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逆転の反逆者、その意に逆らう~職業不明の青年が迷宮で神様から力を貰い、その力で英雄へと至るまで~  作者: 夜月紅輝
第2編 異端者は集う

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第22話 森の中の出会い#1

「ハァハァ......んく、ハァ......」


 全力で森の中を走るユトゥスは、息を切らしながら近くの木の幹に身を寄せる。

 その木を背にしながら<魔力探知>を使い周囲を探りつつ、目視で周囲を確認。

 すると、姿を捉えるよりも遠くから声が聞こえてきた。


「さっきの銀髪の男はどこに行った!? クソ、見当たらない!」


「呪いの象徴を背負うとは難儀だな。だが、教会に渡せば高く買い取ってくれるはずだ」


「早く探そう! 呪い持ちは人間(わたしたち)の世界じゃ嫌われ者。

 だから、人間を恨んで魔族と繋がってるかもしれない。街が危ない!」


 迷宮から出て一番最初に出会った冒険者に話しかければこの対応。

 どうやらユトゥスが思っていたよりも呪い持ちというのは嫌われてるようだ。


 加えて、魔族と繋がってるという決めつけか聞く耳を持たない。

 せっかくループスと感動的な別れをしたばかりだというのに。


「ここで死んでたまるか」


―――十数分前


 ユトゥスからの仲間の誘いを断ったループス。

 その言葉に、ユトゥスは少ししょんぼりしながら理由を尋ねた。


「理由はなんだ?」


「オレハオ前ノ仲間(ライバル)ダ。ケド、仲間トシテ大シテ何モ出来ナカッタ。

 サッキノエルダーリッチトノ戦イダッテ、ホトンドダメージヲ与エタノハオ前ダ」


 ループスは腕を組み、瞑目しながら答える。

 その姿は先程のエルダーリッチ戦を思い出しているかのような仕草だ。

 そして、ゆっくり目を開けると、顔を上げ、天井を見た。


「ダカラ、俺ハオ前ニ相応シイ仲間ニナルタメニモットノ世界ヲ見テクル。

 ジャナイト、ドウニモオ前ヲ頼ッテシマイソウニナルカラ」


 その言葉に、ユトゥスはループスをじっと見て、気持ちをしみじみと理解した。


(今のループスはかつての自分だということか......)


 そう思い、ユトゥスが重ねるは、“満天星団”の仲間におんぶにだっこだった時の自分。

 それが嫌で、情けなくて、恥ずかしくて。

 だから、自らの殻を破るために一人で歩もうとしている。


 目の前にいるループスも同じだ。

 初めて無力感というのを味わい、精神的敗北というものを知った。

 これまでソロでやってきた分、誰かと組むことで実力差がよりハッキリわかったのだろう。


 しかし、それを認めたくない、自分はもっと出来る奴だという証明のために、ループスは前に進もうとしている。


 そんな行動を止める権利などユトゥスはない。

 いや、むしろ絶対に止めさせてはいけない。


 ユトゥスは立ち上がると、すぐ近くで光を放ち続ける魔法陣の前に立つ。

 この魔法陣に入れば、一気に入り口まで転移することになる。

 つまり、ループスとの別れの時ということだ。


(思い返せば、不思議な関係だな)


 ユトゥスはふとこれまでのことを振り返った。

 ループスと一緒に行動した時間など、たかだか数時間ぐらい。

 迷宮を抜けるために一時的に仲間を組んだという程度だ。


 しかし、それにしては過ごした時間が濃すぎた。

 最初は迷宮再構築前に、敵として狙われ、再構築後も敵として戦った。


 その後、紆余曲折あって仲間として行動することになり、仕舞には迷宮ボスのエルダーリッチを倒すまでに至った。


 そんな敵であり、仲間であったループスが、ユトゥスを”ライバル”と認め、強くなって会いに行くと宣言した。


 それはこれまで最弱であったユトゥスにとって、初めて一人の戦士として認められたような気がして。

 そして、嬉しいからこそ、ループスとの別れはやむなしと言えた。


「.....そうか。なら、この魔法陣を出れば互いに別々の道を歩むということだな」


 ループスは立ち上がる。そして、ユトゥスの横に立った。


「......アァ、ソウダ」


 二人の目の前には眩く輝く魔法陣。ここに入れば最後。

 二人は顔を見合わせると、視線のみで会話し、頷き合った。

 そして、同時に足を踏み出した。


―――キィーーーーン!


 足元の魔法陣が浮かび上がり、加速しながら回転する。

 その魔法陣は足、ひざ、腰と上がっていき、やがて頭上を越えた。

 直後、瞼の裏から眩しさを感じたユトゥス。

 手をかざし日光を遮りながら、ゆっくり目を開ける。


「戻ってきたか」


 見覚えのある景色が目の前に広がっていた。

 迷宮再構築によっては、迷宮周囲の環境も変化するものもあると聞く。

 しかし、どうやらこの迷宮はそのタイプではないようだ。

 つまり言いたいことは、地理が出来ているということ。


「ソレジャ、オレハ行ク。ココニハ人間ノニオイガ強イ。

 オレハ魔物ダ。ムヤミニ冒険者ト争ッテ殺スヨウナ真似ハシタクナイ」


 ループスはそう言って別れも告げず去ろうとする。

 その態度に、ユトゥスは一抹の寂しさを感じたが、すぐにハッとした。


(いや、そもそもその言葉を知らないのかもしれない)


 ユトゥスはそう思うと、遠くに行くループスの後ろ姿を見ながら言葉をかけた。


「ループス、お前に人間としての常識を二つ教えてやろう」


 ループスの耳がピクッと反応し、その後ゆっくり半身だけ振り返る。

 ユトゥスの言葉に、ループスは興味深そうに瞳を輝かせていた。


「まずお前が言っていた仲間(ライバル)だが、正式には仲間を指す言葉じゃない。

 “ライバル”とは好敵手という意味だ。つまり、自分が認めた誇り高い戦士を指す。

 貴様は俺の好敵手(ライバル)として認めてやろう。喜べ、貴様は俺の最高の敵だ」


「......ッ! ナルホド、ソウイウ意味カ。イイナ、ソレ。オレモソッチノ方ガ好キダ。

 自然界ハ弱肉強食。同族デモ敵ニナル。ナラ、オ前トハ敵同士ノ方ガ良イ」


 ループスは嬉しそうに尻尾を振りながら、「モウ一ツハ?」と尋ねてくる。

 それに対し、ユトゥスはループスが歩き出した方向とは別の方向へ歩き出し、肩越しにループスを見る。


「別れの挨拶だ。親しき仲にも礼儀あり。”じゃあな”、ループス。またどこかで面を見せに来い」


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 一体どの口が礼儀を語るのか、と思わなくもないユトゥス。

 しかし、せっかく仲良くなれた相手に、別れの挨拶一つ無しも寂しいものだ。

 だから、珍しくまともに良い事を言うとも思った。ただし、相変わらず上から目線だ。


 ユトゥスは背を向けながら、頭と同じ高さまで上げた手をひらひらと振る。

 その行動に目を輝かせたループスは、同じように真似した。

 ユトゥスとは逆方向に歩き出し、後ろに向かって手をひらひら。


「ジャアナ、ユトゥス。マタドコカ」


 そして、ユトゥスとループスは別々の道を歩き始めた。


―――現在


 ユトゥスは走り出す。森の木々をかき分け、ずんずんと進む。

 しかし、装備で行動値は上がってないので移動速度は遅い。

 探している冒険者達に見つかればすぐに追いつかれる。


 かといって、見ず知らずとはいえ、同じ冒険者に対し戦う気にもなれない。

 となれば、とにかく見つかる前に逃げ切らねば。


 ユトゥスは早速手に入れた<隠形>を使い森の中を走る。

 <魔力探知>と併用しながら使えば、魔力がガリガリ削られていくが仕方ない。


 そして距離を取ったと思ったその時、前方に三つの魔力を探知した。

 先程の冒険者は後方。となれば、別の存在のようだ。

 加えて、探知の反応が大きい辺り、かなりの魔力を有した実力者といえる。


 ユトゥスはサッと茂みに隠れ、<魔力探知>を切り、目視で確認する。

 <魔力探知>は魔力操作に長けた人物なら逆探知できると聞く。


 故に、それを防ぐための行動だ。

 もちろん、そんなことを出来るのは一部の実力者のみだが、用心に越したことは無い。


「こめかみから生える禍々しい角。それに顔や腕にある刺青。

 先が尖った尻尾をした奴もいる......あの連中は魔族か?」


 ユトゥスが目撃したのは、白い肌や褐色色の肌を持つ三人組の男女。

 種族はバラバラなのか尻尾が生えていたり、腰から翼が生えてる人物もいる。

 しかし、共通して禍々しい角と刺青は存在していた。


 <鑑定>を使って確認してみる。どうやら魔族で間違いないようだ。

 魔族は人族や森人族(エルフ)鉱人族(ドワーフ)、獣人族などと敵対してる種族だ。


 その昔、魔族は世界を支配しようとして世界大戦を引き起こし、首謀者たる魔王は勇者レイザクスによって倒された。

 それによって、勢いが激減した魔族軍は、人族や他種族による連合軍に負けて細々と生きることを余儀なくされた。


 しかし、それも五百年前の話だ。それだけの時が経てば状況は容易に変わる。

 こんな街に近い森に現れているのが良い証拠といえるだろう。


(何を企んでいる?)


 そう思いながら覗いていると、腰から翼を生やした男が振り向いた。

 見ているのはユトゥスがいる茂みの方。


「何者だ!」


「っ!?」


 瞬間、一人の魔族の男がユトゥスの存在に気付いた。

 どうしてわかった!?――と考える余裕も無く、魔族の男からは槍が投擲される。

 炎が付与された槍であった。


 ちなみに、魔族は種族的に筋力が人族よりも強く、魔法にも長けているとされる。

 つまり、当たればいくら装備で防御力を補正していても、ユトゥスには致命傷になりかねない。


「不味いっ!」


 ドゴオオォォン! と衝撃が響く。

 ユトゥスが元居た場所に槍が突き刺さり、直後に爆発したのだ。

 炎が言葉通りに火の粉となって飛び散り、中心では赤熱した衝撃波が発生。

 周囲三メートルがあっという間に吹き飛ばされ、陥没が生まれている。


「くっ!」


 爆風に煽られてゴロゴロと転がっていくユトゥス。

 ギリギリだった。いや、もはや奇跡に等しいかもしれない。

 というのも、三人組との距離は十メートル以上あったからだ。

 後数秒行動に遅れていれば、足が吹き飛ばされていただろう。


 しかしその結果、ユトゥスは魔族三人の前に踊り出てしまった。

 周囲はそこそこ開けた地形。

 少なくとも三人が連携して戦うには十分なスペースだ。


 これまでは一対一か、ループスによる協力かで戦ってきた。

 しかし今回、「反逆者」となって初めての多数戦闘であり、その相手が魔族。

 なんとも運が悪い。念のため弓だけは取り出しておくべきか。


「......」


 ユトゥスは背中に左手を回し、体で隠しながら<亜空間収納>から弓を取り出す。

 <亜空間収納>は何でもありのずた袋のようなものであり、存在が知られれば動きを警戒される。

 もっとも、それで距離を取ってくれれば、そのまま逃げる手もあるが。


 しかし、相手が好戦的で、かつ範囲攻撃を持っていた場合は別だ。

 とにかく、今のユトゥスには考えるべきことは沢山ある。

 その手段を下手に明かしてはいけない。戦いとは情報戦なのだから。


「お前は何者だ」


 翼を生やした魔族の男がそう聞きながら、前方に手をかかげた。

 直後、ユトゥスの近くにあった槍がガタガタと動き、地面から離れると男の手元に戻った。


 その光景を横目で見ながら、ユトゥスはあくまで好戦的な態度は見せないように、スッと背筋を伸ばした。


 魔族の男が尋ねてくるということは交渉の余地があるということ。

 話し合いで解決できるならそれに越したことは無い――


「ふん、誰に向かって尋ねている。

 名を知りたいなら先に自ら名乗るのが礼儀だろうが愚者が。

 だが、俺は寛容な人間だ。だから、特別に教えてやろう。

 俺の名はユトゥス。ただの人間だ。頭に刻み込め低能ども。

 (訳:俺はユトゥス。怪しいものじゃない)」


『悪業ポイント、5ポイント入手しました。現在のKP18』


(あ、ダメかもしれない)


 ユトゥスは内心で白目を剥いた。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)


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