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逆転の反逆者、その意に逆らう~職業不明の青年が迷宮で神様から力を貰い、その力で英雄へと至るまで~  作者: 夜月紅輝
第2編 異端者は集う

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第31話 一人ぼっちの二人#3

 見られた、そんな感想をフィラミアは抱える。

 しかしその一方で、困惑の気持ちも含まれていた。

 それは自分の真の姿を見ても表情一つ変えないユトゥスに対してだ。


「......」


 フィラミアは、昔から両親から無意識な催淫はくれぐれも気をつけろと言われていた。

 とはいえ、フィラミアが暮らしていたのは人里離れた森の中。

 そこで両親以外とロクに人と関わらず森の中に過ごしてきたのだ。


 だから、どう気をつければいいかわからなかった。

 加えて、その理由をハッキリと教わる前に両親が失踪したのもある。


 両親はどこへ行ったかもわからない。最初に父親が、その次には母親が。

 フィラミアは健気に親の言いつけを守り、一人で家を守っていたがそれも限界があった。

 なぜなら、亜人排他主義の人族が襲ってきたからだ。


 獣人族と魔族という気味悪い存在を人族は嫌がった。

 そして、その両方の性質を持つフィラミアは言わずもがな。


 フィラミアの姿を見て人族達は半狂乱で襲い掛かる。

 異様な興奮の仕方をしており、初めて見る両親以外の顔にフィラミアは恐怖した。。


 そして、人族に家を燃やされ、その光景にとめどない悲しさを感じ、涙を流し続けるも逃げた。

 その逃げた先で出会ったのがあの盗賊の男達だった。

 男達もまたフィラミアを見た瞬間に狂った。


 そこでようやくフィラミアは催淫の効果を知った。

 この力はそういう力なのだと。

 異性であれば誰彼構わず催淫してしまう能力。


 いや、相手が異性しかいなかったからわからないが、もしかしたら同性でも可能かもしれない。

 それが自分の地に流れる淫魔(サキュバス)の力。


「見てしまったのは偶然だ。許せ」


「.......」


 だからこそ、この姿を見ても効果が無い人がいるのは初めて知った。

 その瞬間、どうしようもなく興味が湧いた。


(口は悪いけど助けてくれた恩人.....どうして素っ気ないんだろう)


 ただ、それが不思議と少しムカつきもする。今までにない感覚だ。

 ユトゥスに正面を見られないように咄嗟に沈めた体。

 ユトゥスも気を遣っているのか視線を外しながら仕留めたイノシシを解体している。


 フィラミアは周囲を見渡す。他に誰もいる気配はない。

 催淫の効果が効かないのはこの人が特殊なのか。

 もしくは先ほどの目が合う一瞬で何か魔法を使ったのか。

 効かないのであれば一体どこまで効かないのか。


 この力は今や一パーセントも出していない。

 徐々に出力を上げていけば、どこまで効くのか。

 初めて効かないという相手に出会いそこの興味が尽きない。

 そして、やはり何も反応がないことに僅かな苛立ちがある。

 

 この結果の最悪がどういうものかはわかっている。

 それでもウズウズしてしまっているのはユトゥスだからか。

 はたまた、嫌悪感を抱かなければアリという淫魔の性質か。


「あ、あの......!」


 フィラミアは衝動のままに立ち上がる。

 僅かな水しぶきが飛び、川の水面に波紋を広げるがすぐに水の流れに掻き消える。

 太陽の光に照らされ、艶やかな肌を露わになる。

 正面は流石に恥ずかしい。でも、背中ならいけそう。


「こちらを見てくださいませんか?」


 フィラミアの心臓はバクバクと今までにない跳ね方をしている。

 まるで耳元に自分の心臓があるかのようだ。

 顔が熱くなる。さらに体に熱を帯びる。

 自分がおかしなことをしてることは十二分に理解している。

 しかし、一度触れてしまった知識欲から足を抜け出せない。


「ん?」


 イノシシを解体していたユトゥスがこちらを見る。

 フィラミアは今にも閉じたくなる目を我慢しながら様子を伺った。

 すると、ユトゥスの目が僅かに開いたことがわかった。

 しかし、すぐに元に戻り表情変化もなくイノシシの解体に戻ってしまう。


「なんだ貴様......あぁ、ただの痴女か」


「ち、違います! これはその......ただの検証です!」


「出会って間もない俺で素っ裸を見せる検証するのはおかしいだろ」


 それはそう。ぐうの音も出ない正論に返す言葉もない。

 しかし、これでハッキリした。ユトゥス(この人)は単純に催淫が効かないのだと。

 それはフィラミアにとって初めて安心できる場所を見つけた感覚だった。


 催淫により惑わされず真の自分を見てくれる存在がいる。

 それがわかると心と体が途端にリラックスする。

 しかし、それでもやはり負の気持ちもあるようだ。


「だが――」


「え?」


「もし、その羽について尋ねているのであれば先ほどの回答は変わる。

 確かに、貴様のような獣人は初めて見た。だが、その姿を恥じることはない。

 他と違うからって自分を見失うな。貴様は貴様だ」


「っ!」


 特に求めた答えではなかった。だが、すごく勇気づけられる言葉を貰った。

 それに両親以外に初めて自分を肯定してくれた。それが嬉しかった。

 トクンとフィラミアの胸が弾む。先程とは違う感覚。

 心地いいし、もっと感じていたい。


「血抜きしたら飯にするぞ。風邪を引く前に早く着替えろ痴女」


「痴女じゃありません!」


 だけど、やっぱ言動は横柄だ、とも思うフィラミアだった。


―――数分後


 フィラミアの興味は催淫が効かない人からユトゥス本人へと移った。

 即席の焚火で肉を焼くユトゥスをじっと観察する。


「やっぱ生活魔法は取得して正解だったな。これがなきゃロクにサバイバル出来ん。

 良い具合に焼けてきたみたいだな。うん、いいニオイ。さすが俺だ」


 焚火で焼く肉を見ながら自画自賛するユトゥス。

 肉の油が焚火に弾け、そこから香りの爆弾が広がる。


 すると、そのニオイはフィラミアの鼻孔にダイレクトアタック。

 そんなニオイに対し、長らくまともな食事をしてこなかったせいかフィラミアは涎が止まらない。


「食え」


「え?」


 ユトゥスが焼いた肉をフィラミアに突き出した。

 塩と胡椒が効いた美味しい事間違いない骨付き肉だ。

 加えて、ちょこんと乗ったハーブらしき葉っぱが香りを一層引き立てている。

 今すぐ食らいつきたい衝動に駆られるフィラミア。

 しかし、先に貰うわけには......。


「いいえ、先に食べてください。私は後でいいですから」


「いいから食え。貴様は血色が悪い。体力が落ちている証拠だ。

 本来はもっと胃に優しい食事の方がいいだろうが、森の中じゃそうも言ってられない。

 体は全ての資本だ。食わなきゃやってられない。だから、食え。命令だ、痴女」


「だから、痴女じゃありません! フィラミアです!

 ですが、そういうことならありがたくいただきます」


 ユトゥスから骨付き肉を受け取ると、フィラミアは涎が溜まった口でパクリ。

 瞬間、口の中でバチバチと弾けるかのような肉汁がいっぱいに広がる。

 美味し過ぎて涙が出た。それでも食べることを止められない。

 尻尾がぶんぶんと揺れ、羽がパタパタと動く。


「ゆっくり食え」


 そう言いながら、ユトゥスは新たな生肉に塩と胡椒を振りかけ、その肉を焼き始めた。

 そして、炎で炙られる肉を見ながらフィラミアに話しかける。


「貴様の先程の行動原理については理解している」


「ふぇ?」


 肉に齧りつきながら返事してしまったことに恥ずかしさを感じるフィラミア。

 しかし、ユトゥスは気にすることなく話を続ける。


「俺が昔読んだ著書に『魔物や種族の動物生態学』って本があってな。それに淫魔のこともあったんだ」


「......それについては何て書いてありましたか?」


「淫魔は一言で言えばナルシストだ。自分の美や可愛らしさに自信を持っている。

 加えて、実際に容姿も優れているため、周囲からモテることはプライドの維持にも繋がる。

 しかし、稀に催淫に対して効果が無い、もしくは極端に薄い人物が現れた場合強い苛立ちを覚えるらしい。

 ちなみに、なぜ俺に効かないのかは俺自身わからん」


 その言葉にフィラミアはドキッとした。

 まるで自分のことを見透かしているようで。

 いや、実際見透かしているのかもしれない。

 だからこそ、この話を切り出したのだろう。

 フィラミアは油まみれの口からそっと骨付き肉を離した。


「苛立ちとは言うが、その著者曰くそれは強い興味と置き換えられるらしい。

 だから、貴様が先程素っ裸を見せたのも恐らくそういう種族的性質によるものだ。

 つまり、貴様は痴女ではない。仕方ない痴女だったんだ」


「結局痴女じゃないですか!」


 とはいえ、先程の自分の異常性に気付けたのは良かったと思うフィラミア。

 催淫の効果の薄い人に所構わず裸を見せに行くようでは、それこそ言い訳しようのない痴女になってしまう。


 それに興味を持ったというのもあながち間違ってはいない。

 催淫によって魅了された自分を見ないで本当の自分を見てくれる相手。

 初めて対等に扱ってくれるような人が見つかって嬉しかった。


 その時、昔に母親が父親を好きになった理由を話したことがあった。

 その時の理由が「朴念仁だから」と言ってた気がする。

 ......なるほど、そういうことなら納得かもしれない。

 ん? というか、先程から普通に淫魔だと気づいて――


「あの、いつから私に淫魔の血が流れてるって気づいたんですか?

 さすがに羽を見ただけじゃわからないというか、似たような羽をもつ種族とかありますし」


「単純な話だ。俺には<鑑定>がある。それで種族を見ただけだ。

 ただ、淫魔と獣人族のハーフ......それも純潔同士のハーフとは恐れ入ったがな」


「っ!」


 フィラミアがズンと心が重たくなった気がした。

 自分は嫌われ者だ。誰も味方してくれる人はいない。

 加えて、催淫の効果もある。

 コントロールが出来ない今は作るのは敵ばかり。

 

「......」


 フィラミアは眉尻を下げながらユトゥスを見る。

 胸の中には漠然とした強く大きな不安がフィラミアの首を絞める。

 しかし、同時に小さく微かな希望も存在していた。

 

 もしかしたらこの人は味方になってくれるかもしれない、という気持ち。

 ここで言えなかったらもう一生こんなチャンスは来ない。

 両親の願いのためにも自分は幸せにならなければいけない。


「あ、あの!」


「なんだ?」


「ユトゥスさんと一緒に行動していいですか!?」


 言った。言えた。ちゃんとこの口から。


(どう返してくる? やっぱりこんな足手まとい嫌なのかな?)


 複雑に絡まるフィラミアの気持ち。

 それに対するユトゥスの答えは――


「ふん、そうか。なら、丁度いい。貴様はこれから俺の下僕だ」


「はい!......え?」


 下僕? と、フィラミアの顔は唖然となった。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')


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