受け取った悪意には丁寧にお返ししますね
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私に、「下賤な血の流れた奴が偉そうにするな」「気持ち悪い」「どうせ体で取り入ったんでしょ? あぁやだわ。穢らわしい」と言ったご令嬢方は、そのお口を無くしてあげた。だってご令嬢がこんな汚い言葉を使うなんて可哀想だから。
聖女の力は、内臓が壊れたりしても治せたり、魔獣が入れない結界を張れたりするのなら、教会では教えられなかったけど『不可能を可能にする』という意味だと私は解釈した。
だからやってみたら、綺麗に上唇と下唇がくっついてしまった。
ご令嬢方は涙を流しながらフゴフゴと何か言っているけれど、分からない。
「メスで切ったらもとに戻るよ」とアドバイスをして、私は婚約者であった王太子の所に向かった。
◇◇◇
王太子は今日も顔が綺麗で胸が大きいご令嬢と睦み合っていた。最初は物珍しいからと私が襲われそうになったが、処女を無くすと聖女ではなくなる事や凹凸の少ない体が幸いしてそのような事態にはならなかった事が僥倖だ。
王太子はまだ繋がったまま、呆然と私を見ている。だからそれに笑って応えて、指をそっと振った。
王太子は最初何がなんだか分からないという顔をしていたが、少し経って異変に気づいたみたいだった。そう、王太子がこのご令嬢とずっと繋がったままになるようにしてあげたのだ。王太子は色んな方と関係を持っていたが、特にこのご令嬢とは懇意にしていたから寧ろ喜んでしまうかもとは思ったが、王太子は奇声をあげながらすぐにご令嬢から抜こうとしていたから、とても胸がスッとした。
お礼に少しだけ感度を良くして、私は次の場所に行った。
◇◇◇
次は近かったから王様と王妃様の部屋に向かった。彼等は、約束を違えたのだ。私が聖女となる代わりに、病弱な弟のレイシーは良い病院に行けると約束した。
私は聖女だからと外出が制限され、レイシーに会うことは出来なかった。だから知らなかったのだ。
レイシーは、死んでしまったことを。
夜中、こっそり抜け出して病院に会いに行ったが、レイシーはいなかった。だから元々住んでいたスラムに急いで行った先で、仲間たちに弔われていたレイシーの墓を見つけた。
泣き喚く私に、無理やり聖女にされた事を知っていた皆は酷く同情してくれた。
「聖女よ! 何をしにきたのだ」
王の傲慢な態度に、私は微笑みだけ返した。そして、王と王妃に指先を向ける。
「いえ、とびきり健康にしてあげようと思ったので」
数秒後、王達が苦しみだした。聖の力も、ちっぽけな器しか持ってない人間が大量に受け取ると害となる。
血圧が上昇したり、骨が大きくなったり、そういう弊害が生じるのだ。
酷く醜い断末魔を上げる二人に、私は話しかけた。
「貴方達が約束を守っていたら、こんな事にはならなかったのに。馬鹿な人達」
痛みに悶える彼等には聞こえなかったらしい。だけどそれでいいか、と一人納得した私は、最後にある場所に向かった。
◇◇◇
「……貴方は」
「ご機嫌よう、神官様」
私に聖の力の制御の仕方等を教えてくれた神官の下に来た。
彼は、とても優しかった。
けど、優しいだけだった。他の神官達に辛く当たられても、シスター達に陰口を言われても、彼は表立って庇護してくれなかった。
後で「大丈夫ですか?」と言ってくれるだけ。
どんな酷い暴力より、関心のない優しさの方が私を惨めにした。
「死んで下さい、神官様」
静かにそう言うと、神官の体が腰を境目に2つになる。
少しの間苦しんでいたが、段々苦しいと感じることすら出来なくなったようだ。
私は、彼を膝の上に乗せた。
「ねぇ、神官様。私貴方に優しくしてもらった時、本当に嬉しかったんです」
――もしかしたら、あれは『恋』と呼ぶべき物だったかもしれませんね。
もう全てが遅いけど。
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