勧誘者
フレーナはメアと共に王都に出かけていた。
定期的に必要な物の購入や、メアの気分によって誘われて出かけることがある。
歩いているのは繁華街。
何度か王都に訪れたので、最初は慌てていたフレーナも少しずつ慣れてきた。
もうすぐ昼になろうかというころ。二人は食事場所を探していた。
普段はフレーナが食事を作り、たまにメアに食べてもらっている。
神殿に移住してからはまともな食材を使っているため、フレーナの健康状態もかなり改善されてきたようだ。
「昼は何にしようか?」
「うーん……アメ様は何がいいですか?」
「何でもいいよ……って、この返答が一番困るんだよな。正直、フレーナの手料理より美味い店は見つからないから」
「そ、そうですか?」
冗談だとしても嬉しい。
さすがに一流の料理人に敵うとは思っていないが、フレーナも苦労して調理スキルを磨いてきた甲斐があった。
「そこの御仁」
ふと、往来の中で声がかかる。
声をかけてきた人物は路地の中からメアに向けて手招きしていた。
赤みがかった長髪に瞳。
いささか奇妙なローブを着た男性だ。
メアは彼のことを不審に思いつつも歩み寄る。
「俺に用か?」
「纏う覇気より、ただならぬ人物とお見受けしました。
私は王家に仕える魔術師、名をアイネロ。異国出身ゆえ、妙な響きに感じるかもしれぬがご容赦を」
アイネロと名乗った人物は深々と礼をする。
赤い長髪がだらりと垂れた。
王家に仕える魔術師がどうしてこんなところに?
フレーナは首を傾げた。
「ひとつ、貴殿に頼みがあるのです」
「悪いけど、俺は暇じゃないんで」
「えっ!? アメ様、この人困ってそうですよ!? 王家の魔術師が困ってるくらいだから、すごく緊急事態かもしれないです!」
「……はぁ。わかったよ、話だけ聞く」
メアはフレーナの熱意に負け、アイネロの話を聞くことにした。
自分ひとりだったら間違いなく断っていたのに……と、メアは自分の変化にも同時に気づくのだった。
「かたじけない。アメ様、でよろしいか?
頼みごとというのは……」
「あ、ちょっと待て。せっかくだし昼飯食いながら聞こう。フレーナも腹減ってるだろ?」
たしかに、今にも腹の虫が鳴ってしまいそうだった。
アイネロの話を聞きながら食事をとるのが良いだろう。
「そうですね。お店はどこにしましょう?」
「ふむ。それならば私がオススメの店を紹介しましょう。代金も出させていただく。もちろん、頼み事の謝礼も別途に用意してあります」
「まだ引き受けるとは言ってないんだがな……」
***
アイネロに連れてこられたのは貴族街だった。
彼は検問をすんなりと通り、メアとフレーナも貴族街に連れて行く。
そして入ったのが見るからに高級そうなレストランだった。
メアもお金はあるものの、警備の問題でなかなか貴族街には入れない。
初めて入る上流階級の店に、フレーナは緊張していた。
「すごいですね、アメ様」
「うん。サービスの質が違うな。まあ、料理に関してはフレーナの作る物の方が美味いけど」
メアは高級料理を食べながら評価を下した。
いったい彼の中でフレーナの料理はどういう扱いなのだろうか……
「さて。そろそろ本題に入らせていただきましょう」
アイネロとそれぞれ自己紹介を終えたところで、本題に入る。
彼は懐から小さな包みを取り出す。
包みを解くと、中から紫色の輝石が出てきた。
「この石に見覚えは?」
「私はないです。宝石ですか?」
「いや、宝石じゃないよ。フレーナ、危ないからこの石には近寄らないようにな。
これは邪石と呼ばれる危険な物だ」
メアに忠告され、フレーナは慌てて身を引いた。
ほう、とアイネロは感心したようにうなる。
「ご明察。邪石と呼ばれる石ですが、これは危険な魔物を呼び寄せるのです。とある危険な団体がこれをロクミナ王国に撒いているようでして。アメ様には邪石を見つけ次第、回収を願いたいです」
「それくらい朝飯前だ。だが、邪石を撒いている連中を取り締まるのは無理だぞ」
「いえ、そこまでしていただく必要はありません。私どもの領分ですので」
危険な魔物を呼ぶ石。
魔物と聞いただけでもフレーナは身震いしてしまう。
「そういえば、シシロ村のあたりに闇縫い蝙蝠が出たが……アレも恐らく邪石の影響だろう」
「ふむ。シシロ村近郊に危険な魔物が出たと、クレースが言っていましたね。たしかに闇縫い蝙蝠はあの辺りに出ないはず。邪石は回収しましたか?」
「いや、見つからなかった。戻って探してみないとな」
アイネロはクレースと顔見知りのようだった。
曰く、クレースが休暇を利用して魔物の討伐に向かったとか。
「ちなみに、王城がシシロ村に応援を送らなかったのは事実なのか?」
「……不甲斐ない話です。我々も手が空いておらず、後回しになっていました。彼の地には命神の守護があるため問題ないと踏んでいたのですが……英雄クレースが制止を聞かず飛び出してしまったようです。彼の故郷ということもあり、我慢ならなかったのでしょう」
「そうか」
目の前にいるメアがその神だと知ったら、アイネロはどんな反応をするのだろう。
メアはシシロ村近辺の現状は問題だと考えていた。
なぜなら、神がいなければ誰もあの場所を守れないということなのだから。
「まあ、田舎の方も気にかけてやってくれよ。それじゃ、俺はシシロ村近郊の邪石回収に向かうから。フレーナ、行こう」
「はい。それでは、アイネロさん……」
「お待ちを。私も同行します。邪石があると半ば確定している以上、私もついて行った方がよろしいでしょう」
アイネロは同時に席を立った。
このまま邪石を放置しておけば、またシシロ村の付近に魔物が現れるかもしれない。
三人は急ぎ店を出た。




