第21話 迷宮から脱出しよう#6
現状を整理する。
まず最初にAランク冒険者パーティ“満天星団”から抜けたユトゥスは、修行の旅に出た。
そこで選択したのがCランクの迷宮“獣過の巣穴”だった。目的はレベル上げだ。
しかし、その道中で迷宮再構築が起こり、Cランク迷宮はAランク迷宮に変わった。
そこでアイアンベアに遭遇し、死んだ.......と思われた。
だが、不思議なことに生きていた。ただし、容姿と能力値が変化して。
能力値は誰がどう見ても最低値だったが、代わりに特別な能力を手に入れた。
“反逆者”という見たことも聞いたこともない職業による力。
それはあらゆる力に逆らうようなスキルだ。
それを駆使してアイアンベアを倒した。
その能力は自分より強者を倒すと、レベルアップの代わりにレベルアップボーナスをくれる。
本来その職業にならないと取れないスキルも好きなように取れる。
ただし、そのレベルアップボーナスに必要な経験値は増えていくようだ。
それで手に入れた力でもって、ユトゥスは迷宮を脱出しようと試みる。
そこで出会ったのが特殊なコボルトソルジャーであるループスだ。
紆余曲折あったが、その魔物は迷宮を脱出する手助けをしてくれることになった。
その脱出方法として選んだのが、迷宮ボスであるエルダーリッチを倒す事。
迷宮ボスを倒せば迷宮から脱出するための魔法陣が構築される。それを利用するためだ。
そして、ループスとともにエルダーリッチと戦った。
結果、エルダーリッチとの戦いには勝利した。
その時、エルダーリッチは何やら色々意味深な発言をした。
ユトゥスが自らの力のルーツを知るキッカケだ。
それを解明することが、ユトゥスの力をつける旅の目的の一つとして増えた。
それから現在、エルダーリッチから餞別として送られた装備を纏いながら、ユトゥスは能力値を映し出す画面とにらめっこしている。
それは色々と情報が増えたことによる整理のための時間だ。
「ンァ~ン.......フハー、ウメェー!」
エルダーリッチの玉座の後ろにあった部屋。
床にある魔法陣がギラギラと光を放つ横で、ユトゥスとループスはいた。
ループスに至っては、焚火でユトゥスが味付けした肉を美味しそうに食べている。
「.......うむ、なるほど。これはいい」
ユトゥスは画面を見ながらニヤリと笑う。
全体的に変化した能力値について少し説明しよう。
まず初めに全体的な能力値だが、これにはさして変化はない。
ただし、<逆転>による効果はユトゥスの読み通り能力値だけに限定された。
これはループスと能力値を入れ替えたことでわかったこと。
つまり、装備による補正分は考慮されないということだ。
その結果、<逆転>を使わずとも相手の攻撃をある程度防げるようになった。
それは戦闘の要であるKPの節約に繋がることを示す。
加えて、ユトゥスの場合は「弱者の鑑」という、今となっては化け物のような称号がある。
これは相手との戦闘において、レベル差があるほど筋力値、魔法値、行動値、魔法値に倍率補正を与えるものだ。
しかし、本来この称号を得ても、もともとの低い能力値に多少の倍率がかかるだけだ。
加えて、補正がかかったところで高レベルの存在には能力値で届くことは無い。
もとが低すぎるだから。故に、発動しても瞬殺される。
だが、ユトゥスの場合は違う。
<逆転>で能力値を変えられるため、高い能力値で恩恵を受けられるのだ。
また、ユトゥスの場合は固定でレベル1なので受ける恩恵は常に期待値だ。
そこにさらに装備による補正が外付け効果とわかった。
ユトゥスの気分はもはやウッハウハである。
それこそ小躍りでもしてしまいたいようなテンションの高まりがある。
ただし当然、中身はクソ雑魚のままなので油断すれば死ぬ。
また、今回の戦闘で得た一番の報酬は以下であり、そしてここからは少し癖がある。
<逆様>のレベルアップに関しては、<逆行>と似た感じだったので割愛。
問題はレベル2になった<逆転>の効果だ。その効果がこうである。
『逆転』レベル2(消費KP10):任意で相手のスキルと自分のスキルをランダムで入れ替える。
「技能系スキルとかのくくりじゃなくて、スキルそのものを入れ替えるのか......」
これが気分ウハウハの中で、ユトゥスが頭を悩ませている原因である。
スキルには大きく分けて三つのカテゴリーが存在する。
一つ目が“技能系”、二つ目が“攻撃系”、三つ目が“魔法系”。
“技能系”は武器を扱うことや鍛冶などの創作技術に必要なスキルのことを指す。
ユトゥスで言えば<弓術>と<剣術>がそれに該当する。
“攻撃系”は武器を用いた攻撃技全般を指し、“魔法系”はそれ以外の魔法による影響及び干渉したものを指している。
それらをひっくるめて“スキル”と称しているが、問題はそのスキルがランダムで入れ替えられることだ。
例えば、相手に接近して剣で攻撃しようとした場合、<逆転>レベル2で相手のスキルの一つを入れ替えたとして、そこで<剣術>が交換対象に選ばれれば終わりだ。
剣は<剣術>が無ければ、剣で行うスキルを使えない。
いざトドメという場面でそうなれば、当然トドメはさせず、ましてや反撃を受ける可能性がある。
「とはいえ、剣や弓の技術の習得だけは背に腹は代えられない。
物理的な攻撃手段を失うのは大きな痛手だしな。
それに相手が覚えていた場合、運が良ければそれを引けるかもしれないしな」
ユトゥスは顎に手を当て、ぶつくさ呟きながら思考を巡らせる。
一般的に、技能というのは職種に見合った技能しか覚えられないとされている。
例えば、「剣士」の職業を得たのなら<剣術>は覚えられても、<弓術>は覚えられないなど。
しかし、ユトゥスの言う通り、技能系に至っては例外が存在する。
というのも、過去に数名の人物が「剣士」であるながら<弓術>を覚えた前例があるのだ。
ただし、それらの人物は例外なく別の技能を覚えるために、数年から~数十年の月日を修行に当てたという。
つまり、別の職業の技能を覚えるのはあまりにも非効率なのだ。
だからこそ、世の常識として「剣士」で<弓術>を覚えらないとされている。
ただし、一部の職業では別々の技能を覚えられる職業があるらしい。噂程度だが。
なので、ユトゥスとて言葉にはしたが期待はしていない。
「問題はこちらが安易に魔法を覚え、それを<逆転>で相手に引かれた時だ。
むやみやたらに強い魔法を持っていた場合、それがランダムで選ばれた時に死ぬのは俺だ」
先程、技能は職種に左右されるとあったが、”魔法”に関しては毛色が異なる。
というのも、魔法の中では一部職種に限らず行使が可能な場合があるからだ。
例えば、初級魔法とされる”火球”や、状態異常魔法の”パラライズ”など。
故に、魔法の選択は生死を分ける。
ここぞとばかりに一発逆転で使った<逆転>が、相手の起死回生の一手になってしまっては本末転倒。
ユトゥスにとって、それだけは絶対に避けなければいけない。
「となると、装備のおかげで能力値が向上した今、KPは温存出来る状態にある。
であれば、魔法攻撃は相手の魔法を利用することを前提として、レベルアップボーナスで手に入れた新規のスキルを手に入れる六つの権利は、一つは攻撃にして、その他は自己防衛に当てるべきか」
ユトゥスはその考えに自ら納得したように頷く。
そして、選んだ6つがこれだ。
『魔術』:魔法を使うための技能スキル
『毒耐性』:毒に対して完全耐性を持つ(任意で解除可能)。
『麻痺耐性』:麻痺に対して完全耐性を持つ(任意で解除可能)。
『隠形』:相手から存在を気づかれにくくする。
『調合』:素材を用いて様々な薬や毒を生成する。
『継続微回復』:『治癒』よりも回復量は少なく即効性はないが、自己治癒力を高め少しずつ体を癒す。
これらの選択の理由として、まず初めの二つの耐性スキルは、毒による防御無視のダメージや麻痺によって動けなくなることを防ぐこと。
後々に催眠や精神干渉の耐性も取りたいが、ユトゥスは魔物もよく使うの二つを自己防衛で優先的に確保した。
その次に選んだのは<隠形>だ。その技は気配を絶つことに特化している。
ユトゥスは弓をメインとした狙撃手だ。時には表立って戦わない場合もある。
その場合、ユトゥスのレベル1による弱い魔物よりも希薄な気配に<隠形>の効果がプラスされれば、それはもはや透明人間になったに等しい効果を持った状態であり、その状態で一方的に攻撃できる利点がある。
<調合>は魔力が尽きた場合などの回復手段や魔力回復手段を確保するためだ。
素材さえあれば作り出せるのだから、思っている強い能力といえる。
加えて、戦闘中に交換されても痛手は少ない。
最後に<継続微回復>は継続戦闘能力を上げるために取得した。
<治癒>と違い、使って即回復なので例え相手に渡って使われようとも痛手は少ない......はず。
というわけで、これからユトゥスが考え抜いた救るである。
ちなみに、ユトゥスがこの<逆転>レベル2における一番に安心したことは、<亜空間収納>が自身の魔力でしか生成されないということだ。
つまり、例え相手にそのスキルが渡ろうとも収納の中身は空っぽであり、取り出せるのはあくまで本人だけ。
自分の手荷物が増えることを懸念したユトゥスが安易に取得したスキルだったが、相手に自分の道具を使われる心配は杞憂に終わったようだった。
「さて、早速検証......と行きたいところだが、<逆転>レベル2の消費KPは早々溜まらない。これは後々にって感じだな」
ユトゥスはその場を立ち上がる。そして、ループスを見た。
「ループス、貴様はこの迷宮を出たらどうする? 貴様が望むなら俺の下僕となるか?
(訳:ループス、この迷宮出たらどうするんだ? どうせなら一緒に行動しないか?)」
ユトゥスが言いたかった言葉がとんでもない方向に解釈されて伝わる。
相変わらずグニグニしたくなる口だ。嫌われる行動しかしない。
そんな言葉に対し、ループスは腕を組み、少し考えた後に答えた。
「イヤ、俺ハオ前トハ一緒ニ行カナイ」
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