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誇りを持って

 フレーナが服を選びに行ってしばらく経った。

 メアはその間、窓から往来を歩く人々を眺めていた。


「王都は発展したな……前に人里に来たのは三百年前だった」


 独り言を呟いていると、店の奥から数名の人間が出てきた。

 その中にはフレーナの姿も混じっている。


 青と白を基調とした清純なドレス。

 翡翠の宝石をあしらったネックレス。

 自分には不釣り合いだと言わんばかりに、フレーナは俯いていた。


 そんな彼女を店主は胸を張って紹介する。


「旦那様、いかがでしょう!? 腕によりをかけて店員一同、コーディネートいたしました! 奥様はこれで満足だと仰られましたので、後は旦那様にご要望があれば」

「フレーナがそれでいいならいいよ。代金はさっき売った金から差し引いてくれ」

「承知しました。それでは、お会計の方に入らせていただきます」


 店主は恭しく一礼し、会計用紙の準備を始めた。

 メアはフレーナの姿をよく観察してみる。


 服装は豪華になって、可憐になった。

 だが身体が細く、髪のつやもないようだ。

 あとはこの面を解決すれば、相当に美しくなるだろう。


「綺麗になったな、フレーナ」

「は、はい! ありがとうございます、アメ様!

 でも、私がこんなに着飾っても意味なんてないでしょう……」


 メアがフレーナを褒めるのは、おそらく人間的な感性ではないのだろう。

 神が語る『綺麗』とは、人としての美しさを褒めているのではなく、単に外面的なよさを褒めているのだ。

 だから、こんなに堂々と「綺麗だ」なんて言えるのだろう。

 少なくともフレーナはそう思っていた。


「意味なんて、なくていいんだよ。お前が喜んでくれれば十分だ。

 さて……服は買ったし、次はどこに行こうかな。飯を食いに行くか? それとも家具を買いに行くか?」

「うぅ……」


 神が自分のような人間ひとりを気にかけてくれて、フレーナは過度に委縮してしまう。

 本来ならば喜ぶべきだ。いや、実際にとても喜んでいる。

 しかし、それ以上に申し訳なさが勝ってしまう。


 村で虐められていたフレーナ。

 だからこそ自己肯定感も低い。


「なあ、フレーナ。俺は人間が好きなんだ」


 メアはそんな彼女の本質を見抜き、言葉をかける。


「人間が好き、ですか? さすがアメ様です!」

「ああ。特に、つつましい人間が好きでな。お前みたいに驕らず、他人に対して謙虚な姿勢を忘れない人間とか。でも、それと同時にもったないとも思う」


 もったいない。

 メアの長き生で、フレーナのような人間は何度も見てきた。


「誇らしい思いやりや能力を持っているのに、自分を認められないのはもったいない。世界の誰が認めずとも、フレーナお前をすばらしい人間だと肯定するぞ。

 だから……もっと胸を張れ。今のお前はすごく綺麗だ」


 諭すようにメアは語る。

 ここまで直球な言葉を受けたことはなくて、フレーナは固まってしまう。

 だが、嬉しかった。


「はい……ありがとうございます! 私、もっと自信を持てるようにがんばります!」


 メアの言いたいことはよくフレーナに伝わった。

 だから、神様の期待に応えられるように前を向きたい。

 ここまでメアが認めてくれるのなら。


 満足そうにメアは頷く。

 フレーナが隣に座ると、店主が戻ってきた。


「お待たせいたしました!」


 袋いっぱいに詰まった宝石の代わりに、用意されたのは山のような貨幣。

 さすがにこの大金を持ち歩くと、盗賊なんかに襲われてしまいそうだが。

 襲われたところで神から盗める者はいないだろう。


「いかがしますか? ご自宅までお金をお送りしますか?」

「いや、持ってく。この袋に入れるよ」


 メアは宝石を入れてきた袋に貨幣を詰めていく。

 どう見ても入りきらないのだが、際限がないようにどんどん貨幣が放り込まれていく。


「わぁ……それ、どういう仕組みなんですか?」

「空間に作用する魔術の応用だ。見かけの十倍くらいは入る」


 貨幣を一通りしまったメアは立ち上がる。

 フレーナも続いて後を追った。


「じゃあ、また機会があったらよろしく。行こう、フレーナ」

「またお越しくださいませ!」


 店員一同に見送られ、二人は宝飾店を後にする。

 そして次なる店へと向かった。

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