第26話 森の中の出会い#5
周囲に黒煙が広がる。先程爆発した繭型爆弾によるものだ。
まるでフロア全体を爆撃するような攻撃は、案の定四方八方から衝撃が広がっていく。
例え、それを<魔力障壁>で防げても、それで防げるのは物理と魔法による干渉のみ。
二次発生した爆発による衝撃波までは防げない。
「痛っ.......」
アルミルは全身に感じる鈍く強い痛みに耐えていた。
<魔力障壁>で直撃こそ防いだが、衝撃波で体を弄ばれてしまったようだ。
体がどこも欠損していないのが不思議であった。
もっと言えば生きてるのが不思議。
アルミルはうつ伏せになって倒れる重たい体を、痛みに震える両腕で体を持ち上げながら、なんとか上体を起こす。
そして、疲労で重たくなった体を感じながら思った。
(なんでこんな必死になって頑張ってるんだろう
相手は魔族相手であろうと捕食対象にする化け物だってのに)
「おい、女」
ユトゥスの言葉に体がビクッとするアルミル。
同時に、体がじんわり安心の気持ちで暖かくなる。
どうやらユトゥスが無事であることにホッとしているようだ......ホッと?
瞬間、アルミルはブンブンと首を横に振った。
(いやいや、この男はあくまで一時的に共闘しているだけ)
そう思いながら、アルミルはユトゥスを睨む。
そもそも先程まで敵だった相手のどこにホッとするというのか。
加えて、コイツは口が悪いし、横柄だし、さっきから“女”呼ばわり。
もう少し言い方ってものがあるだろうに。
(確かに、顔はそこまで悪くないし......てかタイプだし、この状況に対して勝つ気でいる姿勢は尊敬する。
危機的状況でも自分を持っているという姿はカッコよ......ゲフンゲフン。
しかし、所詮はその程度。コイツは憎き人族――)
「立てるか?」
「.......っ!」
アルミルの目の前に駆け足で近づいてきたユトゥス。
直後、ユトゥスはそっとアルミルに対して手を差し出した。
そのさりげない行為に、アルミルの心はドキッと跳ねる。
しかし、すぐに再びピンクになる頭を横に振った。
(ドキッじゃない! 怒気ッ! の間違いでしょ!
そこまで自分はチョロくない!
そもそもこれはさっきまでキツく当たられてて、そこから急にアメを与えられて感じるギャップだ。
こんな子供だましみたいな態度に誰が引っかかるか)
「......あ、ありがと」
そう頭の中では噛みつきながらも、 引っ張り起こそうとするユトゥスの行動に、顔を真っ赤にしながらお礼を言うアルミル。
その顔はまさにギャップに引っかかってる顔であった。
(か、顔が熱い! なんか妙にドキドキする。
あれ、今って手汗とか大丈夫だっけ!?)
「まだ魔力はあるか?」
「え......あ、えぇ。だけど、撃てて大技一発ってところね」
「大技は狙わなくていい。先程と同じように小刻みに当てろ。
アイツは俺が片付けてやる。だから、俺を信じて撃ち続けろ」
これ以上ドキドキさせる言葉を言うな! と口に出したいアルミル。
しかし、それを言ってしまったらまるである程度好意があるみたいになってしまう。
相手は人族だ。ましてや、王族と同じ目を持つ人族。
横柄で不遜で傲慢。だけど、自信があって妙に優しい部分もあって.....って違う!
これ以上情緒をかき乱されてたまらない。これ以上、余計なことは考えるな。
「わ、わかったわ」
「よし、行くぞ。次で方をつける」
ユトゥスはアルミルより後方に下がっていく。
相変わらずユトゥスの思考はわかっていないが、ここまで来たらもう信じるしかない。
今や生きるための自分達は運命共同体。やれることはとことんやるべきだ。
「火炎槍」
アルミルは杖を頭上に掲げ、魔法を発動させる。
作り出したのは空中に浮かぶ炎の槍。
それをヘルスパイダーに向かって放つ。
すると、ヘルスパイダーを直撃を避けるように跳躍。
そのまま巨体を蜘蛛の巣ドームの天井にピタッと足をくっつけた。
アルミルはすかさず<火炎槍>を放つ。
同時に、的にならないように移動しながら射撃を続ける。
そして、ヘルスパイダーからは時折クモの糸が飛んで来るが、それは<魔力障壁>で防いだ。
「ギシャアアアア!」
その時、突然ヘルスパイダーの悲鳴が響いた。
どうやらユトゥスが先程と同じで死角から矢を放ったようだ。
(ヘルスパイダーの外皮は、普通に剣を振っても斬れないほどには固い。
それを外皮をへこませるほどの威力。相当良い弓を使ってるみたいね)
冷静さを取り戻したアルミルは、ユトゥスの作り出したチャンスにここぞとばかりに打って出る。
「相手が怯んでるならチャンスね!――巨大炎蛇」
アルミルはここ一番で大技を放つ。
ユトゥスはからは狙わなくていいと言われた。
しかし、チャンスがあれば狙うのは当然のこと。
それにアルミルはユトゥスと共闘関係を結び、言葉を信じることにした。
が、全てを信じたわけじゃない。今は自分の心に従うままに。
そして、アルミルは巨大な炎の蛇を作り出し、ヘルスパイダーに向かわせた。
「バカが」
ユトゥスがそう呟きや知り出した直後、ヘルスパイダーは巨大な繭を即座に作り出す。
そして、ヘルスパイダーはそれを炎の蛇に直撃させた。
刹那、起こるのはドゴオオオオォォォォン! と響く大爆発。
どうやら放った繭は爆破性のある繭だったようだ。
その爆発による衝撃を、アルミルは<魔力障壁>で直撃を防ぎ、さらに杖を地面に突き立てて爆風に耐える。
その場に留まること叶わなかったが、数メートルと地面に跡を作りながらも、耐えることには成功した。
「ケホッ、ケホッ。二度も同じ手を喰らう......か」
アルミルは煙にせき込みながら上を見る。
すると、煙の奥から黒い巨体が迫った。
煙から突き出たのはヘルスパイダーの前足。
アルミルは咄嗟に<魔力障壁>を作るが、魔力が足りない半端な強度のそれは容易く壊れる。
(あ、これ、本気で死んだかも――)
アルミルがそう思った瞬間、味方の声が聞こえた。
「死にたがり女め!」
瞬間、アルミルの体がグイっと強制的に横に移動する。
タックルしてきたのはユトゥスだった。
どうやら助けるために戻ってきたらしい。
その行動により、アルミルは間一髪ヘルスパイダーの足当たらずに済む。
そして、二人して一緒に地面をズサーッと滑り、上手く転がったユトゥスは先に起き上がり、眼前にいるヘルスパイダーを睨んだ。
「邪魔だ、クソ蜘蛛」
すると、その言葉に怯んだのか、ヘルスパイダーは距離を取った。
そして、ユトゥスはヘルスパイダーが警戒しているのを確認すると、アルミルに声をかけていく。
「大丈夫か?」
その言葉に、捨て身で助けてくれるユトゥスの姿勢に、鼓動が高まるアルミル。
それこど、あっという間に顔は紅色に染まった。
「あ、ありがと......」
「不味いな。アレは大技を放つ気だ。KPが足りない。この状況でどう稼ぐ?」
何やらぶつくさ呟きながら立つユトゥス。
まるでアルミルの感謝の言葉が伝わってない。
(まぁ、状況が状況だしね。別にいいけど)
そう思いながらも、若干不服そうな顔をしたアルミルは立ち上がる。
するとその時、「仕方ない」と呟いたユトゥスがアルミルの方を向いた。
「......?」
アルミルはキョトンとした顔をする。
なぜなら、ユトゥスの顔が暗くなっているからだ。
そして、いつになく悲しそうな表情。
一体この数秒で何があったのか。
「すまない」
「っ!?」
ユトゥスからの謎の謝罪を聞いた直後、アルミルの頬に衝撃が加わる。ビンタだった。
アルミルは突然のことによろめき、その場に尻もちをつく。
そして、じんわりと痛みが続く頬を手で抑えながら、涙目でユトゥスを見た。
(な、なんでビンタされたの? さっきの大技撃ったことがそんなダメだった?
え、さっきまで優しかったのに自分のせいで?)
アルミルが思ったのは先程のミス。
自分の思い上がりでヘルスパイダーに隙を与えた。
そのせいでまさか勝機を失ったとでも言うのか。
「ご、ごめんなさい.....」
口からボソッと零れたかのような小さな声。
その声は目の前に集中しているユトゥスには聞こえてない。
「チッ、やっぱりか。便利なのに忌々しいことだ」
その声に、アルミルが恐る恐る背を向けるユトゥスに目を向ければ、視界の端にポタッと落ちる何かに気付いた。
血であった。それが左手から指先を伝ってスーッと流れている。
「ね、ねぇ、その手どうしたの......?」
「これか? これは左手に矢じりをぶっ刺しただけだ。ただの検証だ。気にするな」
気にするなと言われても、気にならないはずがない。
しかも、その言い方だとまるで自分で刺したかのような言い方だ。
「女、貴様に見せてやる。俺の逆転劇をな」
その言葉を皮切りに、ユトゥスの目はまた力強い目に戻っていた。
瞬間、急激な魔力の高まりを感じた。
それは目の前にいるユトゥスではない。
遠くにいるヘルスパイダーだ。
ヘルスパイダーの口元が眩く光っている。
アレを放たれれば周囲が容易に一層されることは想像に難くない。
どうやら敵が危険と判断したようで、エサも諸共全てを消し去るつもりのようだ。
「どうやって勝つつもり? 弓の攻撃にそこまでの高威力の技なんてあるの?」
「ない。あのクソ蜘蛛はただ自滅するだけだ――己の技によってな! 逆転!」
瞬間、ヘルスパイダーからスッと魔力の高まりが消えた。
同時に、ユトゥスの方から先程のヘルスパイダーと同等の魔力の高まりが現れる。
その摩訶不思議な現象にアルミルは困惑した。
「覇帝砲撃閃」
左手を支えにし、右手のひらから収縮させた魔力を放つユトゥス。
おおよそ人間が放てる砲撃とは思えない魔力の砲撃。
太さ十メートルもの巨大な砲撃がヘルスパイダーに直撃する。
「くっ」
その砲撃の衝撃は、ユトゥスの真後ろにいるアルミルですら吹き飛ばされそうになるほど。
そのため、アルミルはユトゥスの足にしがみつき必死に耐え続ける。
そして数秒後、砲撃が収まり、アルミルは閉じていた目をゆっくりと開けた。
「嘘.......」
目の前には遠くまで続く真っ直ぐの更地があった。
当然、そこにはヘルスパイダーの姿など見る影もない。
つまり、ユトゥスはほぼ独力でヘルスパイダーを倒してしまったということだ。
「ふん、他愛ない」
その言葉にアルミルはポーっと頬を赤く染めた。
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