キラリの生まれた日
沙 励按 (シャ リアン)と申します。
初めて童話を投稿しました。
この作品は、別で投稿しています
『日陰ぼっこ〜桜の木陰で君と未来を語ろう〜』
の中で主人公の愛読書としている本の元になるお話ともなっております。
…想像してみて
…想像してみて
あなたが生まれる前のお話を。
地球の空の上のもっと上の、宇宙のもっともっと遠くに天鵞絨色の世界がありました。
真っ暗ではないけれど、とても深い緑色に青を一滴滴らしたような空間が見渡すかぎり広がっています。
何もないように見える空間ですが、ときどき小さくきらりと光る光の粒が生まれるのが見えます。
柔らかい新緑の緑の葉っぱの先から、雨粒がしたたり落ちるように生まれるその光の粒は、流れ星のようにどこかへ一直線に向かいます。
その光をずっとずっとたどっていくと、きれいな、かすみ色に輝く地球という星に消えていきました。
「あ、流れ星。」
ひとり呟いたのは、その光を夜の地球から眺めていた男の子でした。
しかし、その流れ星の光は、その男の子の方へ一直線に向かって来るではありませんか。
それに気付いた男の子は、よけようにもよけきれず、ただそれを受け入れるしかありませんでした。
その光はというと、男の子の頭の上で一瞬ぴたりと止まったかと思うと、小さなたくさんの雨粒に姿をかえたのでした。
男の子に降り注いだ雨粒は、あっという間に彼をびしょ濡れにしてしまいました。
ちょうど男の子は、暑い夏の夜を眠れずに過ごしていましたから、シャワーを浴びた後のように気持ちよく感じたのでした。
「はぁ、気持ちいい。」
雨粒が止むと、男の子は、目を閉じて両手で顔を拭いました。
ところが、拭い終わって顔を上げると、男の子の目の前に女の子が一人立っているではありませんか。
女の子は、にっこり笑いかけると、男の子の手を取って、駆け出しました。まるで、一緒に遊ぼう、とでもいっているように。
男の子は、女の子と辺の原っぱでしばらく駆け回り遊びました。
「あぁ、楽しい。僕、キラリみたいな友達がずっとほしかったんだ。」
そう言っても、返事はなく、女の子はただ笑いかえすだけでした。
そうです。女の子は、しゃべることもできないし、ましてや言葉もわからないのです。
「キラリ。」
そう男の子が名付けた女の子の名前を呼ぶと、男の子は、ポケットから一口分のパンくずを取り出しました。
「あれ、パンもびしょ濡れだ。」
男の子は、その一欠片のパンをさらに半分にすると、片方をキラリの手にのせ、もう片方のパンをぱくりと自分の口に運んでみせました。すると、キラリも同じようにまねをしました。
「誰かと食べるのって嬉しいね。」
その後も二人は、もう動けなくなるまで夜通し原っぱで遊びつくしました。
そして、疲れると、二人は満天の星空を見上げて草の上に寝ころびました。
しばらく二人はじっと夜空を見つめていました。男の子は、ゆっくり目を閉じました。
夏の夜の虫の声も、近くの街の音も聞こえず、辺りは静まりかえっています。その異様なまでの静けさに男の子は、急にひどく寂しさを感じました。
「キラリは、帰らなくていいの?」
返事がないのは、分かっていたけれど、男の子はキラリに聞きました。そして、夜空を見上げたまま、となりに触れたキラリの手に振れました。
「今夜は、僕と一緒にいてくれて、ありが…と…う…」
どんどん小さくなる男の子の声に、もちろん返事はありません。
その男の子は、その後、寝息も立てず幸せそうに眠りにつきました。
それを確認したかのように、二人に朝日がふりそそぎました。
そして、キラリは男の子の横で再び水に姿を変え、朝日に散って行ったのでした。
読んで頂きありがとうございました。
冬の童話祭2022投稿しています。
『日陰ぼっこ〜桜の木陰で君と未来を語ろう〜』
も宜しくお願いします。