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辺境の瞳~カレンとジェラルド~  作者: 鵜居川みさこ
第一章
6/75

前日譚-カレン・ストラトフォード嬢について-

※カレンとジェラルド、二人が会う前のおショートストーリーです。


「いきますよ。

 カレン・ストラトフォード嬢、年は19、言わずと知れた筆頭侯爵家のご令嬢です。ストラトフォード家の一男二女の三人兄妹の次女、末っ子ですね。兄のショーンはご存知のウィリス卿、上の妹のヘレナ嬢は6年前に隣国の王太子妃として輿入れ、カレン嬢はデビュー3年目の社交界の華ですが…」



 ダヴィネス城の執務室で、忙しい政務の最中、昼食を手早く取りながら書類に目を通すジェラルドに向かい、フリードが説明し始めた。


 もう何度目かわからない、ダヴィネス領主への縁談話。

 あらゆる令嬢との縁談を『忙しい』の一言で断り続けてきたジェラルドへ今回紹介するのは、筆頭侯爵家のご令嬢だ。


 この縁談は、侯爵家の次期当主ウィリス卿からの直接の打診だった。


 ダヴィネス領主ジェラルドは、今年で27才の男盛り。

 戦況の落ち着いた今、そろそろ身を固めても良い頃合いだろうと、側近のフリードは侯爵家からの申し入れをいったん預かった。



 ジェラルドはなんだ?とフリードを見る。


「“孤高の侯爵令嬢”の二つ名で呼ばれています」


「孤高…?」

 ジェラルドは不思議そうに聞く。


「はい」


 どこを取っても大変ご立派なご令嬢ですが、ご立派過ぎるようで…

 とフリードは続ける。

「高貴な身分に加え、王族にも近い間柄…陛下や皇后陛下の覚えもめでたく…王女殿下の遊び相手もされていました。加えて姉は隣国王太子妃となれば、そのブランド力の高さは天井知らずです。気軽に声を掛けられる相手ではないので、今の王都には釣り合う令息はいないかと」


「そこまでか、それで孤高か」


「ええ。加えて、あの過保護な兄、なにより…本人に積極的な結婚の意思はあまり感じられないとのことです」


「…ふーん」

 ジェラルドは興味があるともなしとも取れる相づちを打つ。


 それに加えて…とフリードは続ける。

「第二王子が随分前から、執着しているのはわりと知られた話で」


「なに?第二王子だと?」


「はい。単に幼馴染みからの恋慕ともとれますが…」


 第二王子セオドアについてはいい話を聞かない。


 これは何か裏がありますね、ウィリス卿の過保護ぶりも無関係ではないでしょう…また探っておきましょう。

 とフリードは呟く。


「しかし、ご令嬢ご本人に関しては悪い噂は皆無です。むしろいい噂しかないですね。使用人にしろ、王家の関係者にしろ、行きつけの店にしろ…」


「へえ」

 ジェラルドは書類をいったん横に置き、フリードの話をまともに聞いている。


「見た目に反してかなり気さくな性格のようです。ウィリス卿は…実は社交嫌いだとも言ってましたね」


 ジェラルドは思わず吹き出した。

 筆頭侯爵家の令嬢が社交嫌い…聞いたこともない。


「特に、ストラトフォードの領地ではかなりの自由さで…使用人や領民にも分け隔てなく接し、王都での仕事が忙しい侯爵や兄の名代もこなしているとか」


 フリードは、父はカレンには甘いんだ、とこぼしたウィリス卿を思い出す。


「趣味は…表向きは読書に刺繍、オペラ鑑賞、チェスはかなりの腕前で…まぁこれらはごく普通ですが…領地では暇さえあれば乗馬に明け暮れて、育成牧場の方も手伝っているそうです。あ、確か狩りもするとか。勇ましいですね」


 ジェラルドは、話を聞きながら腕組みをした。

 侯爵令嬢が狩り…イメージがまったく掴めない。


「交友関係はごく限られています。身辺には大変気を付けてるようですね…親友と呼べるのは1人で、えーと、アリシア・ミラー伯爵夫人。領地繋がりで」


「ミラー…カーヴィル卿か」


「はい」


 …食えない奴だが仕事はできる。悪い男ではない。

 確か結婚してから人が変わったようだと耳にした。


「これで一通りです」

 フリードは締めくくった。


「…会えるか」


「! ええもちろん、そうですね…シーズン初めの祝賀会…は難しいかもしれませんが、その後の夜会のいずれかで。ウィリス卿と調整します」


 珍しく乗り気のジェラルドに、フリードは驚きながらも期待を持つ。

 我が主君の春を願って…。

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