格子ごしの夜空から来たキラリ
今夜もその男の子は、小さな小屋の高い格子の窓から星空を見上げていました。
「流れ星が見えますように。流れ星が見えますように…。」
自分にしか聞こえない声で彼は唱えました。
流れ星をみたらきっと幸せなことが起こると信じていたからです。
しかし、その窓は夜空を眺めるにはあまりにも小さく、そして彼には高すぎたのでした。
ですから、格子越しの星空はとても狭く、ましてや流れ星を待つ彼には絶望的でした。
たとえそうだとしても、男の子には、流れ星を初めて見た日の母との幸せな思い出が、彼をそうさせずにはいられなかったのです。
その窓から容赦なく入ってきた夜の冷たい風が、男の子の体を冷たく冷やしていきます。
「流れ星を見つければ、きっと母さまは来てくれる。」
そう祈りながら、震える両手を胸の前で組み、男の子は、小さな夜空を眺めました。
どのぐらい時間が経ったのか。
男の子の足は立っていられなくなり、ふらりと体が床に向かって傾きかけたその時、男の子は、一瞬目を見張ったのです。
「あ…。」
しかし、彼の目は一瞬、流れ星をとらえると、そのままゆっくりと閉じられてしまいました。
そして、同時に彼の体は冷たい地面にばさり、と倒れてしまいました。
ん…?
あたたかい…。
背中に何かの温もりを感じた男の子は、ゆっくり目を開きました。
それは、彼がずっと待っていた温もりでした。
そして、男の子は、その温もりが誰かに背中から抱きしめられているからだと気づました。
「母さま…?」
重い首を精一杯動かして温もりの正体を見ようとしましたが、男の子にはもう、そうする力も残っていません。
彼は、途中でその努力を諦めました。
後ろから温めてくれているのは、彼の母としか考えられなかったからです。
ここに入ってくるのは、母さまだけだもの。
「母さま…、さっき流れ星を……見たんだよ…。」
「だから…だから…、母さま…が…来て…くれたんだね。」
母さま、待ってたんだよ。
ずっと待ってたんだよ。
来てくれてありがとう。
母さま、だいすき…
「母…さま…。」
男の子は母の返事を待ちましたが、母の声を聞くことは叶いませんでした。
そして、男の子はそのまま、母との幸せな夢を見ながら深く永い眠りについたのでした。
―――二年前の夜。
男の子は、母と初めて街のお祭りに来ていました。
賑やかな音楽に沢山の珍しいお店。
母と歩いているだけで、それはもう、楽しい夜でした。
そして、母は男の子に星の形のアメを買ってくれました。
「これ食べていいの?」
「もちろんよ。」
絵本で見た魔法のつえのようなそれを、彼はペロリと舌でなめて満足そうにしました。
それから、彼はそのアメのスティックをぐるりと一振り回してみせました。
「うれしいこと、たくさん起これー。」
すると、アメを振りかざした夜空の先に一筋の流れ星が流れていったのです。
キラリは、幸せなそうな表情で眠る男の子を確認すると、彼からそっと離れました。
そして、水の子キラリは、あたたかい水の光を男の子の体にふらせてあげました。
それはまるで、数えきれない流れ星が男の子に降り注いでいるようでした。
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