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逆転の反逆者、その意に逆らう~職業不明の青年が迷宮で神様から力を貰い、その力で英雄へと至るまで~  作者: 夜月紅輝
第2編 異端者は集う

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第24話 森の中の出会い#3

 現在、ユトゥスと魔族との戦闘は終盤を迎えていた。

 ガッテルとバイザスを負傷させており、アルミルも戦意喪失している。

 故に、これで戦いは終わり一件落着――とはいかなかった。


 突如アルミルの背後から現れた三人組の冒険者。

 咄嗟に守ってしまったユトゥスであったが、あの冒険者達には見覚えがあった。

 そう、あの三人は迷宮を脱出してから呪い持ちのユトゥスを追っていた人物達だ。

 その三人が魔族との戦闘中にユトゥスの近くに現れた。

 

(どうやら先程の戦闘の音で位置がバレてしまったようだな)


 ユトゥスはそう思いながら、念のため弓に矢を番える。

 そして、僅かに弦を張りつつ、現状況がどう動くのか様子を伺った。

 すると、アルミルの存在に気付いた冒険者達は驚きのあまり言葉を漏らしていく。


「な、なんでこんな所に魔族が!?」


「まさか街を襲いに.....!」


「ねぇ、見てあっちの方! さっきの呪い持ちの人も一緒に居る!」


 その時、三人の中で唯一の女性冒険者がユトゥスに人差し指を向けた。

 どうやらアルミル越しにユトゥスの存在も視界に捉えたようだ。

 そんな女性冒険者から指摘を受けたユトゥスは、動揺せずに冷静に思考を回す。


(構図的に敵対していると思われるが、さてどう映るか)


 現にユトゥスは先程まで魔族三人を相手にしていた。

 また、周囲を見渡せばガッテルとバイザスが負傷していることにも気づくだろう。

 しかし、そう上手くは話が転ばないのが世の常だ。


「これはもしかしてあの呪い持ちが魔族と繋がってるとかか?」


「しかし、見た所負傷している魔族の姿も見える」


「仲間割れとかしたんじゃない? ほら、最初は共闘してたけど、結局魔族は人間嫌いだし」


 冒険者達はユトゥス達の立ち位置を考慮しながら、各々意見をぶつけ合う。

 そして、示し合わせたように頷くと、それぞれ武器を構えた。


 ユトゥスから見て、茶髪の少年冒険者Aが剣を、帽子を被った少年冒険者Bが弓を、おさげのオレンジ色の髪をした少女冒険者Cが杖を向け、それぞれが攻撃的な姿勢を示す。


「んじゃ、負傷してる今はチャンスだな」


「だけど、警戒しないことだ。この状況は推測するに先程追いかけていた呪い持ちの仕業だ」


「それにさっき魔族の女性を守ってたし、このまま共闘されれば厄介だよ」


(ハァ......やはりそういう風に捉えるか。さて、ここからどうするか)


 そう思いながらも、ユトゥスはわかっていた事実と、わずかな希望との間で揺れ動いた心にため息を吐いた。


 ます初めにユトゥスが優先すべきは自分の命である。これは揺るがない。

 しかし、それに僅差であるのが英雄願望を抱く者としてのプライド。

 つまるところ、人助けというやつである。


 ユトゥスは目の前にいるアルミルと敵対していた。

 しかし、それはさっきまでの話であり、もとより殺すつもりはなかった。

 故に、適当にビビらせたところで交渉に入ろうと思った矢先に、冒険者の登場で予定がパァ。


 加えて、その冒険者達は全員まとめて殺す気で挑んでいる。

 街を、ひいては人間を守るための行動としては、いささか判断が早すぎるが間違ってはいない。


 とはいえ、ユトゥスとしてはせっかく魔族を生かそうとしているのに、その命が目の前で消えるということになる。


 それはいくら魔族と敵対していようと見過ごせない。

 それに、敵対種族だからすぐに殺すというのは、それはそれであんまりだろう。


(仕方ない。どうせ人間からも魔族からも敵視されてるなら、好きなように動いてやる)


 ユトゥスはそう心に決め、弓に番えた矢をグイッと引き、いつでも迎撃できる態勢に入った。


(それに、相手方はどうやらやる気満々のようだ。

 守りながらとなると少々分が悪い。なら、こちらも手札を増やそう)


「おい、そこの女魔族!」


「へ? アタシ?」


 ユトゥスが呼びかけたのはアルミルだった。

 ユトゥスとアルミルは先程まで戦闘していた敵同士。

 しかし、そこに第三陣営となる冒険者がやってきた。

 つまるところ、それは敵と敵と敵の三つ巴であるということ。


 ただし、単純な三つ巴ではない。

 先程の戦闘により、アルミル陣営は壊滅的被害を受けている。

 また、ユトゥス陣営はユトゥス一人だけである。

 その状況が差す意味は不利な状況が続いているということ。


 ユトゥスとて先の戦闘でそれなりのKPと魔力を消費した。

 このまま新たな敵との継続戦闘は荷が重い。

 であるならば、敵の敵は味方としてしまえばいい。


「貴様だ、角女。俺が特別に手を貸してやる。だから、貴様も俺の役に立て」


 そこで、ユトゥスは先程咄嗟に守ったことを利用して共闘する作戦を考えた。

 それがこの状況を切り抜けられる確率の高い一番の方法だ。

 とはいえ、ユトゥスは冒険者を殺したいとも思わない。

 だから、望むべくはは全員生存で戦闘を終えること。


 そんなユトゥスの思惑に一切気付かないアルミルは、キリッと睨むような目でユトゥスを見ながら返答した。


「な!? 誰があんたなんかと!

 先代魔王様を愚弄するような目をした人間に手を貸す義理なんてないわよ!」


「そうか。なら、貴様は死ぬだけだぞ」


「へ?――っ!?」


 そのロキ、冒険者Aがアルミルに剣を振りかざした。

 それに気づいたアルミルが咄嗟に<魔力障壁>を展開して攻撃を防ぎつつ、後退。

 すると、アルミルの逃げた先に、杖をかざした冒険者Cからいくつもの<火球>が放たれる。


氷刃(アイスエッジ)


 アルミルは咄嗟に杖の先端を火球に向けると、空中の水分を収束し、凝固させて氷のつぶてを作り出す。

 そして、それを飛んで来るか急にぶつけ相殺。

 直後に、周囲に薄い霧がかかる。


「どうよ! あんたの手を借りなくてもこれぐらい――」


 アルミルが後ろにいるユトゥスに向かって、イキったドヤ顔を見せる。

 しかしその瞬間、視界を悪くしていた霧の向こう側から、炎の矢がアルミルに向かって飛んで来た。


「よそ見をするな、ダボが」


 アルミルの慢心に気付いたユトゥスが、アルミルの体の向きから少し斜めに移動して咄嗟に矢を放つ。


 すると、その矢はアルミルの顔の真横を通り抜け、炎の矢がアルミルの後頭部まであと数十センチという位置まで迫った所で弾いた。


「ひゃっ!」

 

 自分の背後で攻撃が相殺されたことに驚き、咄嗟に頭を抱えながらしゃがみ込むアルミル。

 そんなアルミルに、ゆとぅすはゆっくりと近づく澄ました顔で煽った。


「手を借りない......で?」


「ぐぬぬぬぬっ!」


 アルミルがユトゥスを顔を真っ赤にしながら睨む。

 せっかく守ってやったのになんて態度......とはさすがのユトゥスも思わない。


 どう考えてもアルミルのその表情の原因はこの言葉遣いにあるからだ。

 例え、それがどれだけ感情を出さないように努めていたとしても。

 そら、煽られればそんな顔にもなる。


(あ、助けた際の善業ポイントと、煽った際の悪業ポイントが入った)


 なんとも不服の残る手に入れ方に、ユトゥスは眉を寄せる。

 しかし、すぐに思考を切り替えるように頭を振ると、立ち上がったアルミルを見た。


「な、何よ......?」


 アルミルが顔を赤くしながら睨むが、ユトゥスはそれを無視して思考に没頭する。


(この女性はビビりではあるが、決して弱いわけじゃないのだろう。

 俺と戦っていた時も威力は高く見えたし、冒険者の攻撃にも的確に相殺した)


 ユトゥスの言う通り、そもそも魔族は人族よりも膂力があり、魔力がある。

 つまり、人族の完全上位互換という存在であり、人族の特異的な存在を除けば、強い存在というのが当たり前だ。


 故に、アルミルも使い方次第では十分に味方として機能するということ。

 いや、むしろ機能してもらわないと困る。

  なぜなら、ユトゥスも継続戦闘続きで残りの矢が少ない。

 このままの状況が続けばジリ貧になるのは確定だからだ。


(さて、ここから状況を覆すには......)


 ユトゥスはチラッと横を見る。そこにいるのは足を負傷したガッテルだ。

 ユトゥスはガッテルからは機動力こそ奪ったが、それ以外は無事であり、何も全く戦えない状態じゃない。


 となれば、この状況を変える何かのために、そして仲間を助けるために、ここは人肌脱いでいただこう。


「おい、そこの男。この槍を奴らに向かって投げろ」


 ユトゥスは足元の折れた槍をガッテルに向かって投げる。

 槍がガッテルの足元近くで回転しながら移動した。

 するとその言葉に、ガッテルはユトゥスを睨み、噛みつくように言い返した。


「誰がお前なんぞの言葉を聞くか......」


「別にお前が従うかどうかは勝手だ。だが、その場合俺はもう手助けはしない。

 この状況を貴様らに押し付けて俺は避難させてもらう。そうなれば死ぬのは貴様らだ。

 貴様らが死にたがりの愚か者であるなら好きにしろ」


「くっ......!」


 ユトゥスがそう言い返すと、ガッテルは歯を食いしばりながら、痛む足を押さえつつ槍を掴んだ。

 そして、槍を支えにしてガッテルは立ち上がる。


 一方で、そんなガッテルの挙動を見ていたユトゥスは、ガッテルの足に注目していた。


(足を攻撃した矢が捨てられてる。

 そして、刺さった箇所には変わりに包帯が巻かれていた。

 こちらで一悶着あった間に肉を抉って取り出したのだろう。

 この状況ですぐにその判断はなかなか出来ることじゃないな)


 そう思いながらガッテルという人物を評価したユトゥス。

 ガッテルが行った行動はまさに優秀な戦士であるという証。

 自分で自分の肉を抉るなど、それこそ相当な痛みへの覚悟が必要である。

 それが出来る人間もとい魔族は強い。


「チッ.....やってやる! オラァ!」


 ガッテルは折れた槍を右手に持ち炎を纏わせる。

 それを冒険者達に向かって放った。

 槍としての機能を失っているためか真っ直ぐ飛ばずグルグルと回転している。

 しかし、それでも狙いは正確であり、冒険者達の近くに着弾する。


 ボオオオオン! と範囲三メートルで盛大な爆発が起きる。

 当たれば終わりだが、ユトゥスとてこれで決着がつくとは思っていない。

 なぜなら、冒険者達が会話中に、ユトゥスは<鑑定>で相手を調べたがレベル”50”前後だったからだ。


 冒険者ランクで言えば、CランクかBランク上がりたてというところである。

 つまり、攻撃は容易に回避でき、爆風は受けても大したダメージにはならない。

 加えて――


「皆、大丈夫!?」


「あぁ、この障壁のおかげで助かった」


「共闘するつもりのようだ。厄介だな」


 あの女冒険者Cが魔術師であるのも、この戦闘の面倒さの理由の一つである。

 「魔術師」の職業は魔法値と魔力値が高いだけに、込めた魔力で防御力が上がる<魔力障壁>も当然固い。


 だから、先の炎の槍の攻撃も冒険者Cは防いでしまった。

 しかし逆に言えば、その攻撃を防げてしまうとも言える。

 なぜなら、攻撃が防げるというのは、ユトゥスにとって避けられるよりも最大の好機であるから。


「狙うは足。ただし、掠める程度。動けなくすればそれでいい――破断矢」


 当然のように<集中弓>と<剛弓>を併用した一矢である。

 また、性能が上がった弓により速度も威力もただ矢じゃない。

 そして、ユトゥスの弓の精度なら造作もなく中る。


 パリィンと<魔力障壁>が砕け散り、砕けたガラスのような透明な欠片が飛散する。

 <魔力障壁>は万能だ。魔法攻撃に限らず、剣など物理的衝撃や爆発も防げる。


 さすがに爆風や温度干渉などは防げないようだが、直撃を防げるだけ十分有用だ。

 だからこそ、<魔力障壁>に頼り気になる。そこがユトゥスからすれば狙う隙になる。


「痛っ!?」


「「サリーナ!?」」


 <魔法障壁>が破られ、同時に冒険者Cは足を抱えてしゃがみ込む。

 そんな冒険者Cの急な異変に、冒険者Aと冒険者Bは冒険者Cへと注意を向けた。

 

氷の刺突剣(アイスピック)!」


 ユトゥスの攻撃の直後、アルミルが冒険者の頭上に氷の塊を作り出した。

 大きさは五メートル程度の巨大な刺突剣。

 どうやらアルミルの狙いはまとめて一網打尽にするつもりのようだ。

 その瞬間、ユトゥスは氷を見て冷や汗をかいた。


(あの質量攻撃は不味い。当たれば確実に死ぬ。

 それに先の男達の態度から仲間を見捨てるタイプじゃないだろう。

 このままでは全員まとめて死ぬ。それは俺の望む未来じゃない)


 そう考えると同時に、ユトゥスは走り出した。


「まとめて死んじゃえ!」


「破断矢」


 ユトゥスは気絶しているバイザスに少し近づくと、<逆転>で行動値を入れ替える。

 これで残りKPは「7」となった。しかし、背に腹は代えられない。


 ユトゥスは行動値を利用し、速射射ちをする。

 弓を二本ずつ放ち、それを三回。合計六本の矢が氷塊に向かって飛ぶ。


 そして、冒険者達の頭上でバキンッと音を立て、氷塊はバラバラに砕け散った。

 その仕業に、アルミルがユトゥスの方を睨みながら叫んだ。


「ちょっと! 共闘するんじゃなかったの!? なんで助けるのよ!」


「それは俺の望む未来ではない。いつ貴様の希望に沿うと言った?

 俺は貴様の仲間ではない。俺が望まねば逆らうのは当然の行動だろう」


「な、なんなのよあんた! 何がしたいのよ! 敵か味方かハッキリしなさいよ!」


「敵か味方か......? ふん、愚問だな。俺は貴様の――ん?」


 その時、ドドドドッと地鳴りが聞こえてきた。

 咄嗟に<魔力探知>を使用すれば、巨大な魔力が近づいてくるのがわかる。

 そして、ミシミシと木々をなぎ倒しながら、それは現れた。


「ギッシャアアアアァァァァ!」


 全長十メートル。体重三トン。

 艶やかな黒い外皮に赤いラインが特徴な巨大クモ。

 Aランク魔物――ヘルスパイダー。

 別名「黒き殺戮者」。


「チッ、また厄介なのが現れやがった!」

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)


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