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伝えたい想い

 神殿に帰ったフレーナはへたり込む。

 あんな目に遭うとは思わなかった。

 メアの助けがあったから良かったものの、あのままトリナたちに襲われていたらどうなっていたことか。


「けがは?」


 神殿に帰って早々、メアは確認した。

 ドレスは破れているが傷はない。

 もっとも、心に負った傷はあるが。


「大丈夫です。メア様のおかげです!」

「よかった。というか、お前の護衛をしているはずのメロアはどこに行ったんだよ……」

「二人は私とメロア様が離れる瞬間を狙っていたようです。メロア様のせいではなく、私の油断が招いたことですから……どうかメロア様を責めないでください」

「わかってる。だが、フレーナのせいでもないよ」


 普段よりも優しい声色でメアは話す。

 自分がフレーナの傍にいられなかったことを、彼は心の奥底で後悔していた。


「すまなかったな。やはりお前を村に近づけるべきではなかった。つらい過去と向き合うのが、どんなに苦しいことか」

「いいえ、メア様。つらい過去と向き合わなければ前へ進むことはできないのです。

 私は村で虐められて、長く苦しい日々を送ってきましたが……今は楽しいです。メア様が傍にいてくれて嬉しいです。ただそれだけで、どんなに嫌な過去も乗り超えられますから」


 フレーナの言葉を聴いて、メアは目を見開いた。

 強い決意だ。


 今まで、メアは『フレーナを守ってやらなければ』としきりに意識していた。

 もちろん今でもその感情は変わらない。

 ただし、少しフレーナの精神を軽んじていたのかもしれない。


 それとも、先程トリナとシーラというトラウマと相対して強くなったばかりなのか。

 ともかくメアの予想外の強さをフレーナは見せてくれた。


「ふっ……フレーナは俺が思っていたより、強いんだな。そして同時に優しくもある。お前みたいな人が世界にあふれていたら、どんなに素敵なことだろう」

「あの……メア様、それでひとつだけ。お願いがあります」

「ん? 何でも言ってくれ」


 フレーナはメアが助けに来てくれた時から、ずっと感じていたことがある。

 そして帰り道でずっと言おうか迷っていたことだ。


 だがフレーナは言ってしまいたかった。

 心中の本音を吐露したかった。


 彼女は意を決して言の葉を紡ぐ。


「私には、メア様が必要です」

「そうか。それなら俺をいくらでも頼ってほしい」


 メアは常と変わらぬ微笑を浮かべた。

 フレーナの予想どおりの反応だ。


 しかし、今引き出したかったのはその反応ではない。

 もっと詳しくフレーナは感情を伝えなければならないのだ。


 この神様はいつも自分の味方をしてくれる。

 だけど不安だった。

 いつか両親のように……唐突に別れを迎えてしまうのではないかと。


 だから今のうちに伝えておきたい。

 本当の心を。自分の本音を。


「そして、私は……メア様を愛してしまったのです」


 次いで出たフレーナの言葉。

 いや、告白。


 急な告白にメアは押し黙った。

 彼が初めて見せる戸惑いの表情。

 その反応が、どこかフレーナにはおかしかった。


「ご迷惑であれば聞かなかったことにしてください。私はメア様の家族だと、そう言ってくださいましたよね。

 でも私は……妹とか娘とか、そういう親しげな感覚ではなく。愛情をメア様に感じてしまったのです」


 一人の男性として好きになってしまった。

 相手は寿命も種族も違う神様。

 神様の愛がほしいなど、天罰を受けても仕方ない。


 恥ずかしそうに目を伏せるフレーナ。

 そんな彼女の頬に、メアの温かい手が触れた。


 顔を上げると、そこにはいつもと違う笑みのメアが。

 慈しみを感じさせる美麗な笑顔だった。


「俺も好きだ。うん……恋愛とか、したことないけど。

 俺たちは寿命も違うし、感覚も違うよな。それでも寄り添って生きていきたい。

 愛……に関して、たぶん俺はフレーナよりも無知だ。だから教えてくれるか? 愛や恋といった、人の持つ素晴らしさを。お前が料理を俺に教えてくれたように」


 それは紛れもない肯定だった。

 メアはフレーナの告白を受け入れたのだ。


 どうせ断られると思っていた。

 勝手にフレーナは想いを伝えたかっただけ。

 思いがけない事態に気が動転する。


「え、えぇ……っと。なんだか、自分から言っておいてなんですけど。照れてしまいますね」

「俺も若干恥ずかしい。だが、すごく嬉しい。

 長い生の中で、恋人が出来るなんてことなかったからな」


 メアはそっとフレーナを抱き寄せる。

 いつもよりすごく、胸が高鳴っていた。


 フレーナはそのままメアに身体を寄せ──



『ただいまなのだー!』

「「!?」」


 響いた明朗な声に、二人は慌てて身体を引き離す。

 扉を開けて入ってきたメロアに、メアはため息をついた。


「なんて間の悪い……」

「あ、あはは……」

『うん、二人ともどうしたのだ? 魚を獲ってきたー!』


 体中にくくりつけた魚を、メロアは布に上に振るい落とす。

 今夜の夕食を前にフレーナは空腹感を覚えた。


「ま、いいや。フレーナ、今日も飯作ってくれるか?」

「はい! お任せください!」

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