宝石の山
まず、やって来たのは宝飾店。
煌びやかなジュエリーやドレスが並んでいて、フレーナは目を回してしまう。
メアとフレーナは共に上等な服を着ていない。
そのため、店員や警備員が怪訝な視線を向けてきた。
宝飾店に用があるのは基本的に貴族だけ。
門前払いされずに入れただけでもありがたい。
「何かご用ですかな?」
ふくよかな店主がカウンター越しに話かける。
この時点では、フレーナたちをまともな客と見なしていなかった。
メアは宝石をいっぱいに詰めた革袋をカウンターの上に置く。
「これ、全部買ってくれないか」
「どれどれ……うおっ!?」
中身を覗き込んだ店主は仰天し、椅子からひっくり返る。
彼は慌てて立ち上がり、ひとつひとつを手に取って凝視し始めた。
「ほ、本物だ……すべて本物だ。こんなに大粒で純度の高い宝石が山のように……すぐに鑑定いたしますので、少々お待ちくださいませ!」
店主が合図を送ると、フレーナとメアの椅子が用意される。
何事かと店員たちも驚いているようだ。
店長の慌て様を見ると只事ではないとわかる。
ふかふかの椅子に身を沈めたフレーナは困惑した。
目の前に紅茶が出されて、手をつけていいものか迷う。
メアは迷わず紅茶を飲み出したのでフレーナも続く。
上質な甘みが広がる。今までに飲んだことのない味だ。
「やっぱり、あの宝石の量は異常ですよ」
「そうなのか。俺からしたら石ころと変わらないんだけどな。宝石って別に何かの役に立つわけじゃないだろ?」
「でも、キラキラ光って綺麗です!」
「うん。綺麗なのは大事だな」
ぼんやりと店員たちを観察するメア。
そして羨ましそうにドレスやアクセサリーを眺めるフレーナ。
二人が待ってしばらくの時間が経った。
「お待たせいたしました! すべての宝石の査定が終了いたしました!」
店主はにこやかな笑みを浮かべて戻ってくる。
一枚の紙がカウンターに差し出された。
「こちら、合計で4280万ルアになります」
「4280万……?」
フレーナは首を傾げた。
桁が大きすぎて思考がフリーズしたのだ。
おそらく城が変えるほどの値段。
だが、メアは金銭感覚が備わっていない神。
値段を言われても特に驚かない。
「うん。じゃあ、それでよろしく」
「畏まりました! しかしお客様、これほど上質な宝石をどこで?」
「倉庫に眠っていた。せっかくだから換金しようと思って」
「ふむ……経年劣化は見られませんが……」
メアの持っている袋はただの袋ではない。
中にある物の状態を完璧に保存する代物だ。
おそらく宝石たちよりも、地味に見える袋の方が価値は高い。
「ともかく、商談成立です! 今後ともごひいきに!」
「あ、それともうひとつ。この少女にドレスとかアクセサリーを買ってくれないか。俺は服とかよくわかんないから、見繕ってくれ」
フレーナの背がそっと押される。
いきなりのメアの言葉に彼女は硬直した。
「えっ!? わ、私ですか!?」
「お前以外に誰がいるんだ。生活するには服も必要だろう」
「それはそうですけど……もっと安い物でも」
「金のことは気にしなくていい。宝石なんて創ろうと思えばいつでも創れる」
さりげなくメアがとんでもないことを口にしたが、指摘するのも野暮というもの。
フレーナが着ている服は、生贄として捧げられるための安物ドレス。
ここにある本物のドレスとは格が違う。
店主はフレーナの姿を見て微笑んだ。
「おお、これは何とお美しい! よりお美しさを引き立てるためにも、我ら全力を尽くしましょう! ささ、こちらへどうぞ。旦那様はここでお待ちください」
「旦那……?」
どうやら店主はメアをフレーナの夫と勘違いしているようで。
フレーナは顔を真っ赤にしてしまった。
自分のような存在が神様と並ぶなど、無礼にも程がある。
「フレーナ、ゆっくり服やアクセサリーを見てくるといい」
「は、はい! できるだけ早めに終わらせますね!」
「いや、ゆっくりと言ったんだが……」
店員に誘われ、フレーナは店の奥に入って行った。




