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辺境の瞳~カレンとジェラルド~  作者: 鵜居川みさこ
第一章
2/75

婚約は突然に~親友との別れと指輪

 カレンは着替えもせずベッドに仰向けに寝転び、じっと天蓋を睨む。


 右手の甲で目を隠すと、深いため息を吐いた。


 私が辺境伯閣下と結婚???


 ∞∞∞


 少し前に遡る。


 カレンは兄と共に夜会から帰宅すると、そのまま父の書斎へと呼ばれた。


 父は執務机の向こうに座り、そばに兄が立っている。二人とも夜会服のままだ。

 座れと言われるがまま、カレンはソファに浅く腰かけた。


 神妙な面持ちの二人に、何を言われるのか皆目検討がつかない。


 …私、何かやらかした??

 思いを巡らすが、ここ最近は大人しく茶会や社交に励んでいるだけだ。


「カレン、お前の縁談が決まった」


 兄が口火を切った。


 はっと短く息を呑むと、兄と父の顔を順番に見る。


 父は無言で頷くと、短く言い切った。

「相手は辺境伯閣下だ」


 辺境伯閣下、ジェラルド・ダヴィネス。

 --ダークグリーンの瞳--


「な、なんですって?」


 思わず口をついて、父に聞き返した。


「ジェラルド・ダヴィネス辺境伯閣下だ。すでに陛下の了承を得ている。…今日の夜会で会ったのではないか?」

 そう言うと、父は問うように兄に顔を向けた。


「ああ、いえ…、引き合わせてはいません。噂になるわけにはいきませんので」


「…相変わらずの過保護ぶりだな」


 呆れるように言うと、父はギシッと音をさせて背もたれに体重をかけ、胸の前で手を組んだ。


 辣腕の政治家として知られる父侯爵は、オールバックのブルネットに髭を蓄え、カレンと似た面差しを持つが、そのライトブルーの瞳は鋭い眼光を放つ。


「この縁談をまとめたのはお前の兄だ…第二王子の先を越した」


 …ああ、なるほど。父のこの端的な言葉でカレンはすべてに納得がいった。


 第二王子は、カレンに執着していた。

 そしてカレンは、第二王子との婚姻は絶対に避けたかった。

 御年17歳になられる第二王子は、シーズン最後に公爵令嬢との婚約発表を控えている。

 それでもまだカレンに執着していることはよく知られた話で、王子が陛下に泣きつくという暴挙に出る前に兄が手を回したのだ。


 ストラトフォード侯爵家が王太子殿下への忠誠を示すという建前で、カレンの身を守るためにこの縁談はまとめられた、と見ていい。

 家格も、筆頭侯爵家と陛下の信頼厚い辺境伯との組み合わせでは文句のつけようがない。


「…承知しました」


 あまりにも急な話に、多少不承不承という面持ちではあるが、父、兄の決断に逆らえるわけもなく、カレンは受諾の言葉を述べた。


 カレンの言葉を聞くと、兄はあからさまにホッとした表情となる。


「力には力、知略には知略を持って数年で辺境の諍いをあらかた収めた功績はお前も知るところだろう。陛下の覚えもめでたいうえに…」

 父は話を区切ると、からかうように兄を見やる。

「どうやらその人となりも妹思いの誰かの眼鏡に叶ったようだ」


 兄は気まずそうに小さく咳払いをした。


「王都での社交より領地で馬を駆るのを好むお前にもうってつけではないか?」


「!」


 すべてお見通しの父には敵わない。

 事実、デビュー以降いやその前から、カレンのテンションはシーズンを追うごとに下がり続けていた。

 侯爵令嬢としての役割はそつなくこなすものの、その胸の内では常に領地に引っ込むことを画策していたのだ。


「お父様…お兄様…」


 なんだかんだと口うるさく言われはしても、手厚く守られていることを実感する。


 政略結婚が常の高位貴族だが、父も兄もカレンの意向を無視することはなく、しかも多少強引ではあるが侯爵家として筋を通したのだ。

 しかし、辺境伯閣下にとっては押し付けられた婚約であることは予想に堅い。



∞∞∞∞


「はあ…」


 自室のベッドに仰向けに寝転がり、思考を巡らす。


 政略結婚は覚悟していたが、まさかこんな形で嫁ぐとは想像だにしなかった。

 適当な上位貴族の令息と結婚するんだろうな…とはぼんやり考えてはいたが…まだ1、2年の猶予はあると思っていたのだ。


 ごろりとうつ伏せになり、重ねた腕に頭を乗せる。


 意外にも、辺境へ行くことには全く抵抗はない。王都でしか享受できない賑わいや、目先の流行りにこだわる気は毛頭ない。

 とにかく、面倒な社交から解放される。

 気掛かりと言えば、隣国へ姉を送り出した次に、辺境へも娘を出す両親、特に母は寂しがるだろうことだが、同居の兄一家が何くれとなく気を遣うだろう。


 問題は…


 数時間前のダークグリーンの瞳を思い出す。


 思い出すそばから、心臓が波打つようで、次いでモヤモヤとした不安にかられる。

 どう考えても、あの人の隣に立つ自分が想像できない。


 私、大丈夫なの???


 ・


「あなた、大丈夫なの?カレン…」


 親友のアリーが気遣わしげに、カレンの顔をのぞく。

 アリシア・ミラー伯爵夫人。夫はカーヴィル卿ことハロルド・ミラー伯爵だ。

 カレンはかつて、二人の恋の架け橋の一端を担った。

 アリーは現在、第一子の妊娠初期だ。


 辺境伯閣下との婚約が公となり、1ヶ月後には辺境へ立つという過密スケジュールの間を縫って、唯一の友と言える美しい親友との別れの時を惜しんでいる。


「うん…今はわりと落ち着いてるわ」

 ティーカップを取りお茶を一口飲む。スッキリとした味わいで、塞ぎそうになる気持ちを立て直してくれる。


 二人は、ミラー伯爵のタウンハウスの端正な中庭の一角でお茶を飲んでいる。


「そうなの??それにしても…ほんとびっくりしちゃったわ。辺境伯へお嫁入りなんて」


 カレンはびっくり…は通り越して、今はもうどうとでもなれ、と半ばやけくそ気味ではあるが、実のところ胸のうちはザワザワしっぱなしだ。


「よくよく考えれば、降って湧いた話でもなさそうだし、なにより王都の社交界から逃れられるわ」

「…うーん、それはそうかもしれないけど…」


 アリシアはなにやら思案顔だ。


「なんていうか、あなた、言ってることと表情が違うというか…」


 ギクッ


「サバサバしてるわりには、決戦前夜みたいに切羽詰まってるというか…」


 もうやだ、鋭いわ…


「でもね、」

 と、アリシアは暖かみ溢れたアンバーの瞳をいたずらっぽく揺らめかせる。


「ふふ、とっても魅力的じゃない?ダヴィネス閣下って」


「ええ?!」


「それは聞き捨てならないな」


 中庭の蔦のアーチをくぐりながら、アリーの夫であるカーヴィル卿が現れた。

 貴公子然としたカーヴィル卿は、眉根を寄せてあからさまに不機嫌な様子だが、雰囲気は軽い。

 素早くアリーの元へ行くと、彼女のこめかみにキスを落とす。

 アリーは一瞬目を閉じて微笑みながらキスを受ける。

 この二人の幸せなやり取りはこちらまで心が温まって、カレンは思わず頬がゆるむ。


「ハリー様、どうなさいました?このような早い時間に…」


「少し時間ができたから寄ってみた。が…妻の思わぬ本音が聞こえたというところだ…いらっしゃい、レディ・カレン」


 妻に触れたとたんに、わかりやすく機嫌は上向きになったようだ。

 客人には如才なく対応する。


「お邪魔しております」


「ハリー様、お時間はあるのですか?お席をご用意しましょう」

「いや、顔を見たかっただけだ。すぐに王宮に戻る」


 …妻バカ、とはこういうことを言うのだろう。

 王宮に程近い自宅とはいえ、劇職の兄達と共に仕事をしているのだ。そうそう時間が自由になるわけはない。それでも身重の妻が心配で堪らないのだ。

 もう慣れたが、かつて“氷の麗人”の二つ名を持ち、社交界のトップスターを誇ったカーヴィル卿の結婚に失望した令嬢は少なくないことを知る身としては、少し複雑になる。

 この変わりよう。

 もう慣れたが。


「レディ、辺境へ行かれる準備は順調ですか?」


「ええ、つつがなく」


 なんとなく訳知り顔で聞いてくるところを見ると、この男も今回の縁談に無関係ではないのだろう。

 後で知ったことだが、多忙を極める辺境伯閣下の都合を見計らい、兄達は何ヵ月も前からこの縁談を進めるべく動いていたらしい。


「それは僥倖。辺境は今は落ち着いていますし、とても面白い所です…それに、今の上流界で辺境伯夫人が務まるのはレディしかおられないと思いますよ」


「…」


 何を根拠に言うのだろう。

 返す言葉が見つからないので笑ってごまかす。


 しかし、親友の夫で知らない間柄ではないから、率直な物言いに嘘はないとわかる。


「ただ、妻は寂しがりますので存分に別れは惜しんでいただきたい。但し、疲れさせない程度に」


 これにはアリーも呆れ顔になる。


 まともに言うのね…妻バカ伯爵!

 カレンは心内で毒づいた。


 ∞∞∞


 楽しい時間は瞬く間に過ぎ、暇を乞う。

 くれぐれも体を大切に…とアリーを労うと、いいと言うのに馬車まで見送るアリーと抱き合う。


「手紙を書くわ」

「待ってる」


 長い付き合いの親友との別れは辛い。

 目の奥がジーンと熱くなる。


「カレン、これだけは言わせて」

「なあに?」


 カレンより頭ひとつ小さいアリシアは、抱きついたままつぶやく。


「あなたは誰よりも勇敢で誇り高くて、驚くほど情に厚い人よ。それは私が身を持ってわかってる」


「…うん」


「でも、侯爵令嬢なのに社交嫌いで、本当は何もかも捨てて自由になりたいって思ってることも知ってる」


「…」


 これだからこの子にはまいる。


「辺境伯閣下は、きっとあなたを愛するわ」


「!」


 そう言うと、アリーはチュッと頬にキスをした。

「必ずね」


「アリー…」

「大丈夫。あなたなら」


 しっかりと目を合わせて、アリーはカレンに言い切った。


 ∞∞∞


 侯爵家への帰途、見るともなしに馬車から王都の風景を眺める。


 夕刻前の高級住宅街は、家紋の入った馬車が行き交い、シーズン最中の賑わいを見せる。


 ふと気づくと、手元が濡れている。

 はっと思い頬に触れると、涙がとめどなく伝っている。


 我ながら訳がわからない。でも涙が止まらない。

 口を覆ったまま、目を閉じた。



 あれこれ理由を考える余裕はなく、家に着く前にとにかく顔を元に戻したかった。

 伯爵家は侯爵家から遠くないし、親友との時間を誰にも邪魔されたくなかったので、今日は侍女も護衛も伴わなかった。そのことに安心する自分がいる。


「ふう」


 落ち着くことに集中し、ひとつ大きな息を吐くと、気分を切り換える。

 レティキュールから急いでハンカチを取り出し、涙を拭う。化粧は剥げただろうが、この際構わない。おそらく腫れているであろう目元は、使用人達には見てみぬ振りをしてもらうしかない。

 親友に会い、別れを惜しんで感情的になったと思うだろう。

 実際その通りなのだが、だがそれだけではないことはわかっている。

 言い知れぬ不安は、ここ数日でカレンの心に大きく広がっていた。アリーの言葉は、その心の扉を開きかけたのだ。


 侯爵邸に着くと、馬車寄せに見たこともない大きな設えの馬車が一台停まっている。来客だろうか。

 カレンの馬車が停まるが早いか、執事と侍女のニコルが大急ぎで駆け寄ってきた。


「お帰りなさいませ、お嬢様。すぐに応接室へお向かいくださいませ」

 珍しく焦った様子の執事が早口で告げる。


「…わかったわ、お客様ね?」

 横目で来客の馬車を見る。


「お嬢様、お顔が!」

 ニコルがカレンの顔を見るなり、驚き指摘する。

 …やはり泣き顔はごまかしきれなかったか。


「…まずいかしら」

「「いえ…」」


 二人揃って歯切れが悪い。

 顔を直してからとも思ったが、執事の様子からすると、急を要することは明白なのでこのまま向かうことにする。

 それでも、とニコルが濡らした冷たい布を大慌てで用意してくれた。


 応接室のある二階への階段を昇る間だけ、目元を冷やし、応接室の扉の前で布をニコルに返し、居住まいを正す。


「お嬢様がお帰りになられました」

 執事の先触れとともに、侯爵邸のいくつかあるうちの応接室のひとつへ入る。


 あ!


 と思ったときには、目の前に威風堂々と礼装とマントに身を包んだその人-ダヴィネス辺境伯閣下-が立っていた。


 多少腫れは引いてはいるが、ごまかしようのない泣いたあとの目が、深緑の瞳とぶつかる。


 一瞬気を取られたが、すかさず行き届いた美しい礼を取る。


「お待たせして申し訳ございません、閣下、お父様」


 部屋には父と辺境伯閣下の二人が居た。

「カレン、閣下は辺境へお戻りになる。その道すがら寄ってくださったのだ」


「そ、それは…ありがとう存じます」

 礼を取った形でうつむいたまま、謝辞を述べた。


「通る道です。お顔を上げて、レディ・カレン」


 ジェラルドは、なんとも滑らかな低音でカレンに話しかけた。


 言われるまま、ゆっくりと礼を戻すが目は伏せたままだ。


「カレン、閣下はあまり時間がない。私は席を外すから話をするといい…では閣下」


 言うが早いか、父侯爵は退室した。

 通常、未婚の令嬢が家族以外の男性と部屋に居る時は扉は薄く開けておくものだが、何に気を遣ったか父はパタリと扉を閉め、部屋には完全に二人きりとなった。


「どうぞお掛けに、レディ・カレン」


「…はい」


 促されるまま、ソファに腰かける。

 カレンが座ったことを確認し、辺境伯もローテーブルを挟んで、向かいに座った。

 と同時に、ふわりと男性的なスパイシーな香りを感じる。

 どくん、と心臓がはねる。


 顔に視線を感じるが、カレンはどうしても顔を上げることが、目を合わせることができない。

 社交慣れはしているはずなのに、そんな自分が信じられず、ただ視線を自分の膝先に下げていた。


「レディ・カレン、左手を出して」


 沈黙を破ったのはジェラルドだった。

 言われるがまま、カレンはおずおずと左手を出す。


 ジェラルドは胸元から小振りの箱を取り出すと、中から指輪を取り出した。


 差し出されたカレンの左手を自分の左手に取る。

 手を取られた瞬間、カレンの肩が大げさにビクリと震えたが、そのまま細長い薬指へ指輪がゆっくりと嵌められた。


「既製品で申し訳ないが、時間がなかった。好みに合うかはわからないが…」


 ぴったりなサイズのそれは、金の土台に大ぶりのブルーダイヤモンドが一粒、それを挟んで、少し小ぶりのシャンパンガーネットが一粒ずつ両脇にあしらわれている。さらに宝石同士の隙間を埋めるがごとく、小さな真珠が散りばめられている。

 中央の三石は、相反する色合いながら淡い色調で統一され、目を奪う輝きを放つ。


 とても珍しいタイプの指輪だが、可憐で素晴らしく美しい。

 カレンはまるで他人の手を見るように、左手に釘付けになった。

 何もかもが現実に感じられない。


「今日のあなたの目元のようだ」


 ジェラルドの言葉に、はっと視線を上げる。


 そこには、先日の夜会で見たとおりの、精悍で整った顔があった。

 意外にも柔らかい表情で、その深緑の瞳は見透かすようにそして面白そうにカレンの瞳を覗いている。


「私は泣くほど恐い?」


 少しからかうように、だがはっきりと問われ、カレンは珍しくうろたえた。

「い、いえ、そうではありません。これは違います。お見苦しくて申し訳ありません」


 自分でも理由のわからない涙だったのだ。言い訳のしようもない。

 タイミングの悪さに焦る。


 ジェラルドはフッと笑みをもらすと、そうでないならよかったと言い、カレンは胸を撫で下ろす。


 そこから数分、相変わらず目を合わせ続けることは無理だが、これからのことなど、ほぼ事務連絡に近い話を続け、辺境伯は侯爵邸を去った。


「では、また領地で」

 言い残すと、辺境伯閣下はひらりと馬車に乗り込んだ。

 あとから従者も乗り込み、バタンと扉が閉まり、出立した。


 両親と一緒に馬車寄せまで行き、見送る。


 母が目敏くカレンの指輪に気づく。

「あら…素敵、閣下は良いご趣味のようね、あなたによく似合うわ」

 カレンの左手を掬うと、母は満足そうに話す。


 それを聞いた父が、どこか嬉しそうに続ける。

「婚約が公になったからな。ショーンとの打ち合わせ通りではあるだろうが…わざわざ来るとは聞きしに勝る律儀さだ」


 カレンは両親の言葉を聞くにつけ、己の胸の内との温度差を感じる。

 まったく喜ぶ気にはなれない。


 どう考えても、あの辺境伯閣下の隣では、私はまるっきり小娘だ。

 何もできない小娘。


 侯爵令嬢の矜持など、なんの役にも立たない。

 ここまで自分が小さく感じたことはなかった。


 ・


 ジェラルドは辺境へ帰る馬車に揺られている。

 馬車には側近のフリードが同乗していた。


「喜ばれましたか?指輪」


「いや」


「ええ?この忙しい最中にあなたの希望にかなう代物を探して、王都中の宝石店を訪ね歩いたのは私ですよ?」

フリードは文句たらたらだ。


「いや違う、すまない、そうではない…指輪は気に入った様子だった…たぶん。礼を言う」


 ライトブルーにシャンパンピンク…本来の瞳と泣き腫らした目元。


 だったら…と、フリードは先を促す。


「目が合わない」


「あー…、お相手は侯爵令嬢ですよ?それも最上級の淑女教育を受けた。おいそれと独身男性とは目は合わさないでしょう。それか…」


「それか?」


 フリードはニヤリと笑う

「恥じらったんでしょう、あなたに」


 …ふむ、恥じらい…ではない気がする。

 ジェラルドは顎に手をあて、先ほどまでのカレンの様子を思い返した。


 なんせきちんと会うのは初めてだから、緊張はしていただろう。

 しかしどう見ても泣いた後の目元で、終始切羽詰まったような面持ちだった。

 自分に恥じらい頬を赤らめる女性は数多く見てきたが、それには当てはまらない。


 いっそ、ここまで見た目と表情と行動が見事に一致しない様は興味深い。

 ほぼ素顔の泣き腫らした目元を思い出す。


「なに笑ってるんですか?」


 知らずと笑っていたらしい。

「いや…次に会うのは領地だ」

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