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午後12時、魔法が解けた時に 上

趣味は創作小説投稿、さんっちです。ジャンルには広く浅く触れることが多いです。


タイトルのように、童話「シンデレラ」の雰囲気があります。でも、魔法にかかっているのは誰でしょう・・・?



保有する魔力が多いほど、高い地位となるグリドニア王国。少年ザードは、今日も今日とて雑用に追われていた。


「ザード、床掃除はどうしたの!それに庭の雑草取りは!?あっ、水くみもしてないじゃない。お昼までにやらないと、ご飯抜きよ!」


「は、はい!すぐやります、レイラ様!」


「まったく、貴方はただでさえ魔法が使えないというのに。こんなことも出来ないのかしら。本当に出来損ないなのよ、置いてやってるだけで感謝しなさいね!」


必死で掃除する彼に、主である令嬢はただただ罵倒を浴びせるのだ。


グロッサヌ伯爵家の令嬢レイラの元で、こき使われるザード。様々な家事を押しつけられる上、無理難題を突きつけられることも多く、かなり重労働なのだ。


それでもザードは、文句1つ言わなかった。いや、言えなかったというのが正しいだろうか。


ザードは孤児院で生まれ育ったが、10歳で魔力を持つ兆しが現れた。貴族にとって魔力は「家の力を示すモノ」として価値があり、目を付けられたグロッサヌ伯爵家に強引に売られてしまう。


ところが彼の魔力は、1年も経たずに消えてしまったのだ。孤児院に返すと世間の冷ややかな目を浴びせられると恐れた伯爵家は、彼を家に置く代わりに、こうして奴隷のように扱うようになる。


この家に来て早5年。このまま屋敷で虐げられて、一生終えるのではないか。そんな不安に襲われることもあるが・・・楽しみもある。お使いで城下町に行き、目的地と反対側にある本屋に入れば、今日も“その人”は待ってくれているのだ。


「おはようザード、今日も頑張ってるな」


「リック兄さん!」


ザードが駆け寄っていくのは、黒い癖っ毛に赤い瞳、日に当たって焼けたような肌にそばかすを持つ青年。本人曰く、健康体だけが取り柄らしい。青年の名はリック、町でそれなりに大きい本屋で働いている。


ザードが下働きになってすぐの頃、突然の雨でずぶ濡れになったところを、通りすがりのリックに助けられた。店の裏手に入れてくれて、タオルも用意してくれて、温かいお茶も出してくれて・・・初対面の彼を、熱心に世話してくれた。


後日、感謝の意で本を1冊買ったところ、本好きなことで意気投合した。リックの人柄の良さもあり、ザードはよく本屋を訪れるようになったのだ。


今日も他愛のない会話をする2人。こんなところレイラに見つかったら雷が落ちるだろうが、ザードにとっては大切な時間。美味しいおやつも、面白い本も、そして気兼ねなく話せる相手も、ここでは手に入るのだから。


「ザード、かなり前の作品だけど、面白い本があるんだ。良ければ貸そうか?」


「えっ、良いんですか!ありがとうございます」


「あぁ、気に入ってくれると嬉しいな」


本を貸してもらい、スキップで屋敷に戻っていくザード。午後も不合理な扱いを受けつつも、なんとか1日を終えた。夜、早速貸してもらった本を読み始める。


ファンタジーの世界でのお話で、ページをめくる度にドキドキしてくる。主人公はどうするんだろう、世界はどうなっていくんだろう。なんて思って読み進めると、途中で手作りの栞があったのを見つけた。


「わぁ!綺麗な押し花、素敵な栞だなぁ・・・あれ、何か書いてある」


小さい文字で【ザードにあげる】とあったのを見つける。どうやら、リックがわざわざ作ってプレゼントしてくれたようだ。わぁ~!と感動を覚えたザード。


こんな自分を見てくれる、こんな自分を受け入れてくれる。それがとにかく嬉しい、もっと貴方と一緒にいたい。溢れかえってしまいそうな思いに戸惑いつつも、この瞬間を幸せに感じるのだった。



「あら大変、もうすぐお城で舞踏会が行われるわ!」


ある日、国中の貴族に招待状が届いた。王族主催の舞踏会であり、貴族にとっては大切な催しだと、レイラは偉そうにザードに話す。


「孤児院育ちのアンタには分からないでしょうけどね、貴族って大変なのよ。私はグロッサヌ伯爵家の安泰のために、こうした社交界で良い人を見つけないとなの!ちゃんとその人と結ばれ、多くの人々のために執務に取り組む必要があるのよ。家事だけしてれば良いアンタと大違いね。


しかも今回は、唯一未婚であるヘンリー第三王子もいらっしゃるのよ!病弱であまり表に出られない方で、こうした場には午後12時までしかいられないらしくてね。話すどころかお目見えすることも難しいのよ。


既に婚約されてる兄王子と同じように、滑らかな金髪に真白な肌、サファイアのような瞳を持つ美男子らしいわ。ご挨拶して、1度は踊っておかないと。あわよくば、その人と結ばれて王妃に・・・ウフフ!」


すっかりレイラは上機嫌だ。初対面でそこまで事が運ぶと思っているのか・・・まぁ、夢は見るだけタダなので良いが。


「ザード、当日は貴方も来なさい」


その一言で、ザードも舞踏会へと足を運ぶことになった。といっても会場には「伯爵家の威厳が下がる」との理由で入れてもらえず、馬車で待機しろと命令されて。


舞踏会は夕方から始まり、夜通し行われる。多くの人々が会場入りするのを、馬車の手入れをしながらチラリと見るザード。多くの令嬢は、やはりヘンリー王子が狙いのようだ。


「あぁ、1度でも良いからお話ししてみたいわぁ~。願わくば、王妃に選ばれちゃいたい!」


「でも、異国から嫁いだ地味な側室の息子じゃない。オマケに病弱で。結ばれても大変じゃない?」


「大丈夫よ、だってグリドニア国王のご子息でしょう?それなりの地位と財産は得られるわよ」


かなり大きな声で話しているが、周囲の目は大丈夫だろうか。なんていらぬ心配をしつつ、ザードはひっそり待機する。会場を行き来する豪華な服装の人々、外でも聞こえる優雅な音楽、そして深まっていく夜。ザードにとって夢現だった。


時計はもうすぐ日が変わる時刻。だんだんと瞼が重くなるザードは、うっかり持っていたペンを落としてしまう。コロンコロンと、地面を転がっていくペン。物を壊したり無くしたりしたら、すぐさまレイラによる鉄槌が下される。酷い目に遭いたくないと、慌てて拾いにいった。


・・・と、ペンは誰かの足元で止まった。



「これ、君のかな?」



ペンを拾ってそう問いかけた人物を見て、ザードは息を呑む。


滑らかな金髪に真白な肌、サファイアのような瞳を持つ青年。胸には王族の紋章が入ったブローチ、間違いなくグリトニアの王族だ。おそらくこの人が、多くの令嬢が狙うヘンリー王子なのだろう。まさかの王族に拾ってもらい、慌ててザードは頭を下げる。


「も、申し訳ありません!お手を煩わせてしまって・・・」


「いやいや、お役に立てて良かったよ」


優しく微笑んだヘンリー王子は、ザードにペンを渡す。近くで見ると、確かに噂通りの美しさだ。思わずザードは見惚れてしまった。


「君は見たところ、どこかの使用人かな?」


「は、はい。グロッサヌ伯爵家の使用人である、ザードと申します」


「・・・・・・」


王子はしばらく驚いた顔をしていた。どうしたのだろう、自分は何か変なことを言ってしまった?と不安になるザード。ふとサファイアのような瞳が一瞬、寂しげな表情を醸していたのに気付く。


「ヘンリー王子、ここにいらっしゃったのですか」


ふと遠くから、心配そうに女性が近寄ってくる。どうやら、王子に長く仕えるメイドらしい。


「既に会場から離れるとは言ってますが、早くお部屋に戻らないと・・・あら、そちらのお方は?」


「グロッサヌ伯爵家の使用人だ、落とし物を拾って」


「グロッサヌ伯爵家・・・確かご令嬢のレイラ様がいらっしゃってますね。かなり執拗に殿下へと迫っていらっしゃいましたのを覚えています」


相変わらずレイラ様らしい、とザードは思った。彼女の悪目立ちと執拗さで、悪い意味でグロッサヌ伯爵家を覚えていたらしい。


「も、申し訳ありません。レイラ様がご無礼を」


「いやなに、君が気にすることではないよ。なかなか大変な方ではあったけどね」


笑顔で話すヘンリー王子だが、チラリと時計を見た。日付が変わるまで、3分を切ろうとしている。


「俺はこれで失敬するよ、気をつけて」


冷や汗をかきつつ、フラフラと去って行く王子。病弱だと聞いていたし、もしかしたら体調が優れていなかったのだろうか。だとしたらさらに迷惑だったのでは・・・と、ザードはとにかく不安に襲われている。



ボーンボーンボーンボーン・・・・・・



城の時計は重厚な鐘の音で、日が変わったことを告げるのだった。

読んでいただきありがとうございます!

楽しんでいただければ幸いです。

「中」は明日夜に投稿する予定です。

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