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辺境の瞳~カレンとジェラルド~  作者: 鵜居川みさこ
第一章
13/75

13. 夜明け~アイザック目線~

 アイザックは、いい加減焦れていた。

 焦れ過ぎて笑えるほどに。


 戦場では鬼神と恐れられ、力と知略で持って圧倒的な武勲を打ち立てる男が、一人の令嬢に対しては驚くべき牛歩戦術なのだ。


 自覚があるのかないのか。

 いやないから面白くて仕方ない。


 常に秋波を送られているわりに女っ気がなかった。アイザックが知っている限りない。

 領主ともなれば、跡継ぎを遺すという責務が否応なしに生じるが、焦る様子もなかった。

 酒の席で聞いてみたこともあるが「今はまだな」と、辺境の制圧一辺倒で拍子抜けしたものだ。

 クソ真面目にも程がある。

 今に剣と添い遂げるぞと吹聴して回ったほどだ。


 だから、婚約したと聞いた時は心底驚いた。

 しかも相手は王都の中枢で重責を担う筆頭侯爵家の令嬢だ。おまけにその令嬢は王家のお墨付きときている。

 なんの冗談かと思った。


 聞けば案の定、陛下からの命が下ったとのことだった。

 断れるはずもない。


 しかし、しかしだ、ジェラルドは存外に嫌そうではない。

 婚約に関しては、随分前から侯爵家とフリードが動いていたらしい。何か訳ありな様子は感じたが、あえて聞かなかった。

 婚約をまとめてダヴィネスに帰ってきたフリードは「あのこだわりはなんなんでしょうねー」と、婚約指輪探しで王都中を駆けずり回らされた愚痴をこぼしていた。


 …案外突っ走るタチだったのか???


 社交シーズンの終わりを待たず、婚約者を迎え入れると聞いた時も驚いた。

 超特急で準備を進め、過不足なく整えられる様を満足げに見守る様子は、高速で野営地を作る手筈が活かされたからか…?


 婚約者のカレンに対しては、筆頭侯爵家の令嬢などどれほど見識高く鼻持ちならないのか、意地の悪い興味はあった。

 しかし現れたのは、見た目こそハイクラスの令嬢ではあったが、やることなすことがどうも悉く予想に反する。いや予想の遥か斜め上をいく。


 “お姫様”には違いはないが、その行動は剣を持たない戦士そのものだった。


 我らが辺境伯閣下が、わかりやすくお姫様に惹かれ、今まで誰も目にしなかった姿をさらし、恋に落ちた男の顔をする。

 だが、それは皆、納得のことだった。

(お姫様の口に手を突っ込んだのには度肝を抜かれたが ※「マロン」参照)


 見ている回りが焦れったさにもがいている。


 ある時「婚約者なのだ、何を今さら遠慮がある?」とフリードにこぼすと、ヤツはニンマリして「見守るのも臣下の役目ですよ」と釘を刺してきた。ヤツのこういうところが嫌いだ。



 果たして、丘陵の二人からかなり後方の茂みに身をひそめ、様子を伺う。


 覗き見の体だが、これも臣下の役目…なのか?


 ジェラルドがカレンに近づいたあたりから、アイザックはくるりと背を向け、そのままパタンと仰向けに寝転がった。

 戦場では互いに背中を預け合った友への、ささやかな気遣いだった。


「“見守り”だぞ、スモーク」

 傍らの青鹿毛へ呟くと、朝寝を決め込んだ。

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