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3日間シリーズ

幸福へと続く3日間

作者: メグル

割とどこから読んでもいけますが、『婚約破棄後の3日間』から読んで頂くとストーリーが分かりやすいかと思います。

 もうすぐ妻アイリーンの誕生日なのでなにか贈り物をと思うウォーレンは大きなため息をついた。


 モテる人生を送ってきたわけでもなく、身近にいる女性と言えば、母と使用人、それと領民たちであり、仲の良い異性どころか婚約者もいなかったウォーレンは、女性の喜びそうなものなど皆目見当もつかないからだ。


 大抵のものなら何を贈っても喜んではもらえるだろうとも思うが、日頃から迷惑をかけまくっているので、日頃の感謝やお詫びを兼ねてアイリーンに気に入ってもらえるものが贈りたいと思うのだ。


 なにせウォーレンがやるべき家の仕事は結婚してからアイリーンがほぼ全て肩代わりしていて、その上何かに集中するとほとんど全てのものを放置してしまっているのだ。気を付けないといけないと言いつつ毎回やらかしている。


 いつ離婚を切り出されてもおかしくない、止める権利など自分にはないとも思っているが、今のところ呆れているようにも見えるがアイリーンは愛想をつかさずにいてくれて、だからこそ感謝を示したいと感じている。


「どうしたらいいのですかね。欲しいものを聞いてバレるのも恥ずかしいですし」


 そんなことを川辺で悩んでいると、セルカとルリがやってきた。


「ウォーレン様、どうしたの〜?」

「ウォーレン様が悩みなんて、明日は雪でも降りそうね」

「それは失礼だよー、ルリちゃん」


 ルリの無礼な物言いに怒るわけでもなく朗らかに笑うウォーレンは、何かいい案が出るかもしれないとルリとセルカに相談することにする。


「来月にアイリーン様の誕生日があるから、何をプレゼントしたらいいかと思って。日頃の感謝の気持ちも込めてね」

「それは難しい問題だねー」

「うん。何がいいんだろうね」


 ウォーレンとセルカが頭を悩ませる中、ルリはそんなの簡単、始めから決まっていると口にする。


「どんなもの〜?」

「プロポーズに贈るネックレスよ!ウォーレン様、プレゼントしてないんでしょ。どんな事情があったかしらないけど」


 確かにウォーレンたちの結婚は書類にサインをしただけだ。互いに好きになってという訳でもないので特に必要性を感じてはいない。それに――。


「それは、そうだけど……。迷惑にしかならないような」


 なんとなく、そうすることがアイリーンを逃げられなくしてしまうのではないかとウォーレンは思っている。ただでさえアイリーンにとっては予期せぬ出来事だったはずで、もっといい相手がいるのではとも思っている。


「そんなことないわよ!!」

「うん、僕もそう思うよ〜。この前、ウォーレン様に憧れてるってお話した時に、素敵な人だって言ってたし」


 子供たちの力強い言葉を受けてなお、ウォーレンが躊躇っているとそこにエルダー侯爵がやってくる。


「ここにいたのか、ウォーレン」

「あー、侯爵様だー」

「ああ、侯爵だ。今日はどんな内緒話をしていたんだ?」


 ウォーレンが説明をする前にルリとセルカがエルダーにいまの会話を話していく。

 エルダーはふむと逡巡をしたあと、パチリと指を鳴らした。


「それなら結婚式をやるのはどうだい?」

「いいわね、それ。そうしましょ!」


 エルダーとルリはハイタッチをしてやる気だが、ウォーレンはあまり乗り気ではなさそうだ。渋い顔をしている。


「彼女を家族に会わせるためと思えば悪いことではあるまい?」

「時間は取ることも出来ますね」


 結婚をしてからまだ1度もアイリーンは家族と会ってはいない。勘当されたとは言っても、きっとアイリーンを心の底から心配しているはずだ。

 特に変人で嫌われ者の男に嫁いでいるのだから。


「そうと決まれば、善は急げね!セルカ、皆に言いに行くわよ」

「そうだねー。頑張らないと」


 ルリとセルカは走って家へと帰っていく。まずは母親に伝えにいくのだろう。


「招待客については任せてもらおうか。私からの手紙であれば、あちらも無下にできないだろう」

「お願い出来ますか。アイリーン様のご友人も出来ればと思います」

「夫人に尋ねてみよう」


 こうして、アイリーンへのバースデーサプライズが開かれる事になり、領民たちが忙しく動き始めた。


「セルカ、ウォーレン様のお屋敷に行くわよ」

「お洋服を借りに行くんだよね。姫さまに見つからないように行ければいいけど」

「見つかったら言い訳頼んだわよ」

「え〜、ルリちゃんも手伝ってよ〜」


 ルリとセルカはウォーレンの自宅まで向かうと、使用人の1人にアイリーンの服を貸して欲しいと頼み込む。ウォーレンも既に昨日のことを話していたようですぐに用意をしてくれるらしい。


「これで母さんたちがドレス作れるわね」

「だね」


 アイリーンの服を受け取るために玄関で待っていると、偶然アイリーンがやってくる。


「あら、ルリちゃん、セルカ君」

「こんにちは、姫さま」


 ワタワタとするセルカの背中を思い切りルリはどついて落ち着かせるが、今アイリーンの服を持った使用人が来たらまずい。2人に緊張が走る。


 時間はない、こうなりゃヤケだ。ルリはアイリーンに抱きついて上目遣いで笑みを魅せる。これで使用人が戻ってきてもすぐには視線が向かないだろう。


「あのね、もうすぐ近所のお姉ちゃんが結婚するの。せっかくなら素敵なドレスにしたいから、姫さまのドレスを見せて欲しいの」

「……あーっと、ここら辺だとね、お母さんが子供にドレスとか手作りするんだー。大好きなお姉さんだから、ぼくらも何かしたくて」


 ルリから飛んでくる視線にセルカはどうにか合わせて、アイリーンを伺う。

 アイリーンは優しく微笑んでそれを了承してくれた。


「そうだったの。部屋を開けてもらうわね」

「ありがと、姫さま!」


 アイリーンから離れると奥の方にアイリーンの服を持ってきた使用人がいて、彼女は今の状況を悟ると近くにいた別の使用人にアイコンタクトだけで説明して服を渡すと何事もなかったようにルリたちの元へやってきた。


「若奥様、こちらにいらしたのですね」

「ええ。衣装部屋をこの子たちに見せてあげてもらえるかしら」

「かしこまりました。若奥様もご一緒されてはいかがですか。私どもから説明を受けるよりも嬉しいかと思います」


 ルリとセルカの使用人に乗っかり、アイリーンに説明をして欲しいとお願い光線も送っておく。


「ふふ、そうね。2人がそんなに好きな人なら私も力になりたいと思ってしまうもの」

「そう、すごい素敵な人なのよ」


 アイリーンが案内を始めると、その後ろでは使用人とルリが互いの仕事ぶりを親指を立てて称えていた。

 使用人たちもこのサプライズの結婚式には大いに賛成をしていて、とにかくすごいやる気なのである。


「わぁ、すっごーい。これ全部が姫さまのなの?」

「ええ、そうよ。ほとんどはウォーレン様から頂いたものよ」


 これからパーティーの参加なども増えるだろうからとウォーレンが私財を投じて買ったものだ。ほぼ全てアイリーンの好みを反映したもので、今まで持っていたとのは趣向の違うもの多い。


 本来ならアイリーンがウォーレンの服装に合わせなければならないのだが、この家では逆になっている。ウォーレン自体、あまり正装にこだわりがないのでアイリーンが我慢せず好きなものを着れた方がいいだろうとウォーレンの気遣いだ。


「さすがウォーレン様。ねぇ、姫さまのお気に入りってどれなの?」

「そうね。あそこにある赤いドレスは気に入ってるわ」


 そう言ってアイリーンが指し示したドレスをルリはまじまじと見て、セルカは一緒にきた使用人からアイリーンのドレスで多い形の説明を聞いてその特徴を掴んでいた。


 ドレスを見て回りながらルリがしみじみと喋り出すのはウォーレンのことだ。この部屋についてはお貴族さまならと想像がついたのだが、ルリやセルカからするとそれよりも驚くことがあったからだ。


「そういえば、ウォーレン様って最近倒れなくなったわよね」

「そうだね〜。姫さまが来てからくらい?」


 倒れるという言葉を聞いて焦るアイリーンだが、すぐに使用人が心配はいらないと補足をする。

 身体が弱いとかそんなんじゃなく、熱中しすぎて飲まず食わずで倒れるというものだからだ。よく使用人が

 見張りのために立たされることもあった。


「以前よりもお帰りの時間も早くなりましたね。前はよく日付けが変わってからお帰りになることも多々ありましたから」


 本人知らぬところで暴露される情報は半分ほど愚痴に近い。しかし、ウォーレンの変化に使用人やルリたちは嬉しそうだ。


「そうだったの。ウォーレン様も気を使って下さっていたのね」


 いつも家のことを任せ切りですみませんと謝罪してくるウォーレンだが、彼なりに努力をしているのが分かってアイリーンは小さく笑った。

 本人は結婚する前と全く変わらないと言っているが、そんなことはなかったのだ。


「きっと姫さまのことが大切なんだね〜、ウォーレン様」

「そうですね。ご自身のことを後に回せるくらいには」


 セルカと使用人の会話に、アイリーンはそっとそばにいたルリから顔を背けて意味の無いのにドレスを無造作に撫でた。


「ねぇ、姫さま」

「え、あ、何かしら」


 ルリが声をかけるとアイリーンは驚いたのか肩を跳ねさせて、ルリたちの首を傾げさせる。ルリはそれを追求することなく自分の目的を優先させることにした。

 そろそろ帰らないと作戦が失敗したんじゃないないかと心配されてしまう。


「姫さまの好きな色は?」

「薄い紫かしら。淡い色は似合わないのだけどね」

「姫さまなら、なんでも似合いそうなのに〜」


 アイリーンのドレスも分かったのでルリとセルカは帰ることにして、屋敷の外でこっそりアイリーンの服を借りて自宅へ帰った。


 翌日から、女性陣はアイリーンのウェディングドレスを気合いを入れて作り始める。時折、ウォーレンの母がやってきて細かい刺繍などを施したりしていた。


 男衆は当日の段取りをウォーレンと進めながら、必要な椅子などを作っていた。アイリーンの家族や陛下を呼ぶとエルダー侯爵が言っていたのでやはりいいものを用意しなければならないと。それにウォーレン様とアイリーン様のためならのやる気充分だ。


 子供たちは領の中を飾りつける装飾を分担して作り上げていく。とにかく自分たちに出来ることを精一杯。


 ――そして、当日。


「まぁ、よく似合ってるわ」

「お義母さま、これは?」


 突然、義母に連れてこられた場所でアイリーンは領民たちの手によってドレスに着替えさせられて戸惑いを隠せない。

 それもアイリーンが似合わないはずの薄紫色したドレスで、だから余計に戸惑ってしまう。実際はアイリーンがそう思っていただけで似合わないわけでもなかったのだ。


「実はね――」


 今日のことを説明しようとした瞬間、部屋がノックされやってきたのはアイリーンの母と弟だった。


「お母様!アーロ!どうして、ここに?」

「うふふ、あなたたちの結婚式に招待されたのよ」

「おめでとうございます、姉様」


 状況が飲み込めないと困惑のアイリーンは義母に視線を向けると、そこで初めてアイリーンは今日のことを知らされる。


「…………ウォーレン様が」


 両手を顔に当てて瞳を潤ませるアイリーンに、母は優しく微笑んでアイリーンの手を取った。


「あなたを大切にしてくださる方で良かった。ずっと心配していたから」

「そうですね。ずっと姉様がご無事なのかと不安で」


 きっとウォーレンの噂しか知らなかった2人は随分と心配しただろう。だけど、噂のような人ではなかったのだとアイリーンは穏やかな笑みを見せる。


「ウォーレン様は素敵な方です」


 時に周りが見えなくなってしまうこともあるが、それは領民たちの暮らしをより良くしようとしているから、それにどんなときでもウォーレンはウォーレンとして変に変わることはない。

 萎縮することもなく、自分を大きく見せることもなく。


 それから式がそろそろ始まるとアイリーンの母たちは参列するために出て行き、ウォーレンの父がやってくる。新婦の父役のためだ。


「私ですまない」

「いえ、ありがとうございます」


 アイリーンの父が参加していないことで自分が代理をするということでウォーレンの父はアイリーンに謝罪をするが、アイリーンは首を振ってそれを否定する。

 今、父役に1番ふさわしいのはウォーレンの父なのだ。今はもう2人目の父だとアイリーンは感じている。


 そして、ウォーレンの父と歩き初め中間地点で新婦の手は新郎の手に乗せられる。それからアイリーンとウォーレンはゆっくりと2人で歩き出す。


 領民たちお手製のバージンロードを祝福されながら2人で歩き、神父の前で誓いの言葉に誓い、ウォーレンはプロポーズに贈るネックレスをアイリーンにつける。


「至らないところばかりの僕ですが、これからもどうかよろしくお願いします。アイリーン様」

「こちらこそ、末永くよろしくお願いします、ウォーレン様」


 こうして、アイリーンの誕生日に開いた結婚式はたくさんの祝福に包まれて無事に終わったのだった。

 この先、誰もが羨むのような仲のいい家族(夫婦)となるのはもう少しだけ未来の話だ。


 ――と、ここで話を終えても良かったのだが少しだけ。


 誓いの言葉も終えてアイリーンが家族や友人に囲まている間にウォーレンは友人の手を借りて人の輪から外れると抜け道を走った。


 上がってしまった息を整えながら目的の人がくるのを待つ。当日のルートは計算積みなので彼がくるよりも自分の方が早く着いているはずだ。


「会われなくていいのですか?侯爵様、いえ、お義父様とお呼びした方がいいですか」

「あれとは勘当した身だ。侯爵で構わん」


 ウォーレンが待っていたのはアイリーンの父だ。

 勘当したと行っても、アイリーンのことが心配になって今日、ここに来たのだろう。式の最中にこっそりといたのをウォーレンは見逃さなかった。


「侯爵、1つだけ言わせてください。幸せに、とは迷惑をアイリーン様にかけているのではっきりと言えませんが、それでもアイリーン様の笑顔が曇ることのないように僕は僕の精一杯で頑張ります。それと観光にいらしてください。ここはエルダー侯爵のお墨付きですから」


 言っていることが2つになってしまったと反省しながらウォーレンは義父に深々と頭を下げてからすぐに会場に戻って行った。


 その様子を影から見ていたエルダーがひょっこりと出てきてアイリーンの父へ声をかける。


「どうだ、私のお気に入りは?」

「少なくともアーレント(あれ)よりは任せられるかもしれんな。流されるような人物ではなさそうだ」

「もちろん。それと意地は張り続けない方がよろしいかと思いますよ。あの子のことは第2王子も気に入ってますから」


 それでは失礼と笑いながらエルダーは去っていく。

 近々アイリーンの勘当は解かれるだろうと。第2王子に1度だけお願いを叶えて貰える権利を使ってきっとウォーレンはそうするだろうから。


 幸せが溢れる領は今日ものどかな緑ばかりが広がっていた。

これでウォーレンたちの物語も終わりとなります。


最後までお付き合い下さりありがとうございました!

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