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逆転の反逆者、その意に逆らう~職業不明の青年が迷宮で神様から力を貰い、その力で英雄へと至るまで~  作者: 夜月紅輝
第2編 異端者は集う

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第25話 森の中の出会い#4

(ヘルスパイダー。このサブザ森林の中ではまず見ない魔物だ。

 となると、迷宮再構築の影響で出現した魔物なのかもしれない。

 例えば、大きな衝撃で眠っていた魔物が目覚めさせられたとか)


 バカデカい蜘蛛を見た瞬間、ユトゥスはすぐにそう考えた、

 しかし、今はそんな思考はどうでもいいとばかりに頭を横に振る。

 そう、今の問題はこの場をどう切り抜けるかだ。


「な、なんでこんな所にヘルスパイダーが......!」


 アルミルがヘルスパイダーを見て驚いている。

 その様子から魔族が切り札として用意したという線は無いようだ。

 とはいえ、この状況でAランクの魔物が現れるとは何とも不運。

 ユトゥスも今はKPが枯渇している。非常に不味い事態と言える。


「ギシャアアアア!」


「な、なんだあの巨大なクモは!?」


「ヘルスパイダーだよ! Aランクの魔物!」


「Aランクだと!? 逃げるぞ! このままここに居れば全滅だ!」


 冒険者達も危機感を抱いて戦闘を中断し、逃げの体勢に入る。

 迅速な判断としては実に正しい行動だ。しかし、相手が悪い。

 ヘルスパイダーは獲物を決して逃がさない。


「ギシャアアア!」


 ヘルスパイダーは巨大な尻を上げる。

 そして、尻の先端からいくつもの糸を放射状に出した。

 それらの糸はこの場にいる各々に向かって飛んでいく。


(速度が速い。避けられるか)


 そう思いながら、ユトゥスはチラッと周囲を見る。

 そして、目に留まったのはアルミルだ。

 冒険者達が戦意喪失してる中、アルミルだけが火球を作り出している。


(確か、魔物図鑑でもヘルスパイダーは火が弱点とあった。

 必然か、はたまた偶然か。

 だけど、あの子が戦えるなら希望はまだあるみたいだ)


 そんなアルミルの機転がユトゥスに勇気を出させた。


「避けろ、俺!」


 ユトゥスはすぐさま動き出し、前方に向かって飛び込む。

 直後、元居た場所には糸が飛んできたが、間一髪糸を躱すことに成功。

 とはいえ、あと数秒遅れれば捕まって終わりだった。

 そして、ゴロゴロと地面を転がりながらも、すぐに立ち上がりさらに走った先はアルミルの後ろ。


火炎槍(ファイアランス)


 一方で、アルミルは二メートル大の炎で構成された槍を作り出す。

 それを自身に向かってくる糸に向かって飛ばした。

 数秒後、炎の槍は糸に接触し爆発。

 同時に、糸に炎が燃え移り、消滅させる。


「うわああああぁぁぁぁ!」


 その時、被害者の声をユトゥスは耳に捉える。

 ユトゥスが周囲を確認すれば、アルミル以外の全員が糸によって木にはりつけにされていた。


 そんな彼らはぐったりとした様子だ。

 が、<魔力探知>から魔力を感じる辺り、死んではいないようではある。

 ただし、気絶している模様。


「捕縛攻撃だけでこの威力か。そして、どうやら逃がす気はないようだな」


 ヘルスパイダーはさらに尻から糸を出した。

 今度は上空に放射状に放射。それらは周囲の木々に引っかかる。

 そして瞬く間に、ドーム状のクモの巣の完成だ。

 糸はねばついており、一度触れば燃やす以外逃げる方法は無い。

 つまり、魔法が使えないユトゥスは戦うことを余儀なくされた。


「おい、女。ここからは真面目に共闘だ。でなければ、全滅だ」


「あ、あぁ.......」


「おい、聞いてるのか?」


 ユトゥスがアルミルに声をかけてみれば反応が無い

 なので、回り込んで様子を見てみると、アルミルは口を開けてヘルスパイダーを見つめていた。

 視線はずっと目の前の魔物を捉え続け、杖を持つ手も小刻みに震えてる。


(完全に飲まれてる)


 そう思うユトゥスであったが、アルミルの気持ちはわかった。

 ユトゥスも初めから強かったわけじゃない。

 むしろ、人よりも弱い地点からのいスタートとも言えた。


 その間、ユトゥスが戦う相手は全員強者。ゴブリンでさえ同じ。

 自分の弱さを自覚しているほど、相手の強さがわかるほど、体は死を迎えるように硬直する。

 今のアルミルはその時のユトゥスと同じ。


 今の力を得たユトゥスとて、強者になったとは言い難い。

 いくらチートじみた能力を得ようとも、肉体は弱いまま。

 装備で防御力を上げているが、それもどこまで通じるか。


 今のユトゥスがビビッてないのは、力を得てからこれまで強者と戦うことを余儀なくされたからだ。

 生き残るためには、もはや受け入れるしか選択肢が無かった。

 そう、慣れてしまったのだ。なんとも慣れとは恐ろしい。


「おい、聞け!」


「ひゃい!」


 ユトゥスはアルミルの肩をガシッと掴み、再度大きな声をかけた。

 すると、その声に気付いたのか、アルミルは涙目をしながら見る。


(KPが尽きている今、頼りになるのはこの女しかいない。

 是が非でも正気に戻ってもらわなければ死あるのみ。

 こんな所で死ぬわけにはいかない)


 ユトゥスは考えていることとは裏腹に、アルミルに力強い言葉を言い渡した。


「臆するなとは言わない。だが、抗うことを止めるな。

 もし貴様がまだ生きたいと願うなら、貴様の命を俺に預けろ。

 だから、貴様の力を全て寄こせ」


「で、でも、あの魔物はアタシ達魔族が束になっても敵わない相手なんだよ......?」


「どんな相手だろうが俺の敵じゃない。

 障害は俺が取り除く。だから、生きたいなら俺に賭けろ」


「......」


 アルミルは涙目ながらも静かに頷いた。


「交渉成立だな」


 ユトゥスが弓を構え、アルミル横に立つ。

 そして、視線で捉える先には、黒く巨大な的。

 すると、涙を拭ったアルミルが、やや赤く頬を染めた顔して尋ねた。


「......ねぇ、なんでそんなに落ち着いてられるの? 怖くないの?」


「怖い? 当たり前すぎて考えたことも無かったな。

 なぜなら、俺の目の前に現れる敵は全員俺よりも強者だからだ。

 そんな強者に抗い逆らうのが俺だ」


 ユトゥスは目の前に集中する。

 そして、アルミルに指示を出し始めた。


「おしゃべりはこの辺にしておけ。

 貴様はとにかく動き回りながら火属性の魔法を使い続けろ。

 あいにく俺は動きが遅い。だから、貴様が囮を担え」


「囮!? 散々カッコいいこと言っておいてアタシに囮になれって!?」


「言ったはずだ。生きたいなら俺に賭けろと」


 ユトゥスは揺るぎない瞳でアルミルを見る。

 その目にアルミルは目を大きくさせた。

 そして、プルプルと震え始める。

 最後には、ギリッとした鋭い目つきでユトゥスを見ると、返答した。


「わ、わかったわよ! やればいいんでしょ! やれば!

 ただし、これで死んだらあんたを呪い殺してやるからね!」


「好きにしろ。俺がいる限りそんなことは起き得ないがな」


「もうこれ以上カッコつけんな!」


 これにてユトゥスとアルミルによる生き残りをかけた共闘前線が張られた。

 そして、ここからはヘルスパイダーとの生き残りをかけた勝負。

 退路はない。目標は勝つこと以外ありえない。


「行くぞ」


「えぇ、やってやるわよ!」


 意気込む二人。

 そして、最初に仕掛けたのアルミルだ。


「炎蛇の舞」


 アルミルが即席で作り出したのは、炎で構成された三メートル程度の蛇。

 それらが三匹おり、一斉にヘルスパイダーに襲い掛かる。

 対して、ヘルスパイダーは空中に糸を固めたような弾を発射し、それで炎の蛇を迎撃し始める。


「まだまだ!」


 攻撃が防がれること自体は想定内だったようで、アルミルは油断なく火球をまばらに撃ちながら、ユトゥスの指示通りに牽制と移動を繰り返す。

 そのおかげにより、ユトゥスはヘルスパイダーから注意が逸れた。


「隠形」


 ユトゥスは気配を限りなく小さくする。

 もともと周囲からすればユトゥスの気配はスライム以下。

 それこそ、石ころといっても過言ではない。


 故に、相手が強ければ強いほど、弱い存在の気配は読みづらくなる。

 そこに<隠形>を加えた今、もはやユトゥスの気配は空気も同然。

 そして、路傍の石から繰り出されるのは、死角からの強襲。


「集中弓――」


 ユトゥスはヘルスパイダーの背後に回り、立ち止まる。

 弓を構え集中。意識を深く深く落としていく。

 それこそ死んでいるかのようなほどに。

 そこに<剛弓>を加え、さらに弓自体に魔力を流す。

 

 ユトゥスが持つ“不死王の魔法弓”は何も能力値の補正ばかりが効果じゃない。

 むしろ、それはオマケであり、真の能力の一つが魔法威力の向上。

 それは元が杖であったためか、魔力を込めるほど威力が高まる。


「狙いやすそうなケツだ――破断矢」


 バシュンッと一気に弦に押し戻された弓は、衝撃波を纏いながら飛ぶ。

 その目標は当然ヘルスパイダーだ。さらに言えば腹部。

 いくら多眼の蜘蛛だろうと気配もない真後ろからの攻撃は避けらない。


「ギッシャアアアアァァァァ!」


 ヘルスパイダーの固い外皮に矢がメキメキメキと突き刺さる。

 しかし、僅かに腹部に凹みを見せたが、致命傷には至らなかったようだ。

 そして、攻撃したことでユトゥスの位置がバレた。


 ヘルスパイダーがユトゥスに標的を変え、襲い掛かる。

 しかし、ユトゥスは動かない。

 もっとも、動いたところで遅すぎて意味はないが。


「どうやら先ほどの奇襲は悪業ポイントの対象らしい。不意打ちだからだろうな。

 だが、そのおかげで使えるぞ! 貴様の力がな!」


 ユトゥスは<逆転>で筋力値を入れ替える。

 そして、ヘルスパイダーの前足の突き刺し攻撃を左手で受け止め、振り払う。

 そこから跳躍し、流れるように回し蹴りをヘルスパイダーの顔面に直撃させた。

 ヘルスパイダーの筋力を利用したその蹴りは、巨体を空中へ飛ばす。


「おい、女! 今だ!」


「わかってるわよ!――巨大炎蛇!」


 アルミルが作り出したのは大きさ五メートル程の炎の蛇。

 それは大きな口を開け、空中に舞うヘルスパイダーに噛みついた。

 瞬間、炎の蛇はとぐろを巻いてヘルスパイダーを包み込み、爆発した。

 空中の爆炎が広がるとともに熱波が周囲に広がる。


「ふん、どんなもんよ! 見たかしらこれがアタシの実力よ!」


「イキるならしっかりと仕留めてからにしろ」


「へ?」


 その時、空中の黒煙からは何かが周囲にばら撒かれた。

 まるでカイコの繭のような形をしたそれは地面にいくつも着地。

 ユトゥスが近くにあるものを見れば、それは中心が赤く脈動していた。

 それを見た瞬間、ユトゥスは猛烈な嫌な気配に狩られる。


「おい、女! 魔力障壁で防げ!」


「――っ!?」


 ドドドドドドドドドッ、ボンッ!!

 周囲はいくつもの小爆発とともに煙に包まれた。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)


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