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アウトランサー あるいは敗北神話  作者: ニタヲ
PIP EMMA
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oo4- 交差店


「今日の伝言はー、『お仕事おつかれさま!早速振り込んどくよ☆』でした! ではまた明日ー!」

 

 チャッチャラ、チャッチャラ……。



 ひどいラジオの音で目が覚めた。

 明るい、また別の場所か。

 今度は一体なんだろうな。


 それにしても二度寝したあとみたいにだるいな。

 連日の仕事が続くとこんな感じなのかな。

 連勤で働かなきゃいけなかった時代の人間はご苦労さまだな。

 

 

チャンポーン……チャンポーン……チャンポーン……。


 

――どんなチャイムだよ。

 

 扉の方へ向かった。


「こんにちは。ちゃんぽんでございです」

「あ、はい」 

 

――なんか来たけど、いい匂いだなこれ。食っていいのか?

 

「ハロー、ハロー、こちらハロー。きみもハロー」

 

 部屋の隅にある電話ボックスから声がした。

 

「聞こえてるかい? 出前頼んだからそっちにいってると思うけどそれ下に持ってきてくれるかい?」

「あー、もしもし。あの、どちら様ですかね?」

「ああ、こちら様ですけど何か?」

「そちらに持ってきゃいいんですね」

「よろしくー」


 電話は切れた。


 『出前頼んだからそっちにいってると思うけど』ってなんだよ。なぜわざわざこっちにした。

 まあいい、これも仕事ってやつだ。

  

 ドアを開けて外に出た。

 風情のある内装だ、アンティークな。

 壁や天井に異国風の飾り物がたくさん吊るされている。

 

 なかなか洒落てるな、こういうのは初めて見る。

新雪郷(ニュースノー)〉にいたときは何もかもがまっさらな白紙みたいにシンプルだったしな。

 

 廊下の中央にエレベーターがあった。

 扉が自動で開いたので中に入った。

 静音で下降し、下の階に着くとシューっと扉が開いた。

 このエレベーターはなかなか良い。浮いてる感じがした。

 

 降りたところは厨房だった。


――初めて入るがこんなところなのか。


 ドアの向こうから話し声が聞こえたので、ドアを開けた。

 

 そこは喫茶店のカウンターだった。


「おー、サンキュー。冷めちまったかな」

 

 カウンター席に座っていた少年が声を上げた。


「これがご希望の品ですかね?」

「うん、いい匂いだ。ゲディ、箸あるかい?」

「ああこれか?」

 

――あ、こいつ!


 ゲディと呼ばれた燕尾服の男は、あの時俺を突き落とした奴だった。


「あの、どうも」

「やあ、エルガー。とりあえず酒でも飲むかい?」

「い、いや俺はだいじょぶす」

「飲まないのか、こんなに美味いのに」

 

 ゲディはカウンターの棚に置いてあったボトルを取って蓋を開け、そのまま飲みだした。 

 

「ゲディ、狂心酔(アグアマルカ)ある?」

「んー、ないな。”あべのはるか”ならあるぞ、ラロゼ」

「じゃあいいや」

 

 ラロゼと呼ばれた少年も帽子を被り、タキシードみたいな服を羽織っているが、下は半ズボンだ。

 あとニタニタ笑っている。

 帽子の影のせいか少年の目は見えない。



「まあこれでも飲め、エルガー」


 お茶……か?

 なんか変な匂いだけど。

 

「仕事はどうだったかね?」

「まあ、そんな難しいことはなかったですけど」

「何がなんだかよく分からなかったって?」

「ええ」

「なんてことはない。きみは自分の人生を歩んだ、というだけだ。別にこれまでと変わらないだろ? ちょっと刺激的になっただけで」


「そしたら、あそこは一体どこですか?」

「ああ、あそこか? あそこは詰み無き盤場(デスボード) だ。きみんとこのゲームみたいなもんだ」

「じゃあ仕事ってのはそのボードってとこで冒険でもしろってことですか?」


 ゲディはすこし間を開けてから答えた。


「ふうん――ま、そんなところだな。いい仕事だろ?」

「仕事って感じはしないですけど」

「大体そんまもんだ。やるまでは不安だが、やってみると案外なんてことはない。誰かが無理やり背中を押してやればもっと刺激的な人生を歩める奴はたくさんいる。だからお前は運がいい、誰かがいたからな」

 

 それは確かにそうだ。

 こっちはこっちで何がなんだかさっぱりだが、あのまま雪に埋もれていくだけの人生よりよっぽどましだ。 

 でも、俺ってもう死んでるんじゃないのか?

 なんか普通に生きてるけど。

 そういえば最初なんか言ってたな、あの世にいくとかなんとか。


 そう思ってゲディに聞いてみた。

 

「あのー、ここってあの世ですか?」

「ああ、ここか? ここは違う。ここは〈交差店(カウンターBARテン)〉だ」

「じゃあ俺はまだ死んでるわけじゃないってことですか?」

「うん、半分はそうだな」

「半分?」

「そう」 


――そうって、半分死んでるってどうゆう状態だよ。

 

「おーい、長話はよしてさっさと行こうぜー」


 ラロゼはちゃんぽんを食べ終えていた。


「人間の話はほんとに長えなあ、日が昇っちまうぜ」


――日が暮れちまうぜだと思うが。


「じゃ、行くかね」

 


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