からも、ましてや亜人(※人族以外の種族の蔑称)を嫌う人族からも狙われている。


 まだ、獣人族と魔族から直接狙われたことは無い。

 しかし、両親が口を酸っぱくして言ってたからよく覚えている。


 非常に特殊な位置にいる存在。それがフィラミア。

 そんな身寄りのない彼女にとってたまたま出会ったユトゥスはまさに希望だった。

 独力で生きるも知識も無ければ力不足もいい所。

 だから、フィラミアは下僕になることにした。


―――下僕生活一日目


 フィラミアの朝はユトゥスから起こされるところから始まった。


「起きろ、フィラミア。朝食の準備はしてやる。顔を洗ってこい」


「え? あ、はい」


 言われた通りに近くの河岸に移動すると、そこで顔を洗う。

 冷たい水が意識を覚醒させた。

 戻ってくると何やら妙な視線をユトゥスから向けられる。


「おい、貴様」


「は、はい!」


「貴様は女だ。身だしなみには気をつけろ。せっかくの素体が勿体ない」


 何を言われたのか一瞬理解に遅れるフィラミア。

 まさか「下僕になれ」と言った相手にそのようなことを求めるとは。

 挙句の果てにはユトゥスの手によって寝癖を直される。


 その時、小さい頃に母親が髪を梳いてくれたことがあった思い出が、フィラミアの脳裏にふと蘇った。


「あ、あの.....」


「なんだ? 文句でもあるのか」


「いえ......」


 しかし、相変わらず言い方はキツい。有無を言わさぬ覇気を纏っている。

 その後、フィラミアが食事を終えると、ユトゥスから渡されたのは何やら布だけで雑に縫われた靴だった。

 とても手作り感満載だ。


「貴様は俺の下僕だ。些細なことで怪我されるのは敵わん。

 それに女はむやみに肌に傷を残すものじゃないからな。

 だから、一時的にもその靴を履いていろ」


 そう言われて履いてみればジャストフィット。

 夜中寝ている最中にサイズでも測ったのだろうか。

 というより、先程から凄く面倒見がいい。


 その後、フィラミアがユトゥスから最初に教えられたのは山菜の取り方だった。

 「森の中は知識さえあれば食材の宝庫だ」とか「ものによっては罠も作れる。野生の魔物も狩ることが可能だ」ととても優しくレクチャーしてくれるユトゥスに、フィラミアの印象は上がっていく。


 また、夜遅くになれば「健康に悪い。先に寝ろ」と言って下僕扱いを宣言した割には、全然下僕らしいことをさせない。

 そんな姿は、フィラミアになんだかんだ面倒見のいい口の悪いお母さんぽい印象を感じた。


―――下僕生活二日目


 昨日と同じような朝を迎えると、ユトゥスが今度教えたのは釣りであった。

 釣りは父親と行ったことがあるのでフィラミアも知っている。


「ユトゥスさん、釣りは経験があるんで勝負ですね!」


 フィラミアはそんなことを言ってみた。

 ユトゥスは言動こそアレだが、優しい人物であるとわかった。

 なので、仲良くなるために思い切って誘ってみたのだ。


「ふっ、いいだろう。貴様ごときが俺に勝てるとは思えないがな」


 案の定乗ってくれた。やはりノリはいい人らしい、と思うフィラミア。

 そして、唐突に始まった釣り勝負、二人は一斉に釣り餌を川に投げ入れた。

 フィラミアはセンスがいいのかどんどんと釣り上げていく。

 その一方で、ユトゥスは未だボウズ。

 しかし、その事に苛立ちを見せる気配は無い。


「やはりたまにはこういうのんびりしたのもいいもんだ。

 フィラミア、貴様もそう思わないか?」


「そうですね。両親以外の誰かと過ごす穏やかな日々はこれが初めてですが、その相手がユトゥスさんで良かったです」


「どうやら貴様は媚び方が上手いらしい。悪くない気分だ。

 いいだろう。美味い料理を食わせてやる。

 貴様は手を洗って俺の施しを感謝しながら待っていろ」


「お母さん.....」


「俺は貴様の母親では無い」


 しかし、それからもユトゥスのお母さん的行動は続く。

 裁縫を教えたり、料理を教えたり、挙句の果てにはたまたま見つけた花畑で花かんむりの作り方を教えてくれたり。


 それらはユトゥスが弟や妹のように接してきた「満点星団」のメンバーとのやり取りで身につけたものだが、そんなことを知らないフィラミアからすればもはやただのお母さんだった。


―――下僕生活三日目


 全然下僕らしいことをしていない、とフィラミアは思った。

 色々なことを伝え方は悪いが、丁寧にイチから教えてくれる。

 それはとても嬉しいが、どうしてそこまで面倒を見てくれるのか。

 そのことに疑問を持ったので、思い切ってユトゥスに聞いてみることにした。


「あの、どうしてそこまで優しくしてくれるんですか?」


「優しく? 俺が貴様に対してか?

 勘違いしているようだが、今の貴様の不健康な状態じゃ下僕として役に立たんだけだ。

 貴様の力を最大限に引き出すのも主として当然の責務。

 貴様は俺の指示に従っておけばいい」


「っ! あのお母さんって呼んでいいですか?」


 瞬間、フィラミアとユトゥスの間に優しい風が割り込む。

 木漏れ日は二人を照らし、幻想的な雰囲気を作り出す。

 そして、フィラミアに対するユトゥスの回答は――


「は?」


 困惑した表情のユトゥス。

 当然の反応であった。


「すみません、間違えました。主様って呼ばせてください」


 それは初めてのフィラミアからの意思表示であった。

 最初こそ「下僕になれ」と言われて、気持ちは複雑だった。

 助けて貰った恩義はあれど相手は自分を襲ってきた盗賊と同じ男。


 どこかも知らない森の中で生きる術が無かった。

 だから、その言葉に対し拒絶することなど出来なかった。

 どんな過酷な要求をされるのかと覚悟した。

 しかし結果は、相手は主どころかお母さん。


(あ、これ私をダメにするタイプの人だ)


 その時、フィラミアは確かにそう思った。

 言葉遣いとは裏腹に相手は意外にも家庭的。

 きっと昔に自分より下の子の面倒をよく見ていたことが分かる。


 加えて、山菜の取り方や自然を利用した罠の張り方、魔物の生態に感じてまで一聞けば十のことが返ってくる程には博識で、そこからも多大な努力が伺える。


 そんな相手にまともに下僕扱いされていないどころか、今の自分はさながら親に守られてる子供と同じ。


 これではいつまで経っても自分は弱いままだ。

 本当は両親が失踪した理由も知りたいが、今の弱いままではたどり着くことも出来ない。


「私がそう呼びたいんです」


 そんなこんなとフィラミアにはたくさんの理由がある。

 しかし、それと同じくらいに思ったのは、目の前にいる人を一人にさせては行けないという気持ち。


 盗賊を倒した時のあの目。深い憎悪が見え隠れしていた。

 あの状態を放置しておけば、こんな優しい人が破滅していく。

 恩人のそんな姿は見たくない。

 ならば、恩を返すつもりでこの人を助けたい。


「ほぅ? 自ら進んで俺に仕える道を選ぶとは殊勝な心がけだ。

 いいだろう、許可する。貴様はこれから尊敬と感謝の心を持ってそう呼べ」


「はい! わかりました、主様!」


「それからくれぐれも俺をお母さんと呼ぶなよ。むしろ、そうなるのは貴様の方だ」


「......え? ええええぇぇぇぇ!?!?」


 突然の言葉にフィラミアは気が動転する。

 まさかいきなりそのようなことを言われるとは。

 そして、フィラミアの脳内は慌てふためき大パニック。


(え、催淫は効いてた? でも、顔の紅潮は見られない。

 あれ、でもでも目は本気っぽい。ナニコレどういうこと!?

 も、もしかして、両親がやってた夜の営みをご所望ってこと!?)


 顔を真っ赤にし、尻尾をブンブン振るフィラミア。

 そんな彼女に対し、ユトゥスは首を傾げる。


「何を驚いている。下僕になるのだから当然だろう。

 料理、裁縫、洗濯、その他諸々を含め、貴様には家事を叩き込む。

 出来るまで付き合うから安心しろ」


「あ、あ〜、そういう......」


 フィラミアは別の意味で顔から火が出そうになった。

 確かに、フィラミアは先程まで「家庭的」という意味で「お母さん」と呼んでいた。

 だから、ユトゥスが言った「お母さん」も正しくその意味だ。


 しかし、先程の自分は完全に夫婦間の「お母さん」と勘違いしてしまった。

 それではまるでまだ出会って三日目の相手と夫婦になることを望んでいたみたいになるではないか。


「わ、私ってこんなにはしたなかったでしょうか」


「安心しろ。貴様はまだフォローが出来る救いようのある痴女だ。気にするな」


「だから、私は痴女じゃありません! どこも安心できませんから!」


 ユトゥスの言葉に、フィラミアは鋭くツッコむ。

 とはいえ、ユトゥスにそう認識されてしまっているようだ。

 これは早急に解決せねば。


 フンスと何やら気合を入れるフィラミアの一方で、ユトゥスは気にせず話を変えた。


「それよりも、今日の指導内容だが、貴様に求めるは戦闘力だ。

 どうやら面白い職業を持っているようだからな、まずはそれを鍛えることにしよう」

読んでくださりありがとうございます(*'▽')


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