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2-22:2つの小人

 西ダンジョンから戻ってきた僕達は、状況をパウリーネさんに報告した。

 アルヴィースという次の目的地に驚いていたようだけど、すぐに了承してくれる。西ダンジョンに現れたゴーレムについても、迷宮を封鎖して調査が入った。

 僕は、戦士団が『迷宮調査の専門家』なんだって、改めて感じた。

 彼らは迷宮についてかなり知識がある。開いた未踏エリアへの通路を魔法で塞ぎ直したり、ボス部屋の一つを完全に封じてしまったり、色々な手段を持っているみたいなんだ。

 数日で同じようなゴーレム核が他のボス部屋に転がっていたことが判明して、その調査も終わってから、やっと迷宮は冒険者に解放された。


 そう、数日だ。

 正確に言えば、西ダンジョンに僕が入ってから今日で4日目の朝になる。

 その間、僕はルゥや母さんと過ごした。


 鴉の戦士団の拠点には、秘密の書斎がある。

 本当の神話に関する王族の記録や、オーディス様の言葉が残されている。

 僕もルゥも何冊かを借りて調べ物をさせてもらった。出発まで鴉の戦士団にも準備が必要だったから、幸いにして時間はある。

 2日目なんて、部屋中の本をひっくり返したうえで、神様を『封印解除』。みんな総出で本を読んだ。

 秘密にされるかもなんて思ってたけど、パウリーネさんは「好きにどうぞ~」といってくれた。王女様って、東ダンジョンで見た態度が素のような気がする……。


 本を読む以外は戦士団の人と修行をしたり、神様、特にトールに稽古をつけてもらったり。

 王都に残してきた知り合いに挨拶をするのも欠かすわけにはいかなかった。『神様の起こし屋』をやるから、もう『王都の起こし屋』として大家さん達を起こしてあげることはできないから。



「……王国の神話って、けっこう詳しく残ってるんだな」

「うん……」


 今朝は、ルゥと一緒に勉強したことを整理する。

 まだ肌寒いから2人で毛布を共有して、同じ机に置いた羊皮紙を眺めていた。

 魔石のランプが、時折ロウソクみたいに灯りを揺らす。ここは半分だけ地下になっていて、天井近くには曇りガラスの窓。その向こうはまだ暗い。

 ルゥが毛布の下から右手を伸ばして、文字をなぞる。

 人差し指の先に包帯があった。ルゥは慌てて手を引っ込め「何でもないよ」と空色の瞳を揺らす。


「こ、こほん。読むね、お兄ちゃん。神々の封印が世界を覆った時、別の神様が氷の寒さから人間を守ってくれた……」


 古い巻物で見つけた一文が、羊皮紙に書き写されている。

 ただ、この神様――女神様らしいんだけど――は、ここにしか出てこない。


「ううむ、誰なのだろうな……」


 人形サイズで外に出ているソラーナ。

 そんな女神様もふよふよ浮きながら首を傾げている。

 本や神々の言葉からは、小人のこともわかった。羊皮紙にはそれもメモしてある。



 小人……

 神々や人間よりも小さな存在。

 鍛冶や細工を生むのが得意で、多くは神々の同盟者。

 光の小人(または白小人)と呼ばれるアールヴと、

 闇の小人(または黒小人)と呼ばれるドヴェルグが存在する。



「あやつらはなぁ……」


 うーむ、とソラーナは腕を組む。

 僕らを心配してか、女神様はこの滞在の間も小さい姿でよく出てきてくれる。『優しい最強を目指す』と誓ったソラーナは、やっぱり特別な絆みたいだ。

 女神様は羊皮紙にちょこんと乗って、指を立てた。


「言ったかもしれないが、まず腕がいい。それは間違いない。ただ……」


 言いよどむ先を、僕は言った。


「狡猾、なんだよね」

「うん」


 ソラーナは首肯した。


「特に闇の小人――ドヴェルグの方は神々に様々な武器をもたらす一方で、取引をもちかけた。神々を裏切ってゴブリンなどの魔物になってしまった小人も、大体は黒い方の小人なんだ」

「ええと……」


 神様からの話、それに神殿に残っていた情報を整理する。

 光の小人はおとぎ話の『妖精』といった方がしっくりくるかもしれない。

 薄い羽を持っていて、体は人間の子供くらいまでしか成長しない。

 特技は魔法を活かした『細工』。


 闇の小人の方も背丈は同じだ。けれども羽はなくて、代わりに力が強い。

 特技は力を活かした『鍛冶』。


 2つの小人と、2つの特技。

 僕は腕を組んで、視線を天井にやった。


「細工と、鍛冶か……」


 まるっきり、これから行こうとしている鉱山街アルヴィースの特産と同じだ。


「うむ。小人というが、神々に匹敵する力を持った者もいる。半神かつ半人、あるいは半神半魔……2つの面がある存在だ」


 ソラーナの言葉が確かなら、油断できない相手ってことだよね。

 女神様は指を立てた。


目覚ましの角笛(ギャラルホルン)のことも何かわかるかもしれない。職人であるからね」


 僕はポーチをさすって、中にある角笛を確かめる。

 『あらゆる眠りを解除する』能力も、全力を発揮するには神様の道具が必要なんだ。


「職人の国ってことだね」


 空色の瞳を輝かせてルゥがまとめる。

 元気になったせいか、こうやって色々なことを言って僕を助けてくれる。

 それが温かくて口元が緩んだ。

 ソラーナもほほ笑んで、大きく頷く。


「そうだ。小人が仲間になれば、大きな可能性がある。例えば神話時代の武具を再現し、それを戦士団に装備させることさえ可能だろう。もちろん、リオンの武器も強くできる」


 胸がまた少し熱くなった。特別な武器って、冒険者として憧れでもあるから。


「魔神ロキの西ダンジョンにもあった魔法文字――ルーンだが、武器や道具に刻む技術は、小人が専門だ」

「ロキより……」

「得意なはずだ」


 それ、とんでもない……。分野によっては神様以上の実力ってことか。

 奴隷商人と戦うのに、かなり心強い味方だろう。

 身震いする僕を置いて、ルゥが大きな目をきらきらさせていた。


「王様はいたの?」

「うむ。小人王が彼らを治めていたぞ」


 なぜか胸を張るソラーナに、僕とルゥは視線を交わしあった。


「「こ、小人王……」」


 声が揃う。

 それ、すごいんだろうか? そうじゃないんだろうか……。

 ……いや、力を聞くと、とてもすごいんだろうけど。

 穏やかな時間はすぐに過ぎてしまう。

 鐘の音が聞こえてきた。曇りガラスもすっかり明るくなっていて、そろそろ外へ出る時刻だって教えてくれた。


「……行くね」

「お兄ちゃん」


 毛布から出ると、ルゥの小さな手が袖を引いた。


「出発だよね?」

「うん」


 ルゥも立ち上がった。

 今日は、旅に出る朝。

 僕はルゥと向き合って、お互いの姿を覚えあうみたいに、見つめあった。

 いつもの冒険とは違う。朝に「いってきます」して、夜に「ただいま」をする迷宮探索じゃなくて、馬車で街道を進む旅路なんだ。


「……体は平気なんだよね」

「うん。お兄ちゃんが、迷宮で大きな魔物を退治してくれたおかげかも」


 ルゥや母さんともしばらくはお別れだ。『神様の起こし屋』として、一人の冒険者として、僕は王都から旅に出る。

 ルゥは、オーディス神殿の装束から何かを取り出した。


「これ……」


 革でできた小物だ。手のひらサイズで、まん丸の革と、半月型の革とを組み合わせた形をしている。

 丁度コインがすっぽり収まる形の――ケース、だろうか。


「神様達の金貨を入れるの、作ってみた」


 ルゥは昔から小物を作るのが得意だった。

 僕はルゥの怪我した指を思い出す。


「……さっきの人差し指」


 僕が思い出すと、ルゥは大きな目をくりくり泳がせた。


「あ、あ~。久しぶりだったから」

「ありがとうっ」


 袋には丈夫なひもがついていた。これなら、服に結んでおけばいつでもコインを取り出せる。

 半月型の袋から金貨が飛び出さないように、革ひもとボタンで押さえる作りだった。金貨の上半分が露わなのは、封印解除する時に僕の指が触れるようにだろう。

 人形サイズのソラーナがふわりと飛び上がり、ルゥと目線を合わせた。


「ありがとう、ルイシア!」


 金貨の中からトール、ロキ、ウル、シグリスもそれぞれに礼を言う。


「いいえ。お兄ちゃんのこと……よろしくお願いします!」


 ルゥは立って深々と頭を下げる。

 神殿の白い装束が少し眩しい。僕なんかが生意気かもしれないけど、こういうのが大人びて見える――ってことなんだろうか。


「人は成長が早い」


 ソラーナがちょっと呟いて、空中でくるりと回った。

 僕らを祝福するみたいに黄金の光が舞う。


「太陽の女神として約束しよう。大丈夫だと。君のお兄さんは強い、そして私達もついている」


 ケースに金貨を収めた。

 入口から人がやってきて僕らを呼ぶ。

 階段を上がって外へ出た。寒い風が顔にあたるけれど、それ以上に、朝日の明るさと温かさが心地よかった。

 きりりと冷えた外気だけど、空は晴れ渡っていて、きっと1日中天気はいいだろう。


「いってらっしゃい、リオン」


 母さんも見送りに来てくれていた。僕をぎゅっと抱きしめる。


「冒険をしていらっしゃい」


 頷いて、僕は馬車へ向かう。

 荷台がむき出しになった荷馬車と、小さな部屋を引いているような箱馬車が、それぞれ数台ずつ僕を待っていた。

 パウリーネさんがロッドを揺らす。


「準備はいいですね? あなたに言うのもなんですが……主神のご加護がありますように」


 フェリクスさんはもう箱馬車に乗り込んでいて、こっちを見ている。

 ミアさんも一緒だ。西ダンジョンに行ってから、正式に鴉の戦士団に雇われたんだ。

 僕は馬車のステップに足をかけた。


「いってきます!」

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