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辺境の瞳~カレンとジェラルド~  作者: 鵜居川みさこ
第一章
16/75

16. 手紙(中)

 すでに、ジェラルドの怒りでもって居間の温度は下がっているように感じ、使用人達は身を震わせた。


 深緑の瞳は怒りのあまり、暗い濃い色に変化している。


 手紙の内容はというと…


 カレンの姿を見ることができないことへの悲しみ、自身の望まない婚約への怒り、そして辺境の地への憐れみと憎しみとともに、いかに自分こそがカレンに相応しく、深くカレンを想っているか…が、神経質な細かな筆致でタラタラと綴られている。


 よくここまで芝居懸かったことが書けるものだ。

 ジェラルドは鼻白んだ。


 ここまでは、まだとち狂った恋文の類いかもしれない。


 続く内容は2枚目へ。

 怪しさを増したのはここからだった。


 カレンの香り、瞳、唇、項から爪先、髪の毛1本に至るまで、そのすべては己にこそ与えられたものであり、カレンを“味わう”ことは何年も前から約束され、己にだけ許された権利であること。

 “あの時”のように縛りつけてでも必ずカレンを手に入れ、生まれたままの姿で自分に跪かせ、許しを請わせるためなら、何も厭わない…それが叶わないのなら、カレンの瞳に何も映さないよう、手を尽くしたい…


 余りにも粘着質で、妄想に走った生々しい内容に、ジェラルドは怒りを通り越し、唖然とし、呆れた。



 ジェラルドは便箋を畳んで置くと、目の前のカレンに視線を移した。


 やはり不安そうにジェラルドを見つめている。


 いったいカレンは、いつからこの度の過ぎた好意という名の酷い悪意に晒されていたのだろう。


 それを思うと腹の底から新たな怒りが沸いてくる。


 カレンの兄のウィリス卿から、事情は聞いてはいた。

 しかし話を聞くのとこの我慢ならない手紙を実際に目にするのとでは、雲泥の差がある。


 我が国の第二王子は、確か今年で御年17、その年でこの狂信的な粘着質では先がない。


 本来ならば優秀な兄の王太子を支え、共に国のために尽力する立場にありながら、いまだに表面的な公務しか与えられず、その言動は陛下の憂いとなっている。


 栗の一件は、とっくに第二王子へとたどり着き、ウィリス卿はじめ王太子を支持する派閥はすでに包囲を固め、証拠集めをしている。そうは言っても相手は王族だ。慎重に事を進めていた。


 考えなしの第二王子自身にその気がなくとも、王太子の反対派閥にいいように利用され、捨て駒にされているのが真実だった。


 このタイミングでこの手紙をカレンに送り付けてきたということは、捨て駒の悪足掻きとも取れた。


 まったく吐き気がする。


 この手紙をカレンを害した証拠とすべきか…考えあぐね、ジェラルドはハッとする。


 “あの時”…?


 身体中の血が沸騰したような衝撃が全身に走る。


 勢い、カレンを鋭い視線で見てしまった。


「!!!」


 カレンはジェラルドから向けられたことのない猛った強い視線に、両肩をビクリとさせた。


 しまった!

「いや!…すまないカレン」

 直ぐ様謝り…口元に手をやり少しの間逡巡すると、人払いをした。


 二人きりになると、ジェラルドは冷めた紅茶を半分ほど飲んだ。


 カレンは戸惑った顔だが、薄碧の瞳はまっすぐにジェラルドへ向けらている。


「カレン、この手紙は恐らくあなたの予想どおりだ」


「…やはり、そうだと思いました」

 俯いたカレンは意を決したように顔を上げ、ジェラルドへ問いかけた。


「なにか…第二王子を追い詰めるお役に立てますか?」


「それは王都の連中の仕事だ」


 予想外の答えに、カレンは拍子抜けした。


「…そうですか」

 カレンは気落ちした様子だ。


「では、」

「カレン」

 ジェラルドは遮った。


「第二王子と何があった?」


 カレンは目を大きく見開き、みるみる蒼白な顔色になった。


 しまったと思った時にはもう遅かった。


 表情を失い、瞳は氷を張ったような冷たさだ。


 ジェラルドも言葉を失う。


 …しばらくの沈黙のあと、感情の無い声でカレンは発した。


「傷物を押し付けられたとお思いですね」

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