いつもの朝
ひんやりとした空気を感じて、少女は目を覚ます。
季節は冬。静かな早朝だ。
「眠い……」
少女の名はフレーナ・シヴ。
金髪は毛先が乱れていて、元々の輝き失われてしまっている。
また、かつて深い青の瞳に宿していた光も失われていた。
布一枚を敷いた粗末な寝床に、隙間風が吹きすさぶ家。
冬なのでなおさら寒さが身にしみる。
辛い環境の中でフレーナは孤独に生きていた。
「家畜のお世話をしないとね」
彼女の暮らすシシロ村は、貧しい寒村だった。
それぞれの住民が役割分担をし、何とかその日を凌いで生きている。
中でもフレーナの役割は極めて多かった。
というよりも、押しつけられていたのだ。
家畜の世話に、作物の肥料の管理、水汲み、炭焼きなど……早朝に起きねば仕事は終わらない。
少女だからといって、重労働が免除されるわけでもなく。
フレーナは差別されていたのだ。
「……ぅ」
立ち眩みを抑えて、壁に手をついて立ち上がる。
ボロボロと木屑が天井から落ちた。
こうも苦しい生活に陥ったのは、両親が死んでからのこと。
かつてシシロ村に疫病を持ち込んだとされた両親は処刑され、フレーナは激しい差別に遭うようになった。
両親は何度も疫病を持ち込んだことを否定したが、村人たちは話を聞かずに処刑してしまったのだ。
行く当てもないフレーナは村に留まり、差別と貧困に苦しみながらも日々を生きている。
彼女は寝ぼけまなこを擦って牧舎へ向かった。
***
「……とりあえず家畜のお世話は終わった」
いつも通り作業をして、二時間ほど。
家畜の餌やり、掃除、農具の手入れなどを終えて……気づけば日が中天に昇りかけていた。
フレーナは倦怠感を振り払って牧舎を出る。
すると、二人の同年代の少女と遭遇。
「あら、フレーナ! 家畜の世話が終わったなら、早く農作業してよ」
「うわ、糞くさい……近づかないでよね」
一人は村長の娘、トリナ。
銀色の髪を長く伸ばし、村の中でも上等な衣服に身を包んでいる。
もう一人はトリナの友人、シーラ。
短く切りそろえた栗毛の髪に、緑色の瞳。
内気な性格でいつもトリナと一緒に行動している。
「トリナ、シーラ……」
「何? なんか言いたいことでもあるわけ?」
「う、ううん……なんでもない。農作業、行ってくるね」
トリナの強気な態度にフレーナは後退る。
昔はよく一緒に遊んでいたが、今ではこの関係性だ。
両親の処刑を契機に、何もかも変わってしまった。
今では彼女たちを友人などと呼べない。
できるだけ関わりたくないフレーナだが、シシロ村は狭いのでどうしても顔を合わせてしまう。
「あ、そうそう。フレーナ」
去って行くフレーナを、トリナが呼び止める。
「農作業が終わったら、お父さんの家に行ってよ。話があるってさ」
「うん……わかった」
村長が話とは珍しい。
フレーナは村では話すことすら忌避されているのに。
不安を抱えつつ、フレーナは農作業に向かった。