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諦観

 翌日。村長の家に招かれたフレーナ。

 珍しくまともな食事を振る舞ってもらった後、奥の部屋へ通される。

 純白のレースで作られたドレスを使用人に着せられ、身なりをチェックされた。


「うーん……ちょっと髪は艶がないし、体もほっそいけど……まあいいでしょう。神様が人間の見た目なんて気にしないと思うし」


 中年女性の使用人は、フレーナを見て適当に言い放った。

 神への供物に捧げられることが光栄だとか言っていた割に、神への敬意はまったく見られない。


 ある程度ドレスを整えたところで、部屋に村長の娘であるトリナが入ってくる。


「あら、生贄さん。ずいぶんとマズそうな生贄だけど、神様は満足してくれるかしら? この村で要らない人間があんたしかいないから、仕方ないけどね」

「……」


 軽蔑の視線を向けられてフレーナは押し黙った。

 さっさとトリナには出て行ってほしい。


 フレーナはすでに何もかもを諦めている。

 ただ、死ぬその瞬間まではできるだけ静かに過ごしたいのだ。


「何よ。もうすぐ死ぬっていうのにだんまり? 本当にあんたって自我がないのね」


 何を言うかと思えば、ふざけたことを。

 自我を出させないように強制してきたのは村人たちだ。

 特にトリナがその筆頭格で、しきりにフレーナを虐めていたというのに。


「私、もう行くね。神様も待ってるだろうから……」

「そう。ああ、これで清々するわ! 目障りな奴が消えてくれて本当に嬉しい」


 勝ち誇ったように笑みを浮かべるトリナに背を向けて、家の出口へと歩き出す。

 外では村長と神輿を担ぐための人々が待っていた。


 トリナは最後まで嫌な人だった。

 幼いころはフレーナ、トリナ、シーラの三人の女子で仲良くしていた。その三人に、今は村を出た男の子が混じってよく遊んでいて。


 きっと両親の処刑がなければ、今も仲が良かったのだろう。

 だが、あり得ない可能性を考えても仕方ない。


 フレーナは俯いたまま外へ向かった。


 ***


 神輿は一見にして豪華だった。

 しかし、よく見ると粗末なものだ。金細工の部分はメッキで誤魔化されているし、木材も高級な物に似た簡素な木材が使われている。

 ちなみに、フレーナが着せられているドレスも色々と安上がりになるように工夫されていた。


 村長は出発前に説明する。


「さて、フレーナよ。お前にはこの神輿に乗って、恵山の上に住む神の生贄になってもらう。我々の土地を守ってもらう代償として、二百年振りに贄を捧げることになる。くれぐれも神に失礼があってはならないぞ」

「はい。気をつけます」


 自分はまったく肉がついていないが、満足してもらえるだろうか。

 死ぬ間際にも、フレーナはそんなことを考えていた。


「しかし、お前を両親と共に処刑しないのは正解だったな。こうして使い道ができて、村のために役に立てるのだから」

「はい。今まで面倒を見ていただき、ありがとうございました」


 そういえば、今までフレーナが行っていた仕事は誰が引き継ぐのだろう。

 朝から晩まで死ぬほど仕事をしていた。それだけの労苦を、他の村人が背負わなければならないことになるが。


(まあ……どうでもいいか)


 どうせ自分は死ぬのだから、村のことなど考えても仕方ない。

 むしろ、できるだけシシロ村の人が苦しめばいいと思っている。


「さあ、ゆけ。お前の冥福を祈っているぞ」


 村長は心にもない労わりの言葉を吐く。

 フレーナは曖昧に頷き、神輿の中へと入って行った。

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