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逆転の反逆者、その意に逆らう~職業不明の青年が迷宮で神様から力を貰い、その力で英雄へと至るまで~  作者: 夜月紅輝
第2編 異端者は集う

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第27話 森の中の出会い#6

 ヘルスパイダーとの戦いが終わった。

 目の前にはユトゥスの<逆転>による砲撃による抉れた地面の跡。


 この状況を生み出すには、アルミルをビンタしてKPを稼がなければ終わっていた。

 とはいえ、悪業でのKP稼ぎ.....それはユトゥスが避けていたことだ。


「立てるか?」


「え......あ、うん......」


 ユトゥスはアルミルに手を差し出し、繋がった手を引き上げる。

 そして、アルミルが立ち上がったので手を離そうとするが、なぜかアルミルの手が離れない。

 目の前に顔を向ければ、何やら熱っぽい視線でユトゥスを見ていた。


「手を離せ(訳:どうしたんだ?)」


 ユトゥスはアルミルの様子に首を傾げつつ、質問してみた......が、相変わらず上手く伝わらない。

 そのせいか、アルミルはビクッと反応してすぐに手を離す。


「あ、ごめん!......うっ」


「......」


 アルミルが突然胸を押さえ、苦しそうに呼吸し始めた。

 そんなアルミルの顔が青白い。魔力枯渇の症状である。

 そんな少女の様子を見ながら、ユトゥスは考えた。


(気分は悪そうだが、別に魔力枯渇で死ぬわけじゃない。

 最悪気絶するだけだ。ただ、森で気絶はある意味死を表す。

 なら、魔力ポーションでも渡すか)


 アルミルには共闘してくれた恩がある。無理やり共闘を組んだ気もしなくもないが。

 また、例え敵対関係でもここでお礼の一つも出来ないようじゃ、人としてダメだろうという意識もある。


 それ故の結果であり、ユトゥスは<亜空間収納>から濁った紫色の瓶を取り出した。


「飲め。魔力ポーションだ」


「え? その濁った色したやつが? 魔力ポーションってもっと透明度があったような――」


「いらないならそう言え。数が少ないんだ。無駄にするつもりはない」


「いえ、要ります! 要ります! ください!」


 アルミルに渡せば、疑うように瓶をじーっと眺める。

 そして、コルクの蓋を開ければ、意を決して口にした。

 瞬間、アルミルの目がかっぴらき、口からダバァ―とも汚い滝が出来る。


「め、めっちゃ不味い......」


「お手製だからな。だが、魔術師の貴様には無いよりマシだろ。

 ただ、不味いものを飲ませたのは悪かった。許せ」


「きゅ、急に素直に謝んな......」


 顔を赤らめるアルミル。

 ただし、なぜか必死に口を結んでいる。

 まるで何かに耐えているように。


 そんなアルミルの様子に、首を傾げるユトゥスは、とりあえずスルーしながら再び声をかけた。


「女、最低限の魔法は使えるようになったろ。手を貸せ」


 ユトゥスがアルミルの魔力を回復させたのは、何も恩を返すだけではない。

 打算的な理由もあったりする。


 というのも、ユトゥスに魔法が使えない今、蜘蛛の糸によって固定された魔族や冒険者を助けられるのはアルミルしかいないのだ。


「アルミル! 私はアルミルよ!!」


 ユトゥスが声をかけながら一人先を歩いていくと、背後からアルミルが大きく叫んだ。

 その言葉に、ユトゥスは振り返る。


「なんだ?」


「なんだじゃないわよ! さっきから女女女って......アタシにはアルミルって名前があるの!

 だから、名前で呼んで! じゃないとあんたの手を貸してあげない!」


 アルミルは腕組みをし、顔をプイっとそっぽ向ける。

 その姿に、ユトゥスなふと幼き日のアニリスの姿を重ねた。


(あの天才魔術師も村では随分な甘えん坊だったな)


 と、なんだか懐かしい気持ちになるユトゥス。

 そんな気分もあり、加えて女性に関して接し慣れている。

 故に、ユトゥスにとって名前を呼ぶなど造作もない行為だ。


「アルミル.....これでいいか? ついでに言えば、俺はユトゥスだ。頭に刻み込め」


「名前で呼ばれた......えへへ。それにユトゥスか......って何胸を熱くさせてるのよ! アタシィィィィ!!」


 名前で呼んであげれば頭を抱えて上下に振り始めるアルミル。

 そんな突然挙動不審な行動を始めるアルミルに、「え、何その行動、怖っ」と思いつつも、その挙動には一切触れず、ユトゥスは話を進めた。


「アルミル、ここで大規模な戦闘が起きたことは理解してるな?」


「えぇ、そりゃもう。それがどうしたの?」


「つまり、騒ぎを聞きつけた冒険者が集まってくるかもしれないということだ。

 貴様らにどういう事情があってここにいるのかは知らん。

 が、俺はむやみに命を奪うことはしない。

 貴様らがここで手を引くというのなら、見逃してやる」


 アルミルの顔が真剣味を帯びる。

 その時、アルミルがようやく事の状況が理解したことを、ユトゥスは理解した。


 ユトゥスが戦ったアルミル達、そして冒険者達。

 それらの戦闘は偶発的に起きてしまったものだ。

 しかし、その事情をよそからやってきた冒険者は知る由もない。


 仮に、戦いを避けるために事情を話そうとしても、相手は呪い持ちと魔族だ。

 聞く耳を持つかどうかも怪しいし、その場合また派手な戦闘になる。


 その場合、KPが尽きている今のユトゥスに対抗手段は何もない。

 また、ユトゥスは人を守るために冒険者になったのであって、殺しては本末転倒だ。

 故に、ユトゥスの元パーティは自分を含めて誰も人を殺していない。


「この場にいる奴らを全員助ける。俺に魔法は使えん。手伝え」


「......わかったわ」


 ユトゥスの指示を受けたアルミルは、早速行動を開始した。

 木にクモの糸で拘束された魔族の男二人を炎で糸を炙って救出。

 さらにまとめて拘束されている冒険者達も救出した。

 すると、アルミルが冒険者達を見ながら、ユトゥスに聞いた。


「冒険者の方は助けなくても良かったんじゃない? どうせ仲間が来るんでしょ?」


「だろうな。だが、俺が助けると決めた。貴様は指示に従え」


「はいはい」


 ユトゥスは<亜空間収納>からとある木の幹を取り出した。

 それを木に寄りかかる冒険者の周りに等間隔に置く。


「何してるの?」


「アビルの樹皮は燃やすと魔物の嫌がるニオイを放つ。

 冒険者の助けたのは俺の自己満足のためだ。魔物のエサのためではない。

 火を放て。そうしたらこの場を去るぞ」


「了解よ」


 アルミルは言われた通り、アビルの樹皮に火をつける。

 それによって白い煙が発生するのを確認すると、二人はそれぞれ魔族の男を担いで移動した。


 二人がしばらく移動してやってきたのは、森の中層にある小さな洞窟であった。

 そこに未だ気絶している魔族達を寝かせ、それを確認したユトゥスは立ち上がった。


「貴様との共闘もここまでだ。傷を治してくれたことには感謝する。じゃあな」


 無事全てのやることを終えたユトゥスは洞窟を去ろうとする。

 その時、背後からアルミルの声をかけて止めた。


「ま、待って!」


 その声にユトゥスは振り返る。

 すると、そこには三角座りをしたアルミルがもじもじしている様子があった。


 そんなアルミルは、チラッと時折ユトゥスの様子を伺いながら、何かを言いたげに口をすぼめる。

 そして、ユトゥスが待ってくれているのを確認すると、口を開いた。


「そ、その......もう少しゆっくりしていかない?」


 まるで恋人になったばかりの彼女に誘われてるような甘ったるい声色を発するアルミル。

 顔を赤らめているのは、まるで勇気を振り絞った証のようであった。

 されど、聞いた相手は残念ながら朴念仁である。


「なぜだ? 俺は貴様からすれば憎き人族なんだろ? 一刻も早く距離を置きたいはずだ」


「そ、それはそうかもだけど、あんたはそうじゃなくて......じゃなくて! そうよ! その通りよ!

 はい、いいから座る! あんたを信用してやったんだから、少しはこっちを信用してもいいでしょ!」


「......貴様の情緒はさっきからどうなってんだ」


「うるさいうるさいうるさい! 誰のせいだと思ってのよ!

 あんたは憎き人族で王族でも選ばれた人しか持たない目を持ってる!

 それについて詳しく聞かせろ! はい、座った座った!」


(妙な圧を感じるが、敵意は感じない。

 であれば、乗ってみるのもアリだろう。

 自分の赤い目が魔族の王族と同じであるというのは大いに気になる。

 これで手がかりが手に入れば御の字だ)


 そう思ったユトゥスは、アルミルの機嫌を損ねないように返事した。


「わかった」


「よしっ!」


「.......」


 ユトゥスは少し間を開けてアルミルの対面に座る。


「ねぇ、あんたまだアケビの樹皮持ってる?」


「持ってる。それが?」


「焚火よ、焚火。仲良くなるためには火を囲むといいって前に本で読んだの。だから、試してみようかと思って」


「俺と仲良くなりたいのか?」


「んなわけないじゃない!」


 さっきから情緒が怖いアルミルに、内心でビビっているユトゥス。

 言動がチグハグというか矛盾しているというべきか。

 しかし、ふと顔を見れば楽しそうな顔をしていたりもする。


(一体何が狙いだ? 行動が読めない分用心しなければ)


 そう考えつつ、ユトゥスがアビルの樹皮を取り出し、地面に置く。

 それにアルミルが魔法でを火つけた。

 焚火はパチパチと音を鳴らし、暖かな空気が伝わってくる。

 そんな中、アルミルが単刀直入に聞いてきた。


「ねぇ、あんた......趣味とかある?」 


(え、口説かれてる?)

読んでくださりありがとうございます(*'▽')


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